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死神美少女と童貞魔法遣いの俺  作者: ぢょほほん
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100メガショック! えっ嘘やろ、俺は死んじまっただ!?(6)


ゆかり(・ ・ ・)さんも、さわやかなじょせいなんれすか?」



……ゆかり? だれそれ?



「なあローゼ、ゆかりって、誰や?」


「え? はんとしごに結婚する、おくさんのなまえでしょう?」



衝撃的すぎて、絶叫する声すら消し飛んだ。



「あれ? まだであってなかった…… んでしたっけ?」



ローゼは胸元から手のひらサイズの真っ黒な物体を取り出した。

黒曜石だろうか、表面はつるつるに光っている。

物体の表面を指でなぞってから、



「いえ、やっぱりであってます、職場のどうりょうです!」



自信満々に黒い物体を示した。



「ただの黒い石にしか見えへんけど?」


「あっ!? そうだ、ヒトにはよめないんだった…… ごめんなさい」


「いや、それはええけど」



今度は目に見えてしゅんとして、がっくりと肩を落とした。

酔うと気分の上げ下げが激しくなるタイプなのか。



「とにかく俺、半年後に結婚するんやな? その、ゆかりと?」


「死神はヒトの運命がわかるんれす。 そのヒトが、どれぐらいの確率でいつお亡くなりになるかはもちろん、そうならなかったらそのあとどう生きるかも」



死神が人間の死期を知っているのはあり得る話だ。

逆に、死ななかったらどうなるのかを知っていてもおかしくはない。



「それが、その石でわかるんか?」


「はい。 石の手帳は、ヒトの宿命と来し方行く末を表示します」


「死神向けのスマホかタブレットって感じなんかな?」


「そう…… かな? ヒトの道具はよくわかりませんけど、だいたいあってるとおもいます」



死神が言うのなら、そうなのだろう。

石の手帳の話をする時は、ローゼは比較的しゃんとしている。


どんなにぐでんぐでんに酔っ払っても、酒席での仕事の話になると適当な返事をしないやつはいる。

ローゼも、職務が絡むと真面目になるタイプなのかもしれない。



それにしても。

ゆかり、誰だっけ? 職場にそんなやつ……


……いた。



「あれや、一ヶ月前くらいか、協力会社からきたシステムエンジニア(SE)にそんなやつがおったような気がしたなあ」



背が低くて、ショートカットの。

俺はフロアが違うし名字でしか認識したことがなかったが、食堂で女子が固まって弁当食べてる時、女子同士で呼び合う時は『ゆかりちゃん』って呼ばれていたやつがいた、そういえば。


あいつか……

でも俺、全然絡みないんですけど。

爽やかな女性かどうかすら全く知らないんですけど。



「たぶんあいつやと思うけど、俺、ゆかり(ソイツ)とほとんど話したことないで?」


「えっでも、何かいんしょうに残っていることとか、あるんじゃないれすか?」


「そうやなあ、昼飯食ってる時、女子の輪のなかで、あたしマンガが好きなんですぅ、えーどんなマンガですか? スラムダンクですぅ、みたいなこと言うてたな…… マンガは好きなんやろうな」



スラムダンクは名作だし知っているけれど、俺は徹底的にインドア派なのであまり詳しくはない。


ゆかりがどうだかは知らないが、俺はやおい(・ ・ ・)好きでもないので、花道×流川か、流川×花道かでどっちが受けなのかについてのカップリングの意見をぶつかり合わせることもないだろう。

仙道総受けとか、ゴリ総受けとかの可能性もあるか? ……とにかく、よく知らん。


なにしろ、俺とゆかりがどうやって仲良くなるのかよくわからない。



「えっと、石の手帳の記述によると、ある日ゆかりさんが『アカギ』が好きだとわかり、意気投合するんだそうです」


「渋いなゆかり!」


「それで、いわおさんはこれを貸し出すんです」



(いわお)さん、と、急に名前を呼ばれてどきりとした。


ローゼが手に持っていたのは、麻雀マンガの名作、

福本伸行『天 天和通りの快男児』。


さっき本棚で『これかあ』と言っていたのは、このことだったのか。



「これな、俺のめっちゃ好きなマンガや。 『アカギ』は『天』のスピンアウトなんやけど、知らへんやつもおんねんなあ」



もしかしたら、ゆかりも知らなかったのかもしれない。

知らないことに腹を立てた、あるいはゆかりの知らないことを知っていることを自慢したかった俺が、ゆかりに『天』を貸し出したのかもしれない。


ゆかりが『アカギ』を好きだというなら、『天』を読んだゆかりと俺が意気投合するのもわかる。



「これな、めっちゃ熱いシーンがあんねん。 最終巻近く、自分には麻雀の才能がないと腐っていたひろゆきに、天才赤木しげるがな、『熱い三流なら上等』って言うたるんや。 何遍読んでも胸に刺さるわ。 俺も人生ずーっと三流やったけど、読むたびに『俺も熱く生きるんや』って、生きる元気もろうたわ……」



もう一口ワインを飲む。

赤ワインのタンニンの渋みが、一層強く感じられた。


作中の名脇役、赤木しげるも一杯飲み(やり)ながら死んでいった。



俺の人生が三流なのは言うまでもないが、それではせめて熱く生きられただろうかと人生を振り返る。

全然そうは思えなかった。


赤木しげるにあんなに背中を押してもらったのに。



しかもここで死んでいなければ、このマンガが縁で三十年間女子とまともにしゃべったこともなかった童貞の俺が、たった半年後に結婚できるのだという。


赤木しげる、まるでキューピッドじゃあないか。


もう少し生きていられたら、マンガを貸し借りしたゆかりと結婚していたら、俺はそこからは熱く生きられたのかもしれない。


……無念だ。




グラスが空になった。

一気に飲んで、ボトルを空けてしまいたい気分だった。


ローゼにも勧めるべきか、これだけ酔っ払っているのならやめておいたほうがいいのか、どうしたものか。

この飲み会も、そろそろお開きだろうか。



「俺ばっか喋ってごめんなローゼ、そろそろ……」



息を飲んだ。

ローゼは小さな手に空のグラスを握り、俯いて、震えていた。

空のグラスに、ぽたりぽたりと涙が落ちる。




泣きたいのは俺なのに、なんとローゼが先に泣いてしまった。


次話は1月10日に公開予定です

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