【第15話】ギルドマスター+ギルドマスター+侯爵家代表
午後の話し合いは16:00から行われた。
カイシーギルド長にはエリーさん経由でユウの参加を打診してもらった。
ユウと俺が会議室へと入室すると、そこには既に3人の人物が席に着いており、エリーさんが冷たい紅茶を出しているところだった。
カイシーギルド長と商業ギルドのイノーギルド長、それに知らない初老の紳士の3人だ。
「おお来たか、ワタル。
ユウもお前の関係者と言うことで特別に傍聴を許可する」
「ありがとうございます」
俺は礼を言うと、知らない人物が一人いることから、初老の紳士に向かって自己紹介をする。
「先日公爵家の召喚魔法に巻き込まれてこちらで冒険者をすることになりましたワタルと言います。
よろしく頼みます」
「同じく、ユウです。
よろしくお願いします」
偉そうな人なので一応敬語を使ってみる。
「ああ、ウインザー侯爵家の執事長、兼、ウインザー侯爵軍の参謀長を務めているゴルドーと申します。
冒険者の方は敬語を使うのが苦手な方も多いと聞きます。
この場は普段どうりでかまいませんよ」
「ああ、助かる」
許可も出たことで、俺はいつもの口調にもどす。
「それでは、もう一度みんなの前で説明してもらえるか」
カイシーギルド長に促され、俺は昨晩の出来事をできる限り詳細に説明した。
「つまり、この世界の魔王が魔族の召喚を行ったか何かして、ワタルの世界の化け物をこちら呼び出しているということだ」
カイシーさんが要約すると商業ギルド長のイノーさんがため息をついた。
「このところ増えている街道での魔物の活発化も絡んでいるかも知れないね」
イノーさんの言葉に皆が頷く。
「魔石の大きさからして、こちらに召喚されているワタルの世界の化け物は中級から最上級の魔物相当だ。
下手な冒険者や兵士では対応出来ない可能性もある」
イノーさんを見ながら冒険者ギルド長のカイシーさんが余裕のない表情で続ける。
大きな魔石を残したカメロケットランチャーが最上級の魔物相当、極悪猛毒ガス仮面が召喚した雑魚の戦闘ゴブリンが中級の魔物程度と言うことだろう。
「冒険者ギルドは現在手薄な状態と言うことでしょうか」
ゴルドー参謀長が聞くとカイシーさんは少し考えてから返答した。
「通常の任務に当たる程度なら問題ないさ。採集業務も討伐業務も滞ってはいない。
しかし、これだけの大物が複数同時に現れるとなると、厳しい」
カイシーギルド長の眉間には深いしわが見てとれる。
「ワタル、質問がある。
お前がこれらの魔石を持って来たと言うことは、お前がこれらの魔物を倒したと言うことか」
答えにくいまじめな質問がカイシーギルド長から飛んできた。
一瞬の逡巡の後、俺は口を開く。
「確かに、倒したのは俺ですが、厳密には実力で倒した分けではありません。
現在の俺の力だけではその一番小さい魔石の魔物は倒せるとしても、次の大きさの魔石を残した戦闘オークは少し危ないかも知れません。
増して、一番大きい魔石と次の大きさの魔石の怪物は、今の俺では手に余ります。
今回、強い2体を倒せたのは、奴らの同士討ちのようなものに便乗したに過ぎません」
俺は、変身していない素の状態での戦闘力を元に、自己分析した結果を伝え、最後は少し嘘を混ぜる。ここで俺の変身能力、カラフルブルーやZ3の力を公にしたくはないからだ。
「そうか、それでも中級の魔物を楽に屠れるとなると、冒険者としてはベテランの域に達していると考えていいだろう」
「ありがとうございます」
カイシーギルド長の言葉に例を述べる。
「そこで相談だが、商業ギルドから出ていた町の巡回の仕事を拡大して続けてくれないか。
これは、商業ギルドと、ウインザー家の意向でもあるし、報酬は商業ギルド、冒険者ギルド、ウインザー家の三者で責任を持って支払う。
もちろん、戦闘が発生したときの追加報酬も準備する」
「なるほど……」
俺は少し考えるが、これは断る要素がない話しように感じる。
そもそも、俺の世界の俺が倒した魔物がこちらで迷惑をかけていると言うこともあり、もし、他の怪人も召喚されているなら何とかしなければと言う思いもあった。
俺が黙ってしまったのを見て、断られるかもと思ったのだろうか、イノー商業ギルド長が口を開いた。
「たのむ。ワタルくん。
町や街道の安全はそのまま商業活動に影響する。
報酬は夕方5時から翌朝7時まで14時間勤務で15000ドン支払おう。
今回のように戦闘が発生した場合は、魔石の買取とは別に、魔物一体に付き強弱を問わず1000ドンの追加も支払う。
引き受けてくれ」
勤務時間が2時間延びて、報酬は1.5倍。
悪くはないが、一日14時間は長い。
「途中で適宜休息を挟んでいただいてけっこうです。
夕方や朝は町の周辺、夜は町の内部を中心に巡視していただけないでしょうか」
ウインザー家のゴルドー執事長からも依頼される。
「この仕事についていただいている間の宿泊は、ウインザー家の別邸を使っていただいてけっこうですので、是非前向きなご返答を」
宿泊費が浮くのは助かるが、いささか好待遇過ぎないだろうか。
「わかりました。お引き受けする方向で考えたいと思いますが、いささか好条件過ぎるのではないかと……」
俺が疑問を口にすると、二人のギルド長と執事の3人はお互いの顔を見回した後、視線を俺に向けてニカッとする。
そして、三人を代表してカイシーギルド長が口を開いた。
「それはもちろん、お前の能力を高く買っているからさ。
他の冒険者が2人がかりでなすすべもなくやられた相手に、運があったとはいえ無傷で勝っているんだ。当然の評価だろう。
それに、冒険者には他の奴に言えない秘密の一つや二つあるのは当然だ。
これは俺の感だが、お前には見た目以上の力を感じるんだ、ワタル」
『なるほど』と俺は納得した。
流石は冒険者のギルド長だ。俺の中の2つの力に感づいたのかも知れない。
それに、秘密があるのをそのままにしてくれると言うことなら俺に言うことはない。
「わかりました。それでは早速今日から巡回しましょう」
「ありがとうございます。
屋敷にお二人の部屋を用意しておきますので、まずは宿から荷物をお移しください」
「わかりました。こちらこそお世話になります」
ゴルドー執事長の言葉に頷きながら返事をする。
俺たちは取りあえず部屋を辞し、一旦宿へと向かった。
宿への道すがら、ユウが話しかけてくる。
「ワタルさん。
僕は明日から初心者講習が修了したので少しずつ活動したいと思っていたところです。
昼間は魔法の中級講習があるので、夜中の巡回は無理ですが、出来れば朝か夕方の巡回には同行させてもらえないでしょうか」
「ああ、それはかまわないが、ユウは足の件もあるので、かなり制約を受けることになると思う。
夕方の巡回は少し遠いところまで考えているから厳しいと思うが、明け方は城壁の外周を巡視する予定だ。
よかったらそちらに付き合ってくれないか」
「わかりました。
買ってもらった松葉杖になれるためにも、朝の巡回にご一緒させてください。
出来れば採取以来なども同時にこなしたいと思います」
「わかった。
それでいつから参加する?」
「出来れば明朝から」
俺は明日からの朝の巡回にユウのリハビリを兼ねることを了承し、二人で宿をウインザー家別邸へとうつした。
ノースウインザーのウインザー家別邸はこの街の役場も兼ねていると言うことで、なかなかの大きさを誇っている。
民衆同士の諍いの仲裁や裁判、町の税の取り扱い、住民登録、インフラの補修など、なかなかしっかりと活動しており、町並みこそ中世のヨーロッパを彷彿とさせるが、役所の仕事内容としては現代日本に通じるところがある。
役場に来て驚いたのは、役場内は上水道が完備されていたことだ。
話を聞くと、井戸から地下水を汲み上げ、屋上の貯水タンクから水を供給しているという。
屋上のタンクへ水を運ぶのは、足踏み式のポンプを使うか、水の魔法使いがいるときは魔法で汲み上げることもあるそうだ。
流石にセンサー式での自動給水はないが、蛇口をひねって水が出てくるありがたみを久しぶりに感じることが出来た。
侯爵家の住居スペースは、町民に開放されている役場スペースのは別棟で、役場の奥に貴族然とした2階立ての洋館が佇んでいる。
落ち着いた煉瓦造りで、入り口のドアの装飾もしっかりと施されており、ウインザー侯爵家の財力が窺える。
俺たちは2ベットの客室を宛がわれ、荷物を置いた後は早速夕食に招待された。
現在、ウインザー家の主は領都におり、長男のキャスバル侯爵子も長女のアルテーシア嬢もこの街には滞在していないので、俺とユウのみがテーブルに着く。
メイドさんがディナーを運んでくると、ゴルドーさんが壁際に直立して礼をし、食事を取るように促してきた。
「ゴルドーさんは食べないのですか」
ユウが尋ねると、首を横に振りながらゴルドーさんが答える。
「ここでは私は執事ですので、主やお客様方とご一緒することは控えさせていただいております」
「それなら、普段はどうされているのですか」
ユウの疑問に淡々と説明する。
「普段は使用人用の食堂で食事をしております」
「それなら、俺たちも同じでいい。
俺たちも侯爵家やギルドに雇われた使用人だ」
俺の言葉にちょっと驚いた表情をしたゴルドーさんはにこやかに表情を変えると頷く。
「承知いたしました。
明日からはお二人もこの奥の従業員用の食堂でご一緒しましょう。
しかし、今日のところは、きちんと歓待させてください」
そう言いながら、グラスにワインのような赤い酒を注ぐゴルドーさんに頷きながら、俺たちはディナーをいただいた。
前菜から始まり、メインの豚肉風ステーキ、デザートはクリームののったゼリーのような甘味。
この世界に来て、初めての本格的なごちそうだった。
食事を取った後は、俺だけが巡回に出る。
まずは夜8時くらいまでは町の外を、その後夜中は町中を巡回だ。
取りあえず極悪猛毒ガス仮面達を倒したので、怪事件もなりを潜めているが、次はいつどこで新しい事件が起きるかわからない。
休憩を挟みながら巡回し、朝5時にユウが合流した後、2時間ほど城壁の外を巡視する。
ユウは松葉杖にも慣れ、俺が普通に歩くくらいの速さでならついてこれるようになっている。
さすがは本来勇者として召喚されただけのことはある。
さぞかし優秀なスペックなのだろう。
流石に失礼になると思って、ユウに対して鑑定を使ったことはないが、日に日にユウから感じる魔力や強さが大きくなっている。
巡回を初めて5日目、もう何も起こらないのではないかと気が緩みかけていた夕方にその事件は起こった。
いつも通り、夕方の巡回で町から少し離れた街道を中心に見回っていたとき、草原の向こうからかすかな悲鳴が聞こえたような気がした。
俺がそちらを注視していると、3人の冒険者が口々に助けを求めながら走ってくる。
「た、助けてくれーーー」
「ば、ばばば、化け物だーー」
「化け物が出たーーー!」
草原から街道に出てこちらにかけてくる冒険者達の言葉が聞き取れた。
彼らは俺の存在に気づくと、一斉にこちらへ走ってくる。
「あんたも冒険者か。
腕に覚えはあるか?」
「ああ、それなりにはあるぞ」
俺が答えると、三人は顔を見合わせて真顔で相談してくる。
「それなら、頼みがある。
仲間の剣士がしんがりを務めて化け物を食い止めているんだが、4人でも無理な相手だ。
正直勝てるとは思えない。
もし、腕に覚えがあるなら助けに行ってくれ。
ただ、奴らは強い。
特に頭に変な金属の輪っかを巻いた奴は規格外だ。
かなわなそうなら逃げるしかないが、できれば俺たちの仲間を何とか救出してくれないか」
「わかった。まかせろ」
「助かる。俺たちは町の警備兵に連絡する。
仲間の剣士はガークって言うんだ。頼んだぞ」
男達はそう言うと町の方へと再び走り出す。
俺は剣士ガークの無事を祈りつつ、男達がきた方向へと走り始めた。




