君の人生は幸せだった?-そうして、物語は終わる―
縹は、つくしに駆け寄った。
それを見た薔薇姫は、旧き薔薇のようにふんわりと笑った。
縹の妹・ナツメも安心したように、微笑む。
「大丈夫ですよ
とりあえず、動かしても大丈夫です。
張のお爺様のところに、ちゃんとしたお医者様を呼んでおきましたから。」
「良かった。」
噛み締めるように、漏れた安堵の言葉は、とても穏やかだった。
薔薇姫から、つくしを貰うと優しく抱えあげた。
縹に悪気は無かったんだろうけど、もしも、つくしに意識があったなら、リアルorzだったかもしれないね。
子どもとは言え、男として、そこはショックだったんじゃないかな。
女性に、お姫様抱っこと言うのは結構くるものがあると思う。
個人的に言わせて貰えば、子どもでも、男だしねぇ?
時乃市の繁華街。
その裏路地の一角の薬屋。
生薬の原料が、天上から干された原型のまま吊るされた部屋のベッド。
少し前に闇医者の診察も終り、つくしは寝ている。
あれから、三日経ち、一応、闇医者には「そろそろ目覚めるはずです」と言われたが、縹は心配そうだ。
ちなみに補足しておくなら、“ナニカ”の供物にしてザンバラになった髪は肩口で切り揃えられたこと。
ついで、戦闘を重ねて、疲れきっているのに寝ようとしなかったので、薔薇姫が薬で一度眠らせ、また、置き出して来たところをたまたま来ていた久遠にベッドに叩きこまれ眠っ(きぜつし)たりしたのは言っておこう。
とりあえず、丸一日寝たおしたようで、薔薇姫たちも今度は、何も言わなかった。
裏稼業というか、能力者謹製の塗り薬などをふんだんに使っていることもあり、傷も残らないだろう。
ちなみに、つくしを診察した医者も、医療特化の能力者であるのは、蛇足だけども。
「なんで、あんなことしたの?」
それから、目覚めたつくしに……まぁ、片目が赤紫だから、カランコエも出ているんだろうけども。
縹は、聞いた。
つくしは知らないけれど、縹には今生で一番の地雷だ。
まだ、『笑って』死ななかっただけでもマシではあるけれど。
それでも、自分を『弟分』が『庇って』死ぬのは、一番の地雷。
数年前の《C.C.》の決戦の中の一つのできごとが、今も、縹を縛る。
当時、その出来事の半年前に一人の少年を拾った。
そうだね、“氣殺”の宵颯。
彼が、縹を庇って死んだんだ。
しかも、口元を血で汚していたけれど、“笑って”死んだんだ。
“氣殺”だったからね、遺体も残らなかった。
彼の実父の形見でもあるゴツイクロス以外はね、それは今も縹が持ってる。
「あのね、縹お姉さんも知ってると思うけど、僕もカランコエも予知を別々に持ってるの。」
「レベルとしては、辛うじて、実用レベルってトコだけど、そもそも、予知自体レアだからさ。
それで、繋ぎ合わせて、後、Lお兄ちゃんの情報とあわせて、縹お姉ちゃんが死ぬのが分かったんだ。」
「後ね、《占い師》って言うお兄さんが、Lお兄さんがトイレに行っている間に、来てそのね。」
「予知を外したいなら、って教えてくれたんだよな。」
「……眼には眼じゃないけど、質量保存の法則のようなものかしら。
予知の方は、精度はともかく、時間の方はそうでもないから分からないんだけど。」
うん、私の入れ知恵だね。
つくし達が、縹を命を賭けて助けようとしたのは、あの子達の意思だけれどね。
私の誘導が無かったわけじゃないから。
能力者と言うのは、破壊か癒しは投げておいて物理系に偏ってるんだ、分布が。
精神系の能力者って言うのは、精神・物理混合の能力者を半分、精神系に分類しても、100人能力者居ても、40人居るかどうかのレベルなんだ。
その中でも、予知は、本当に少ない、その40人の中でも1人2人。
実用……中級ランクでも、1000人の精神系能力者を集めても、1人2人とかそう言うレベルなんだ。
縹は、周りに《占い師》や《運命演算三姉妹》、そのほかにも普通の人間の予知能力者が居るせいもあり、その希少性に気付いていない。
いや、気付かせないようにしていたんだよ。
数時間先を見るのでさえ、かなりのレアだ。
つくし達のように、数日先をそれなりの精度で、視れると言うのはかなりのレア過ぎるレア。
それこそ、神話級のような予知能力者なんてのは、ここ五百年は生まれてないんじゃないかな。
生まれていても、殺されているだろうし。
この世界は、能力者に優しくない。
それこそ、条約に縛られない“兵器”として扱われる現代の方が、優しいと言うぐらいにね。
でね、縹にはつくしがしどろもどろになって説明してたけど、それだと分かりにくいから、改めて答えるけど。
縹は、そこそことこの二人の予知を指したけれどね、結構上のほうなんだよね。
一流か、それ以下になる区分としてね、「予知を外す方法が分かる」ことがあげられる。
勿論、それは、人によって違う。
だけど、歯には歯を、犠牲には犠牲を、なんだろうね。
縹が、『質量保存』っていたそれ。
ほとんどの場合、「誰かが代わりになること」なんだ、外し方は。
それに、予知能力者が、切に変えたいと思うことなんて、大概は、誰かの、“大事な”誰かの、一大事を死の危険を外したいと思うときなんだよね。
そう、自身(或いは、誰か)の死と入れ替えること。
……そこまで、つくしがどうにか語ったところで、縹の右手が割りと本気で、と言いつつ、結構手加減してたようだけれど、彼の頬に平手打ちをした。
「馬鹿か、お前が死んだら、意味無いだろが。」
泣く気は無かったんだろうけどね、縹は泣いていた。
それこそ、声を上げてくれたほうが、罪悪感もないのだろうけど、彼女はただ、はらはらと泣いていた。
…………羨ましいとは思ったけれどね、縹は血縁ではなくなったとは言え、“兄”の私や《翁》には、泣くどころか滅多に、頼ってくれないものだから。
まぁ、それはそれとして、つくしとカランコエも事情が分からないなりに、縹の地雷を踏んだのはわかったみたいで、おろおろしていたね。
ん?私が、誘導したんだろ!!って?
あのね、誘導はしたけれど、選んだのは二人だよ。
それから、縹は、本名を名乗ったわけだ。
「裄瀬あざみ、もしくは、ディスティア=ヴァリード。
どっちでもいいわ。」
それから、研究所から助けられた五人とも、つくし達は再会した。
新しい名前も、それぞれ貰ったり、昔の名前で、改めて戸籍を取得したりした。
それと、つくしとカランコエは、能力で身体をもう一つ作り、二人になった。
元々、縹の得意技だったのとバラエティに飛んだ二人の能力だから美味くいったんだ。
代わりに、カランコエの方の精神系能力のデパートのせいもあって、ヘッドホンがトレードマークになってしまったけれど。
つくしが、筑紫京護。
カランコエが、筑紫修護。
黒髪ロングの少女が、月森茉莉花。
水色茶髪の少年が、月森紅碧。
銀髪赤茶眼の双子の女の子が、上条璃蘭、もしくは、リラ=ローゼンマリア。
銀髪赤茶眼の双子の男の子が、上条綺羅、もしくは、キラ=ローゼンマリア。
赤髪の少年が、上条羽羅、もしくは、ルフス=ローゼンマリア。
書類上は、京護と修護は、日本に帰化している縹の伯父に引き取られた。
茉莉花と紅碧は、救出に参加していたオネェの月森久遠に。
双子とルフスは、そう年齢の代わらないように見えた同じく救出に参加した上条樹里に。
樹里の息子である青年に、「リラ(妹)はともかく、弟共は可愛くねぇ!!」と能力バトルが日常茶飯事にはなったぐらいには、それなりに仲のいい兄弟だった。
まぁ、あのオネエの九十九神は気付いてんじゃないかな、茉莉花の気持ち。
だから、生活は、イライアスって奴のトコでさせてるみたいだけど、後々のために久遠は自分で引き取ったみたいだね。
それからの十年、“なんでもな”くて、“当たり前”に幸せだったんじゃないかな。
普通に学校に通って、出来た友達と昨日見たテレビのことを話したり、ジャンプの感想を言ったり。
休んだ友達の給食のプリンの争奪戦をしたり。放課後に、友達と遊んだり。
或いは、映画に行ったり、夏は海水浴に、冬はスキーにと楽しんだ。
そして、その日にあったことを夕食の時に話す。
本当に、なんでもない、だけれど、彼らが知らなかったそれを歩めた。
勿論、能力のことは知らないのは、寂しかったかもしれないけどね。
結果的に、と言うレベルだろうけど、ディスティアが、二人と暮らし始めてすぐかな。
彼女の想い人の《L》&《D》の《D》こと、ユヴェル=ディティスが、死んだのもいい方向に行ったのかもね。
少なくとも、その殺したのはディスティアは許さなかったけど、二人がいたから踏みとどまったんだもの。
後、四年目に、茉莉花が十八になった頃に、イライアスに夜這いしたけど、逆にごちそうさまされたらしい。
あれだ、「きのうは、おたのしみでしたね。」ってところかな。
元々、つくし、いや、京護のストッパーの意味合いが強かった修護は、高校を卒業すると共に、京護に吸収……戻る形で、居なくなった。
能力と一緒に、人格も一緒に統合されたらしいけれどね。
そして、10年後の6月の今日。
梅雨の合間の晴れ間で、大安の今日。
ディスティアと京護が、結婚式をあげるわけだ。
外堀から埋めてたからね、京護は、あの親バカレンパパも、絆されちゃったみたいだよ。
だから、高校卒業して、大学に進学はしたけれど、式だけは早々にあげることにね。
「……《占い師》、もう少し、どうにかならなかったの? 」
「おや、《翁》、君こそ、家族とこに居なくて良かったのぉ?」
「…………兄として、弟の心配をしたら、いけないのかな? 」
今生では、まだ高校生の《翁》は、私に話しかけてきた。
他の式もある関係で、結構、ロビーも騒がしいし、BGMの関係もあり、会話は聞こえないだろう。
後、今の私は、水色の二回半折り返す超長い髪もそのまま、だし。
服装も、一応、イマドキの披露宴特集!!みたいなのを参考にしたんだけど、そんなに変かな。
紫色のツ-ピ-ススーツに、黒のドレスシャツと手袋、紅いペイズリーのネクタイ。
「と言うか、ホストどころか、どこのヤクザの若頭かなって思った。
普段のモノトーンスタイルでスーツだと、葬式だからまだいいけど。」
「まぁねぇ、と言うか、君にとってそう歳の代わらないのが、今生の義兄とはねぇ。」
「僕もだけどね、《御伽噺》を超えれたんだから、いいんじゃないの?
妹達は、リングボーイとかやれて喜んでたし。」
「まぁ、あの子が幸せなら、それでいっかァ。」
「うん、なんか、京護兄さんと一緒なら、半分になった寿命ももう半分延ばしそうな気もするし。」
「ふふふっ、全く、人の子は愛らしく愛しいモノだね。」
それから、しばらくして、式場。
所謂、チャペルウェディングでね。
ほら、ディスティアって身長高いじゃない?
一応、海外ブランドのほうでのオ-ダーメイドにしたらしいけど、結局見るのは今日が初めてなんだよね。
ロングトーレーンのマーメイドラインのドレス。
シンプルなデザインだけれどね、あの子に良く似合ってる。
今まで、の数千回繰り返した……白愁樹菖の例外を抜いてだけど……《歌乙女》としての生で、ほとんど得られなかったそれをこの眼で見ることになろうとは、本当、神生は意外性に満ちているねぇ。
「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
ああ、前の方で盛大に、レンパパさん泣いてるねぇ。
でも、ディスティアも、ついでに、京護も幸せそうだ。
「はい、誓います」
2人は、誓いを肯定する。
そして、2人の顔が近付き、誓いのキスを。
京護は、結局、175センチと日本人としては、頑張ったんだけど、ディスティアの方がまだ、15センチほど高いんだよねぇ。
仕方ないけど。
「愛してるわ、京護。」
「俺も、愛してる、あざみ。」
うん、でもね、ディスティア、お兄ちゃん、嫉妬していい?
うん、でもね、京護、お義兄ちゃんからお願い、一発殴っていい?
一応、ほろ苦いけどハッピーエンドです。
うん、おねショタはあんま書けなかったけど。
代わりに、《翁》と《占い師》の神様然とした会話が増えました。
では、次回の後書きと解説を一応〆です。