まるでダメなヲタクの俺、ついに魔法遣いになる!?(4)
悪魔と契約した時、支払うのは必ずしも人間の肉体や魂ではありません。
お酒と引き換えに酒蔵を守る悪魔の話も、優れた橋を架ける悪魔の話も、『実話』として現代に伝わっています。
ファンタジーだから作者の想像で好き勝手に書いていい部分もあるのでしょうが、この辺は史実をもとに記しているのが作者のプライドと本作の特徴です。
「ではもう一つの魔法、ヒトではないナニかを呼び出す方の魔法にしましょう」
「ナニかって、なんや?」
「悪魔です、悪魔を呼び出して契約しましょう」
「……悪魔に魂を売るんか? それ、最後は破滅しかないんちゃう?」
「言い方が悪いです、魂を売るのではなく、取引するんです。 ヴォルフさん、ご自身でおっしゃったじゃないですか、悪魔に使われるのではなく、悪魔を使役するのが魔法遣いなのだと」
「悪魔が俺の言うこと聞くか?」
「契約次第です」
ローゼは卓上のクラッカーに、刻んだ果物…… 食べた感じはアボガドのようなねっとりとした味だったが、本当にアボカドなのかはよくわからない果物を乗せて口に入れた。
さくさくと乾いた音。
クラッカーで乾いた口を潤すように一口ワインを飲んで、話を続ける。
「悪魔と取引をした人間が破滅するのは、悪魔が悪いのではなく取引する人間側に問題があることが多いのです。 破滅するほどの身の丈に合わない願いを叶えようとするから、支払いきれない代償を支払うことになるのです」
「どういうことやそれ?」
「そうですね…… 身の丈にあった取引の例を挙げましょう。 盗賊に悩んだ酒蔵が、悪魔に倉庫の番を頼んだお話、『酒蔵の番をする悪魔』っていう、」
「待て待て、魂を売ってまで倉庫守るん?」
「いえ、悪魔に支払うのは魂ではなく、お酒です」
「そんなんでええんか?!」
「悪魔は夜眠らないし、疲れないので倉庫番などお安い御用なのです。 そのうち『あの酒蔵は悪魔がいる』って噂が広まって、盗賊も入らなくなったそうですけどね」
「はー…… 意外やな」
「もうひとつ『悪魔が架ける橋』というお話。 橋は隔絶した地域をつなぐ重要なものですが、人間の作った橋は洪水で流されがちなので建築に特化した悪魔に『頑丈な橋を作ってくれ』と依頼することがあります」
「橋を建設した悪魔が要求する代償はなんや? 人柱とかちゃうん?」
「『最初に橋を渡ったものを生贄とする』という契約で橋を作らせ、完成したら子猫を渡らせるのがお約束だそうです」
「そんなんあかんやろ? 悪魔だますようなことして大丈夫なんか?」
「猫好きの悪魔なので」
「猫好きなんかい!? イメージ狂うな!」
「悪魔にとっては、寝ずに倉庫を守ることも橋を架けることも簡単なこと。 でも悪魔にはお酒の醸造はできないし、猫も普通には手に入れられないのです」
「そうか、 ……悪魔は得意なことをする代わりに、人間から欲しいものを手に入れようとするんやな? 人間の得意なことと、悪魔の得意なことはちゃうんや」
「はい、悪魔でも死神でも、お互い得意なことをフォローしあえばいいんですよ、それが正当な取引です」
「ローゼはずいぶん悪魔の肩を持つんやな」
「いえ…… ただの事実です。 わたしだって自分では罪のない女性が魔女として処刑されることを、救うことはできません」
「そうやな、それは俺がやらなあかんな」
「人間にも善い人と悪い人がいるように、悪魔もいろんな者がいます。 もちろん人を騙して魂と肉体のすべてを喰らう悪魔もいますが、基本的には契約に忠実ですよ、悪魔」
「ほな信用できる悪魔を紹介してくれる、いうことやな?」
「まあその、ある程度は」
ある程度?
急にトーンダウンしたのがやや気になるが、途方もない代償を支払わされることはなさそうだ。
ローゼが知っている信用できる悪魔だというのなら…… 多少の不安は残るが、契約してもいいのかもしれない。
「どうしますか?」
「いっぺん悪魔の話を聞いてから考える、 ……とかでも、ええんか?」
「いいですよ。 では取り寄せますね?」
「取り寄せる? 何を?」
「短剣です。 その悪魔は短剣の宝石の中に封印されていますので」




