白魔女ちゃんは俺が助ける! 死人の俺が、転生したらどうや?(1)
死神は死にそうな人間がわかるが、正確にいつ死ぬかはわからない。
死神は仲良くなった人間に力を貸せるが、死神自身は人間の運命には介入できない。
死神はほんとうは心優しく、罪のない人間が無意味に死ぬのを見ていたくはない。
……俺の中で、一つのナイスアイデアが浮かんだ。
「ほな、ヒトがヒトの運命を変えたらええんやろ」
「それはそうですけど」
「なら、俺がその白魔女ちゃんを助けたる、どや?」
我ながらこの上ないほどのナイスアイデアだ。
おそらく、俺の顔はものすごいドヤ顔をしていることだろう。
「……本気でおっしゃってますの?」
「本気やで? 冗談なわけないやろ」
「なんのために? どうして無実の女性を救いたいのですか?」
真剣な表情のローゼ。
「かわいそうな女性を助けてヒーローになりたいのですか? 無実の女性を救うことで正義を実現したいのですか? それとも、」
「そんなんちゃう。 ローゼが泣くとこ、見たくないんや」
そんなこと、決まっているのに。
その答えを聞くと、なぜか真っ赤な顔になったローゼは俯いて何かを考え始めた。
ぶつぶつと、これは断る理由はないかな、などと独り言を漏らしつつ。
「異世界のことは、ようわからん。 でも俺のおった世界の、中世の中欧の魔女狩りの話なら、知らんでもない」
本棚の一番手前の分厚い本を手に取る。
K・セリグマン『魔法 その歴史と正体』。
長く絶版になっており古書店でプレミアがついているが、俺は運よく一橋大学のお膝元、国立の本屋で偶然見かけて購入できた。
成人する前の、えらい昔の話だ。
ヨーロッパから中東、インドより西側の魔法的なこと、オカルト的なことがよくわかる名著で、豊富な図版も綺麗に印刷されていて美術的にも素晴らしい。
博識な澁澤龍彦のエッセーも読みやすくていいのだが、単行本に収録されている図版は荒れていて、美術的にはこちらのほうが断然美しい。
この中でセリグマンは魔女と魔女狩りに丸々一章を費やしている。
その理不尽さと陰惨さは、読むたびに飲まなければやっていられなくなるほど落ち込まされる。
だが、
「魔女やっていわれて殺されるヤツ、沢山おったって話や。 何万人死んだか正確には分かれへんくらい。 そんなん全部が全部は救われへんけど、その白魔女ちゃんを助けたら、少なくともローゼは泣かんでええんやろ?」
「えっ! え~? えっと、ええっと、それって、わたしのためってこと ……ですよね?」
「せやで?」
ローゼは俺のために泣いてくれた。
そんなローゼをこれ以上泣かせたくない。
誰かに褒められたいわけでも、大層な正義を実現したいわけでもなく。
ただ目の前の女の子を泣かせたくない。
アホむき出しな死に方をした俺にだって、そのくらいの……
死にかた?
なんてこったパンナコッタ、俺は重要なことを忘れていた!
「あか〜〜ん! そういえば俺、もう死んでもうてたんや〜! すっかり忘れとった! ……白魔女ちゃん助けたいとか言うても、死んどるヤツにはなんもでけへんわ、マジですまん! アホですまん!!」
「……いえ、そんなことはありませんわ」
「せや! これからは俺が、守護霊的な感じで見守ったろうか?」
「違います!」
「なにがちゃうん? いうてみ?」
「亡くなっていればこそ、できることもありますわ…… 転生できるのは、亡くなった方だけですから」
その発想はなかった、衝撃的だった。




