【第24話】キューちゃんと魔物狩り
翌朝、俺とユウはキューちゃんを連れて冒険者ギルドを尋ねる。
手頃な討伐依頼が出ていないか確認だ。
早朝のギルドは割のいい討伐系依頼にありつこうと、多くの冒険者で賑わっていた。
俺とユウもその喧騒の中へと飛び込む。
「フォレストベアー緊急討伐依頼、これなんてどうですか?」
「フォレストベアーがどんな魔獣かわからないから、判断しづらいな」
ユウと俺が依頼書を見ながら相談していると、後ろから肩を叩かれた。
「今日から二人で討伐か?
しかし、ワタルはまだしも、ユウにはその依頼はちょっと厳しいかも知れんぞ」
カイシーギルド長だった。
「カイシーさん。忠告ありがとうございます。
それで、『フォレストベアー』ってどんな魔獣なんですか?」
ユウの疑問にギルド長が答える。
「そうだな、成体は体長5メートルに迫る大きな熊だ。
今回はその群れが確認されている。
と言っても、若い雄が3頭の小規模な群れだが……、少なくともベテランの冒険者が、フォレストベアー1頭に付き3人は欲しい依頼だ。
お前達は従魔のナインステイルフォックスを入れても二人と一匹だ。
やめておいた方がいい。
昨日から張り出されているが、9人を越えるような大所帯のパーティーが今いないこともあって、誰も引き受けずに残っている依頼なんだよ」
どうやら、俺たち向きではないようだ。
「それなら、何かお勧めの依頼はないか?」
俺の質問に少し考えて、カイシーギルド長は一つの提案をしてきた。
「一番お勧めは、常時依頼の町周辺にいるモンスター討伐だな。
初心者向きで、スライムがほとんどだ。
たまに出ても、ゴブリンで、上位種やオークなんかはほとんど遭遇しない。
一体当たりの報酬は少ないが、最近魔物の数が増えているから、以外と稼げると思うぞ」
確かに、スライムとゴブリンなら、ユウの初陣には無難な線だろう。
「わかった。俺はそれでいいと思うがユウはどうだ?」
「僕も、その常時依頼でいいと思います」
俺が承諾すると、ユウも同意してくれた。
俺たちは今日も受付に座っているエリーさんに常時依頼を受けると伝える。
常時依頼は、ボードから依頼票を剥がす必要も無く、失敗したときのペナルティーもないので気楽な依頼だ。
しかし、報酬は少ないので、頑張って数を稼がないと一日の生活費が赤字会計となる。
「そうと決まれば、早速出発だ」
俺たちは、最近スライムやゴブリンをよく見かけるという東の草原へ向けて出発した。
町の北門を出て、そのまま城壁沿いに右の方向へ進む。
途中に生えている常時依頼の薬草を採取しながら、100メートルほど歩くと、早速城壁の近くに第一目標を発見した。
スライムである。
スライムは物理攻撃より魔法攻撃に弱い。
物理攻撃では核を潰さない限り倒せないが、中心近くにある核を攻撃するには、ゲル状の透明部分を削らなければならない。
もちろん、突き系の技で一気に貫くことが出来れば倒せるのだが、スライムボディーの中を流動している核に、ピンポイントの突きを放つには相応の技量が要求される。
結果、駆け出しの剣士は地道にゲル状ボディーを削って倒すことになる。
その点、魔法が使えれば簡単にけりがつく。
例えば火の魔法で燃やせば、スライムのボディーごと核を攻撃出来る。
土魔法で地面から尖った岩をはやせば、串刺しにして身動き出来ない状態で攻撃出来る。
全体を凍らせて砕くことも可能だ。
「ユウ、いけるか?」
松葉杖をついて後ろからついてきていたユウに向かって問うと、ユウは静かに頷いて集中し始める。
右の人差し指をスライムに向けて伸ばし、魔力を指先に集中させているようだ。
「ブライトショット!」
ユウが言葉を発すると同時に、白色の光線が右人差し指から発射され、一瞬の後、スライムの核を貫いた。
スライムは核を貫かれたことで動きを止め、光の粒となって消滅する。後には小さな魔石が一つ残った。
「ユウ、すごいじゃないか。
最小限の魔力で核を狙い撃ちとは……」
「ありがとうございます。
スライムは離れているとき、あまり核を動かさないので、遠距離から瞬間で攻撃出来れば核を破壊するのもそう難しくはないんです。
中級講座で出てきた知識を早速実践してみました。
それにしても、一発で仕留められたのはラッキーでした」
ユウの使った魔法は、光の初級攻撃魔法なのだそうだ。
普通はあまり大きな攻撃力を持たないのだが、透明なところを通り抜け、不透明部分に大きなダメージを与えることが出来るので、コントロールに問題が無ければ、スライムを狩るときに最適な魔法と言える。
それにしても、核を一瞬で貫通した威力は、初級魔法にしては大きすぎるように感じる。
やはり、ユウの勇者としての力が働いているのだろう。
そんなことを考えながら先を急いでいると、またスライムが現れる。
俺より先に気がついたユウは、松葉杖を左に寄せて体重をあずけ、先ほどと同様、右手で光魔法を使って難なくスライムを消滅させる。
魔石を拾うのはキューちゃんの仕事になったようで、俺たちの後ろからトコトコついてきていたキューちゃんは、スライムの魔石を草むらの中から探し出してくわえてくる。
「偉いぞ、キューちゃん」
俺に魔石を渡しに来たキューちゃんの頭を撫でてやると、キューちゃんは嬉しそうに9本のシッポをゆらゆらさせた。
ユウの移動速度に合わせているので、比較的ゆっくりと進んでいるが、それでも一時間もすると、魔物が増えているという東の草原へ到着した。
ここに来るまでにスライムばかり7体ほど倒しているが、いずれも単体で出現したため、ユウの光魔法で一撃だった。
「さて、この辺りが東の草原だと思うが……」
「そうですね。さっきより空気中に充満している魔力が濃いような気がします」
ユウの言う通り、あくまで感覚だが、この辺りの魔力はかなり濃いように感じる。
「あっ、いました。
一度に3匹です」
そう言うと、一つ向こうの草むらの影に、三体のスライムが潜んでいることをユウが見つける。
「確認した。
手伝う必要があるか?」
「たぶん大丈夫と思います」
俺の問いかけに力強く答えたユウは、右手の人差し指、中指、薬指を立て、それぞれの指の先端に魔力を集中させる。
爪の先に白い光が輝いた瞬間、発動のキーワードが紡がれる。
「スプリットショット!」
3つの光線が放たれ、3体のスライムに命中し、その内2体が消滅する。
残る一体は、光線が核を掠ったが、破壊には至らず、形状を波立たせながらボディーの穴を修復していく。
「すいません、1体、外しました」
「いや、いきなり3本の光線を発動しただけでもたいした物だ。
それに、残った1体も核には当たらなかったが、ボディーには命中はしている」
俺たちが残るスライムから目を離さずに言葉を交わしていると、光の粒子になった2体のスライムの魔石を回収しようとキューちゃんが走り出しているのに気がつく。
「キューちゃん、まずい。
あと、1体はまだ無事だぞ!」
俺は慌ててキューちゃんに警告するが、聞こえているのかいないのか、キューちゃんはそのまま生き残ったスライムの方へ走っていき、接敵する瞬間に反転してシッポでスライムを叩いた。
9本のシッポの先端に小さな火炎が見える。
瞬間、スライムが炎の塊になって消滅する。
どうやら、キューちゃんの火魔法、狐火が発動したようだ。
キューちゃんはシッポに炎の魔力を纏わせてスライムに攻撃したのだ。
キューちゃんは何事もなかったかのように、スライムの残した小さな魔石を3個くわえて帰ってきた。




