アホの治る薬を俺にくれ! 白魔女ミレイユにご対面?!(2)
「お名前はミレイユ、職業は占い師であり、薬師でもある…… 白魔女、と言ってもいいかもしれませんね」
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ミレイユは、祖母も母も、父も兄弟も流行病で亡くし、いまは彼女ひとりで街外れに住んでいるという。
祖母も母も占い師であり、薬師であったという。
そういう家系なのだろう。
朝は早起きして各種の薬草を摘み、昼間は小娘たちの恋愛相談にのって手相や人相を占い、夕方には恋人と結ばれることを願ってやまない適齢期の女性に媚薬や両思いになれるお守りを譲り、夜は性愛に悩む人妻の相談に乗って精力のつく薬をそっと手渡し、 ……ときに、望まぬ妊娠をしてしまった女性には堕胎の薬を処方したりしているという。
最後のものは倫理的に問題があるのではとも思うが、どうやら宗教的に中絶は禁止されているらしく、そういう立場の弱い女性にとっては、非合法ながらありがたい存在とのことだった。
しかし、そんな人生の酸いも甘いも知り尽くしたような立場にありながら、ミレイユ自身は若干二十歳。
恋愛経験もほとんどなく、肉親の不幸が重なったこともあり婚姻歴もないままいま白魔女業を続けており、そこがコンプレックスでもある。
実直でウソのつけない、信仰心の篤い女性であるとのこと。
……ここまでは死神ローゼからの情報。
街外れに住んでいる薬師はたいそうな美人で、しかもバストは大きめであるということ。
……これは昨夜酒場でおっさんたちから入手した情報、ミレイユのことに違いない。
ミレイユとは、どんな女性なのか。
警備対象だという以上に、非常に気になる。
「むふふ」
「なんですか気持ち悪い」
「なんやそれ!」
「すっごく気持ち悪いです」
「そんなキモい、俺?」
「そんな顔でミレイユさんに会わないでいただきたいくらいです」
「顔は生まれつきやで? なんや、美女に会えるっちゅう期待感が顔に出てもうたかな?」
「……はあ、いいですかヴォルフさん? 可愛いお嫁さんと一緒に連れ歩いているのに、逢ったこともないほかの女性のことばかり考えるのはどうなんですの?」
「どーって言われても」
どう思うかと問われれば。
ローゼが嫁だというのは設定上の話でしかないし、そもそも俺が望んでその設定にしたわけではないし、見た目の年齢的にも無理がありすぎるので、やっぱり設定を変更したほうがいいんじゃないか。
実は親子でしたとか、貴族令嬢と御付きの執事とか、越後の縮緬問屋のご隠居の孫と助さんか角さんか弥七かうっかり八兵衛か、みたいな。
それから嫁もらうならつるぺたよりおっぱい大きめなほうがいいよ俺、妖怪アグ●ス怖いもん。
……などと言えばローゼはいっそう怒るだろう、言えない。
話題を変えよう。
「この世界、ほんまに異世界なんやなあ」
「え? いまさらですか?」
「ああ…… なんとなくやけど。 ここは、俺がもともと居った世界の中世の中欧、ドイツあたりに似とるなと思うねん」
「それは禁忌に触れるのでお答えできません」
「ええよ、俺が勝手に推測したことをしゃべるだけやし、答えられんことは黙っときや」
「はい、それなら」
「今朝コーヒー飲んだやろ? 昨夜のつまみにはアボガドみたいな果物もあった」
「それがなにか?」
「俺がもともと居った世界の、魔女狩りのあった中世の中欧には、まだアボガドは入ってきてないはずなんや」
「っ!!!」
ローゼの顔色が変わった。
俺が何の禁忌に触れたのかはわからないが、どうやら俺の気づきは正しいようだ。
「コーヒーは、 ……前おった世界の魔女狩り華やかなりし頃の中欧もあったことはあったやろ、修道士が眠気を覚ますのに飲んどったって話きいたことあるし。 でも『ペーパードリップ』は、そこにはなかったはずや、ニーナのババアが濾紙みたいなん使うとるんみたけど、あんなんずっとあとの時代のモノ……の、はずや」
「……」
「その辺を見てな、物の流通と社会的な事象が合わへんのはタイムスリップしたんやなくて、根本的に違う異世界に来てもうたからなんやと、確信したんや」
ローゼは黙る、俺は一方的にしゃべる。
「異世界いうても、いわゆる『よくあるファンタジーの世界』とも違う、ファンタジーモノではおなじみのエルフだのドワーフだのと言った亜人は見掛けんし、酒場でも噂すら聞かへんかった。 この世界にはおらんのやろ?」
「はい」
「でも死神はおる、ローゼ、自分のことや」
「そのとおりです」
「悪魔もおる、今度呼び出して会わせてくれるいうたな?」
「はい」
「そして、『魔法』も存在する、 ……ここは『そういう世界』なんやな?」
「……はい」
「ん、答え合わせ終わり!」
「ちょっと! ヴォルフさんは触り方が荒っぽいと思いますっ!!」
ローゼの猫のようなふにゃふにゃの頭髪を思いっきり撫で回す。
抗議の声は適当に受け流しながら、目的地まで仲良くケンカしながら歩く。
わかったことがある。
物流や科学技術はさておき、この世界は『グリム童話の世界』に近いようだ。
あえてローゼには聞かなかったが、ここがグリム童話の世界ならば、『魔女も存在する』に違いない。
魔女がグリム童話の中で『どのように考えられており』『どのように扱われるか』が、俺には、俺にだけはわかる。
問題は、『そのように扱われる』のを『どうやって防ぐか』だが……
宿から十五分ほど歩くと家もまばらになった。
質素ながら手入れの行き届いた小綺麗な家の前で、ローゼが立ち止まる。
玄関にかぼちゃのくり抜かれたオブジェ、ハロウィンでよく見るモノに似ている。
あれだ、ジャック ・オー・ ランタン。
なるほど、これは魔女の家っぽい。
とはいえかぼちゃをくりぬくのはアメリカ大陸の話で、アイルランドは蕪ではなかったか……?
中欧のハロウィンでもこれに相当するものはあるのだろうか?
この辺は、やはり元に居た世界とは違うのだと割り切った方がいいかもしれない。
「ここか?」
「はい、ここがミレイユさんのお家です」




