終戦の日
あの結末はわたしの未熟にとって思いがけなく、しかし年寄にとっては望み通りの、或いは表向きの悲しみと永らえる老醜の日常の継続のために決した。それは敗北であった。決して振り向かれることのない敗戦であった。
インターホンが鳴り
表に母がいた
入ってくればいいのにと言いかけたが
入れはしないのだ
葬式の度に姿を見せる青大将が怖いのだ
祖父の葬儀にも
父の葬儀にも
祖母の葬儀にも
そして
この母の葬儀にも現われて
それからふっつりと姿を見ないけれど
今日の季節はどうなのと
もう今年で十歳も年の離れた母に挨拶を
そうだ
挨拶とは死者と交わすことの出来る唯一つの適切な会話だ
どうして位牌なんて作ったのかと母は言わなかっただろうか
それとも父のことをわたしは訊ねたのだろうか
分かっていることだったけれど
この母との全ての会話は言葉ではなくて
回想でしかないことを
蝉が鳴かないこの石づくりの庭で
棺を運ぶための道路のような御影石の敷かれた庭で
もはや夏を迎えることの出来ない母と
幾度も幾度も夏を迎えてしまうわたしと
一体暑さとは汗を惰性のままに流すだけの
或いは蟻たちの黒は喪の色でなく鉄の色として熱く
終戦など知りもしないわたしにとって
あの日が終戦の日であった