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死神美少女と童貞魔法遣いの俺  作者: ぢょほほん
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100メガショック! えっ嘘やろ、俺は死んじまっただ!?(2)

新年明けましておめでとうございます。

新年にふさわしく(?)今年もお酒を飲むお話ばっかりですが、どうかよろしくお願いします。


「それは、あなたがお亡くなりになったからですよ、十字路巌さん」



死神と名乗った黒づくめの美少女は、本当に申し訳なさそうに、可憐に咲き誇る薔薇のように、俺に微笑んだ。



「マジでか?」


「はい、マジです」



目眩がした。

全く脈がないという事実を突きつけられても、にわかには受け入れられない話だ。



「俺が死んだって、なんでやねん? 死因は? なんで俺は死んだんや?」


「仰向けに寝たまま、吐いて……」


「吐いた? 歯痛の間違えちゃうか? 虫歯で死ぬアホおらんで? まあさっきもいうたように俺は健康やし、虫歯もないけどやな……」


「間違えではありませんわ、仰向けに寝たまま吐いて、その吐瀉物(としゃぶつ)が喉に詰まって窒息しされたのです」


「寝ゲロで死んだんか俺? そんなん身に覚えが、」



ありすぎた。



「……せや、飲みすぎて帰宅して、自宅の居間で上を向いて歩こう、ちゃう、上を向いて覗こう、を実践しとったんや……」


「上を向いて、覗こう?」


「坂本九の名曲やで? 『上を~向いて~、の~ぞこおぉぉぉ、寝ゲロが、こぼれ~ないよおおおおにぃぃ』 ……って! なんでやねん!」


「なんでって、ええっ?!」


「坂本九の歌で新喜劇の定番ネタいうたら、めだか師匠の『み~さ~げて、ごらん~』やろ!」


「知りません! というか、上を向いて覗こうって、ご自宅の居間で、何を覗いておられたんですか?」


「ナニって、そら俺の、」



俺の嫁たる美少女フィギュアのスカートの中に決まっている。


が、そればかりは言えない。

この娘と楽しく会話を続けるためには、話題を変える必要がある。



「ん、まあ、その辺は話すと長いねん ……俺が死んだっちゅうことはわかった、で、ここはどこなんや?」


「『この世とあの世の境目』です」


「『この世とあの世の境目』な、 ……なら俺は、これから三途の川を渡るっちゅうことか」


「そうですわね、あたらずとも遠くはないといったところかしら」



見渡す限り、どこにも川はない。

ここからはだいぶ遠いのだろうか。


三途の川があるとして、どうやってわたるのだろうか。



戦国武将真田家の家紋は六文銭。

当時は三途の川の渡し賃が六文だと信じられていたことに由来するのだったか。


三途の川は、泳いで渡れる幅の川ではないのだろう。


ふと気になった、俺は財布を持っていない、当然だが現金も全く持ち合わせていない。



「……三途の川の渡し賃、なんぼ? 今でも六文なんか? 五円玉か五十円玉で代用できひんかな?」


「不思議な方ですね。 三途の川の渡し賃がそんなに気になります?」


「俺はカネにはうるさいんや。 なんぼべろんべろんに酔っぱらっても、会計する瞬間だけは素面(しらふ)に戻んねん」


「自慢ですか?」


「ただの事実やで」



渡賃が払えず、三途の川を渡れなかったらどうなるのだろう。

この辺でバイトでもして稼ぐしかないのか?



「なあ、三途の川って渡し賃持ってなかったら、川の手前で身ぐるみはがされるって話、ほんま? ちょっと現金(カネ)もってないだけでえらい目に()うたら、えらいこっちゃ。 やっぱ世の中カネやな、カネ」


「あの、その質問に答える前に、ちょっと伺ってもよろしいですか?」


「なんや?」


「自分が死んだなんて嘘に違いない、とか、俺はまだ死にたくないんだとか、そういう風には思わないのですか? 泣きたいとか思わないのですか?」



意外な質問だった。



「死にたかったわけやないし、未練はあるで。 せやけど、まだ死にたくないんやって泣いて(わめ)いたら、なんかが解決するんか? たとえばめっちゃ泣いたら生き返れたりするんか?」


「それは…… しませんけど」


「ほな、泣いて(わめ)くより、これからどうするか考えるのが大事なことなんやないか? たとえ死んでしもうたとしても、や」



ちょっとかっこ良さそうなことを言ったのは否定しない。

俺だって、はじめは自分が死んだことを疑ったし、この状況は夢じゃないかと思っていたし。


ただ俺は、夢なら夢で夢から覚めた時に夢でよかったぜと安心すればいいのであり、いまできることとやらなければならないことがなんなのか、と考えただけだ。



「……わたし、死神としてたくさんの方を死後の世界にお連れしてきましたけど、冷静に三途の川の渡賃を気にされる方は初めてです」



興味津々といった表情がありありとわかる。

死神を名乗る少女の目が爛々(らんらん)と輝く。

俺のどの辺に興味を持ったのかよくわからないが、愛らしい少女に興味を持たれるのは悪い気分ではない。



「ほな、死神ちゃんが死人をあの世に連れくると、『俺が死んだなんて嘘や!』って信じひんヤツとか、『俺はまだ死にたくないんや!』って取り乱すヤツとかが多いん?」


「はい、ほとんどの方がまず信じてくれませんし、三日三晩泣き続ける方とか普通ですよ」


「へー? そんなめんどくさいヤツ、どないすんの?」


「納得していただくまで、お付き合いします」


「マジで? 三日三晩付き合うんか?」


「もっとかかるときもありますわ。 人生の最期ですもの、しかたありません」



聞き分けのない死人を説得するのに三日三晩かかるとしたら、ええと連続72時間勤務? それには残業代とかつくのだろうか? 途中で家には帰れるのだろうか? 死神ってブラック企業なのか? 企業じゃなくてお役所なのかもしれないが……?


いずれにしても。

死神って、もしかしてとんでもない重労働なのではないか。


彼女の哀しそうな笑顔に目眩(めまい)がした。



「しんどいね」


「あ、ありがとうございます…… 亡くなった方にそんな風に慰めてもらったのも、はじめてです」


「せめて俺くらいは、自分に迷惑かけんと綺麗にあの世に行くで」


「いえ! その、最期ですから、やり残したことがあるのならおっしゃってくださいませ。 できる限り、お付き合いしますわ」


「うーん、せやなあ……」



やり残したこと。

童貞のまま死んでしまったこと…… だめだ、この娘にそれは言えない。

人生の最期にそんな恥ずかしいこと、できるか。


人生の最期というなら、俺ならやっぱり。



「やり残したことはないけど、最期に一杯飲みたいねん。 どや、聞いてくれるか?」


次話は1月3日に公開予定です。

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