白魔女ちゃんは俺が助ける! 死人の俺が、転生したらどうや?(4)
なんというべきか。
自分の気持ちをうまく説明できているか、よくわからないが。
「行ったらわかることなんやろ?」
「それは、まあ」
「事前にいろいろ聞いたら、向こうの世界がなんか変わるんか?」
「変わるわけないでしょう?」
「ほんなら、ちゃっちゃと行ったらええんちゃう? いまここで、あれこれ聞くより話早いんやないかな?」
ローゼは驚いているのか呆れているのかよくわからないような顔をしている。
こういうタイプの人間にはあまり出会っていないのかもしれない。
大阪人は、『苛ち』である。
気が短くて、せっかちだという程度の意味である。
すぐにイライラするという意味もあるそうだが、俺はあまりイライラはしないタイプだ ……と思う。
もちろん、ローゼの話にイライラしているわけではない。
単純に何かをやる前からああでもないこうでもないと文句ばかりたれるのは大嫌いで、走りながら考えるくらいでちょうどいいというだけ。
関東に転勤したことがある。
ある程度家賃補助が出ることと、向こうでの業務がなんなのかくらいは確認したが、細かい諸条件は聞かなかった。
行けばわかることなのだからそれでいい。
転居前、不動産屋と一緒に自分が住む物件を見て回るのに一日かけて良いと言われたものの、一件目のさいたま市のマンションに速攻で決め、残った時間でそのまま東京営業所に挨拶しに行き、納品の仕事を飛び入りで手伝ったあと、全部終わった瞬間そのまま皆で飲みに行った。
例によって飲み過ぎて大阪行きの最終新幹線に乗れず、池袋で一晩過ごしてえらい目にあったが、それはそれで楽しかった。
とにかく俺はそういう男だ。
「あの、ではわたしは転生の儀式の準備をしますので、その間に持ち物の準備をしてください」
「マジか! 異世界になにか持って行ってもええの?!」
「いま、ご自分が所有しているものならいいですよ。 禁忌にあたる書物と、危険物はダメですけど」
「クルマ持ってってええか? 280馬力のSTI、めっちゃ速いで」
「そんな大きなものもダメです、ええと、この巾着袋に入るものにしてください」
「ちっちゃいな、これに入るんやったら何でもええの? スマホとかでも?」
「サイズは大丈夫ですが、充電できないし電波も届かないので役に立ちませんよ?」
「それもそうやな……」
ローゼがハンドバッグから出した巾着は手のひらよりも少し大きいくらいの、煙草の箱が二、三個入る程度のサイズ。
何を持っていくか、かなり悩む。
異世界の向こうは文明社会ではあるらしいが、電気やガス、電話網、高速道路とか鉄道、……上下水道なども含めて、インフラ系は期待できないと考えていいだろう。
先にローゼに聞いたが、真っ先に気になったのはカネ、軍資金だったが、ローゼは普通に宿泊して飲食する分は心配しなくていいといった。
言い換えると、金で人を買収したり、殺し屋を雇うほどの資金はないのだろう。
何かトラブルがあっても金で解決することはできない、自分でなんとかするしかない。
こちらの貨幣は使えないに違いないが、それでも現金を持っていくのがいいと思った。
財布ごと入れるとかさばる、小銭と紙幣を財布から抜いてみたら、一万円札が一枚、千円札が三枚で、小銭はほとんど入っていなかった。
机の上に小銭をためていた貯金箱の中身も全て出してみた、一円玉が三十枚ほど、五円と五十円玉が数枚ずつ入っていた。
金額的には心許ないが仕方ない、巾着袋に入れる。
ある意味『無人島に行くならナニ持って行こうか』というような頭の使い方に切り替えたほうがいいのかもしれないとも思った。
そこで次は、ヴィクトリノックスのツールナイフを巾着袋に入れた。
アメリカのテレビドラマ『冒険野郎マクガイバー』が頻繁にツールナイフを使っていて、かっこよかったので俺も愛用していた。
異世界にだって刃物くらいあるだろうが、ここまで小さくて便利なものがあるかどうかはわからない、多分ないので重宝する気がする。
もう少し何か入りそうだ。
軽くて嵩張らず、有用なものはなにかと悩んで、薬箱の中の薬品を入れることにした。
ローゼの話では、グリム童話同様に死神は瀕死の患者も元気になる薬を持っているということだったが、どんな副作用があるかわからないし、気軽に使えるものとは思えない。
薬箱を開けると、病院にかかったときに調剤薬局でもらった薬で残っているものがいくつか残っていた。
本来は、病状が良くなっても薬は飲み切らなければならないことが多いので、薬が残っているのはよくないことだが、今回はそれがよかった。
解熱剤、抗生物質、そしてインフルエンザの特効薬タミフル。
これならスペイン風邪の流行にも対応できるかもしれない。
黒死病とか狂犬病の対応もしたいところだが、そんな薬が俺の薬箱にあるわけがない。
巾着袋はパンパンになった。
ローゼを見ると、は口紅のようなものをハンドバッグから取出し、それでちゃぶ台の上に魔法陣を描き出していた。
俺が異世界に転生する時間が、すぐそこに迫っているとすぐにわかった。




