5話…チート
例えばテレビでロッククライミングなどを見たことがあるだろうか。
有名な、うまい選手が悠々とクリアした後に新人の選手が最初の方で失敗していたりするのを見て
「なんであんなところで失敗するかなぁ。」
なんて思ったことはないだろうか。
俺は言いたい。
初心者じゃ何もできない。
「どうするかなぁ。」
今までゲームで何度も使ってきた道具だ。ランキング上位にくい込んだ俺の相棒といっても過言ではないだろう。
しかしそれはあくまでゲーム内の話だ。
ゲームじゃボタン1つ、フリック1つで簡単に敵が切れるし、勝手にダメージも与えられる。
ここは現実だ。
構え方すらもわからない。
だが世界を救う英雄がそう簡単に人に助言を乞うわけにもいかない。
「えっと、ゲームではこんな感じで……」
ゲームで見た感じに構えてみる。
なんとも不格好だ。
「なーんか違うんだよなぁ。」
ガサッ
と急に俺の前の草がゆれ、小さな動物が出てきた。
名前:???
種族:ウサギ
年齢:2
ステータス
体力:489
筋力:123
耐久:258
ウ、ウサギ……。
すごく切るのにためらいがある相手が出てきた……。
ていうか俺のステータスってケタ違いなんだな。
「ど、どうしよ、」
とりあえず剣を持ち直そうと、切先を地面に向けて下ろした。
ドサ
「え、」
ウサギが、倒れていた。
というかもともとウサギがいた場所に、毛皮とお金が落ちていた。
そういうところだけゲーム仕様か!
とツッコミたいのはおいといて、
「俺、今ウサギに触ってないぞ……」
という事はなんだ、おれはもしかして切先を地面に下ろした時に起きた空気の揺れでウサギを倒したってことか?!
「ふふ……」
やはり俺は英雄となるべきものだったんだ!
昨日より下がったステータスでさえこの威力!
これが……これが俺の実力か!
ははは……
なんだかこの世界で努力してるやつに申し訳ないな。
この世界のやつがどんなに頑張っても俺に適うステータスは得られない!
俺は毛皮とお金を拾って鞄にしまった。
この辺の小動物じゃつまらない。
もっと奥に……もっと強いやつを倒しに行こう。
そうだ。どうせならここらで1番のやつを倒してやろう。
そうすればみんなもっともっと俺の素晴らしさに気づく!
もっともっと俺を敬う! 称える! 崇める!
その時、
「うわぁぁ!! 」
「いやぁ! 助けてぇ! 」
と助けを求める声が、奥から聞こえた。