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死神美少女と童貞魔法遣いの俺  作者: ぢょほほん
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100メガショック! えっ嘘やろ、俺は死んじまっただ!?(3)

人生の最期というなら、俺ならやっぱり。



「やり残したことはないけど、最期に一杯飲みたいねん。 この願い、聞いてくれるか?」


「えっ? お酒ですか?」



死神の少女は目を丸くした。

そんなにおかしなことを言っただろうか?



「だって、お酒を飲みすぎて亡くなったのでしょう?」


「せやなあ、これからは(・ ・ ・ ・ ・)飲みすぎひんように反省しなあかんなあ」


「ぷっ、ふふふっ」


「なんや? なんか可笑(おか)しいか?」


「お亡くなりになったのですから、これからは(・ ・ ・ ・ ・)ありませんわ?」



確かに。

くたばった後に今更反省しても遅すぎる。



「ほんまやね」


「あはははっ、もう、本当に、 ……可笑(おか)しな方」



花のような少女は頬を薔薇のように紅くして、心底楽しそうに笑う。

なんだか楽しくなって、俺も釣られて笑い転げた。


これ以上笑うと喘息(ぜんそく)になるんじゃないかというくらい二人で笑いまくったあと、



「いいですよ、お酒」


「おっ、ええんか? 話がわかるな」


「はい…… ええと、それではわたしの言う通りにしてもらえますか?」


「おう」


「目を閉じて、心を澄ませて」


「済ます?」


「もう、ダメですよ? ……まず目を閉じて」



彼女の小さな手が俺の目を覆う。

細くて白い指は、すこしひんやりとして冷たい。


死神の少女は朗々と、歌うように続ける。



「目を閉じたら、心を澄ませて。 一番飲みたいと思うものを、一番飲みたいと思う場所とを、心に思い浮かべてください」



俺が一番飲みたい酒、それを飲みたい場所。

ものすごく迷った。



諸君、俺は酒が好きだ。

酒が大好きだ。

ビールが好きだ。 日本酒も好きだが、ウイスキーも捨てがたいし、ラム酒も大好きだ。

焼酎は芋、麦、米は言うまでもなく、紫蘇(しそ)蕎麦(そば)も好きだし、黒糖焼酎もめちゃくちゃ好きだ。


アホで気のいい、面白おかしくて浪花節の大好きなヲタク仲間たちとは、あちこちで飲み散らかした。

インテックス大阪の帰り道、大阪のアキバこと日本橋、ちょっとあるいて道頓堀、京橋の立ち飲み屋、梅田の飲屋街、北新地の華やかな店からはだいぶ離れたところの、安くてうまい飲み屋、大阪城と万博公園の花見の会場、二次元キャラとの縁結びを願うついでに紅葉狩りもした京都の貴船神社、それから……。




「決まったようですね。 ……はい、では目を開けてください」



目を開けると、そこはヲタク仲間たちと飲み明かした大阪のあちこちではなかった。

大阪と京都の境い目あたりの、駅から歩いてすぐの、見慣れたマンションの一室の扉の前。



「ご自宅ですか?」


「せやな、俺んちやな」



長く入院した年寄りの患者が、最期は自宅の畳の上で死にたいなどと言うそうだが、どうも俺も同じような考え方だったらしい。


ドアを開ける、鍵はかかっていない。

見慣れたマンションの一室に入っていく俺を、死神の少女が興味深そうに見守る。



「……一緒に飲んでくれるか?」


「いいんですかっ?!」


「もちろんええよ、自分がおるから飲めるんやし」


「やったっ! ありがとうございますっ☆」



小躍りして喜んでいる。

狭い玄関で膝を折って(かが)み、ピカピカの黒い靴を脱ぐ死神の少女。


変な座り方をするとパンツが見えちゃうから気をつけろよと声をかけようか悩みつつ、よく考えたら俺がこのマンションを借りてから四年経つが、女子が入るのは今回が初めてだ。


そこそこ綺麗に整えたキッチンを通って、居間に通す。



「ま、遠慮せんと入ってや」


「……おじゃましまーす」



正面にちゃぶ台、二枚の座布団とカーペット。


右手にはテレビとアニメをたくさん録画したDVDレコーダ。

テレビは安物ながら、テレビをつなぐアンプはマランツ、スピーカーはB(Bowers)

&W(Wilkins)Nautilus(ノーチラス)805、やや無理をして買った自慢の逸品である。


左手奥はPCデスクとWindowsPCと、プリンタ、MACBOOK、その他もろもろ。


部屋をぐるりと囲むように、本棚と本。



お世辞にも綺麗な部屋だとは言い難いが、床に着替えやゴミが散乱するような汚い部屋ではない。



「綺麗なお部屋ですね」


「俺、汚い部屋には住まれへんのよ」



俺はアレルギー持ちで、ホコリやダニに弱い。

アレルゲンを吸い込んで喘息がひどくなると死にかねない。


ホコリやダニがたまらないように適度に掃除をするのは、単なる健康上の問題であり自慢できるような理由ではない。



「そういえば、俺の屍体はないんやな……」


「ええ、ここは観念上の場所なので」


「ようわかれへんけど、寝ゲロ詰まらせた俺のアホ面見ながらは飲みたくないねん、良かったわ」


「ふふっ、それはそうですよね」


「ほな、遠慮せんと座りや、 ……えっと? 自分、名前なんていうんやったっけ?」



ここまでたくさんおしゃべりしてきたのに、俺は彼女の名前をまだ知らなかった。



「あっ、申し遅れました。 ローゼ(Rose)です。 薔薇(ばら)のお花と、ワインの色と同じ(つづ)りです」



衣装は黒づくめながら、愛らしい頰も化粧気は感じない唇も薔薇(ばら)の花のような色だし、(あか)り越しにボトルを眺めたときの、透き通ったロゼワインのように美しい少女であるから、ぴったりな名前だと心から納得した。


……彼女の下着の色が薄い桜色の、ワインのロゼ(Rose)色だったことを想起したわけでは、断じてない。


次回は1月5日に公開予定です。

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