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4. 「奈落の闇に掴まれても、それでも私は天上に憧れる」

ワーニンワーニン!!

R15と残酷な描写タグ が全力アップです。



 闇夜に紛れて、ヘリファルテ率いる傭兵隊は展開する。

 旅宮市の中でも山奥の方の集積地に、目標が居るという情報に踊らされながら。

 港から、時乃市市街に展開した。


 そして、戦端は開かれた。


 此処までの丸二日。

 完全には、人を排除できはしなかったが、縹のイギリス人で貴族家公爵家当主の祖父が手を回したらしい。

 平日であるのに、恐ろしく人が居ない。

 小学生中学生高校生は、泊りがけの課外授業だったり。

 大学生は、大規模な就職説明会が急遽東京で行われることになり、そっちへ行ったり。

 或いは、ストレートに、テロの可能性あり、と言うことで政府主導で避難したり。


 これで、街に残っているのは、戦闘要員やそのバックアップだけだ。

 或いは自分の意思で残った者。

 もしも、画像が流出すると面倒ではある、だから、縹サイドは、顔を隠すなり、風防も兼ねてゴーグルを着用している。


 今この街にいるのは、縹達裏稼業組やその関係者。

 或いは、元も含めて《シルフィーダンサーズ》連合の面々や、鷲山組の面々が市街に散っている。


 この数日の間に、最低限とは言え、準備は出来た。

 《シルフィーダンサーズ》連合の面々は、実銃……機関銃マシンガン散弾銃ショットガンは勿論、ツーマンセルでの狙撃チームも幾つかある。

 元々が元々で、初代が自分の手駒が欲しい為の暴走族連合。

 特に、その中核である《月天女》は、プロの傭兵になったメンバーもいる程度には、地元の暴走族から逸脱した面々である。

「良いか!!テメェら、死ぬな!!

 俺の為じゃねぇ、三代目の為に死ぬな、息がありゃ、薔薇姫さんがどうにかしてくれる。

 生き残ることを優先しちまえよ、わかったか!! 」

 長い黒髪に額の〆に近い×傷で黒い特攻服姿の少年が、時乃市内の公園にて、そう演説をする。

 彼は、六代目・馬柴ばしば沙祈さき

 二代目・薬袋大命の又従弟にあたる高校生だ。

 しかし、その額に傷に負けず、荒事には慣れている。

 胆力を見出した縹が、近場の荒事に同席させたせいか、遠慮無く言うのなら、素手ゴロならば、縹でも危ないレベルであった。

 彼の声に応じて、上はアラサー、下は15歳ぐらいの面々が、雄たけび雌たけびが上がる。

 一応、プロと戦って、敵の力量を測れ逃げ延びれるだけの腕がこの場にいるのだ。

 それでも、300人少々。

 まだ、ケツに殻のついたヒヨコではあるが、それも運用次第だ。

 本職が待ち受ける場所に追い込んだり、比較的新兵や今回の仕事に誘われただけの連携のなっていない連中を削ったり、狙撃すること自体は可能である。

 そして、簡易で決まった地点にしか移動は出来ないが、移動陣も渡されているのだ。



 そうして、戦闘は始まったのだ。











  +鹿取と鈴鹿山の場合。+


「鹿取、三秒後、二発発射ダブル・ファイア

着弾ヒットヘッド

 目標ターゲット沈黙デッド。」

「次は、陣Cか? 」

否定ネガティヴ。陣L。

 もう少し削る、ディスの為、ベテラン削りたい。」

 紅い髪の青年と茶髪の青年。

 余計な装飾はつけていないが、その辺に居るチャラい男と変わらない服装の上から、都市迷彩のギリーシートを被っている。

 ライフルを構えている紅い髪の方が、鹿取漣斗かとり・れんと

 観測手スポッターをしている茶髪の方が、鈴鹿山彰良すずかやまあきよ)

 

 二人は、日本人にも、西洋人にも見える。

 どちらともの特徴を備えていた。

 そして、二人は、ある意味で、つくしと同じだ。

 縹に拾われ、連合に入り、そこで『仲間』を得た。

 一般人であるには、暴力を生業にしている面々。

 それに、この街の住人は優しかった。

 居酒屋の大将は、連合のメンバーとしっているからか、よくビールを一杯サービスしてくれた。

 八百屋のおばちゃんは、「イケメンにはオマケだよ」って、トマトやらキュウリやら何かしらのオマケをしてくれた。

 定食屋のばあちゃんは、食えないっても盛りを多くしてくれた。

 だから、と二人は思う。

 縹に報いたいと言うのも無いわけではないが、この街からあいつらを追い出したいと思うのだ。

 中途半端な俺達も受け入れてくれた町なのだから。


 それに、同類のつくしなら、まだ間に合うんじゃないかって、思ったから。

 移動した先で、また、二人は陣取った。

 次の目標を探しながら。




 +五代目・馬芝沙祈の場合。+ 


 大振りなコンバットナイフを片手に、長い黒髪の少年は街を駆け抜ける。

 縹に仕込まれた技術のひとつのパルクールを使い、壁を地面と同じように蹴り、樹上から獲物を屠る猛獣のように、ツーマンセルだけを狙う。

 自分についてこれるのは、今の副総長・神前真かんざき・しんぐらいだろう。

 それには、他の奴らの指揮を任せた。

 頭上から、背後に降りて、ナイフで首筋を一線。

 もう一人が気付く前に、逆の腕のデリンジャーで延髄か背骨か胸にそれぞれ一発。

「……三代目には、感謝しないとな。」

 この現代は、生き難い世の中だと思う。

 水と安全がタダなんて言われた日本は今はない。

 二十年近く前の中東でのあの戦争。

 そこで、日本は舵を取り違えた。

 元々が、スパイ天国なんて言われた日本だ。

 各国の情報局が、丁々発止な国だった。

 だけれど、あの戦争での舵取りを間違えた、と言うよりも、読み間違えた。

 だから、七十年前のあの戦争の後のように地方の自警団のような性格の、映画の中にしか言い無いような任侠集団が復活した。

 某巨大ヤクザ組織のように、大きな組織ではない。

 中には、映画に感化された馬鹿もいた。

 だけれど、街を生まれ育った街を守りたいと思う気持ちからの発起。

 沙祈の師匠でもある縹は、公人としては、祖父の跡継ぎに指名されている。

 その祖父の次男の次女で傍系も傍系なのにだ。

 だけれど、育った街に今も、居続けている。

 それはさておき、沙祈は孤児である。

 母方の祖父にあたる鷲山組組長鷲山兼盛に育てられたが、それでも世間と言うのはそう言う子どもには、「差別」を「しない」と言う「差別」をしがちなものだ。

 そして、概して、子どもは残酷なもの。

「俺も、可愛くないガキだったがな。」

 八年ほど前だったか。

 イジメられはしてないが、馴染んでもいないそう言うガキだった。

 従兄の薬袋大命みない・ひろやが見かねたのか、連合の寄り合いと言うか、連合を構成するチームの総長と副総長が集まっての飲み会。

 自警団の予備隊と言う性格上か、十八歳がアガリといわれる暴走族でも、成人済みが半数以上であった。

 ちなみに、この後日出来る縹の親衛隊(別名:見張り護衛隊)は、この時の面子が何人書いたのは追記しておく。

 そこで、一際若い、と言うか聞いた話、高校生に成り立ての身長が高いが幼さ残る少女だった。

 周りの面子にも女性は居たが、その時の沙祈には、一番可憐だと思えたんだ。


 それから、色々と鍛えて貰って。

 結果的に、その時の少女……縹の跡の跡を継ぐ形で五代目になったわけだ。

「……色々教えてもらえ、クソガキ。」

 また、ビルの壁面を駆け上がり、ビルからビルへの移動を繰り返し、次のターゲットを探す沙祈。






 +縹の弟 魔導師マジスタラビの場合+



 なんて言うかね、姉さんって本当、自分の身を度外してる。

 今回の件も、さくっと総理と内閣の半分でも暗殺して、公安の室長以下何人かも暗殺しちゃえば、あっさり済むんだよ?

 研究所も潰してさ。

 労力と言うか、姉さんへのストレス考えるなら、それが一番楽だもん。

 殺す人数は段違いに少ないし、多分、さっきの+侵入した百人少々のほとんどは生きて帰れないだろうし?

 それを隠せるだけの能力コネ権力、言い方は何でもいいや、そう言うのあるんだし。

 だから、使えばいいのに、使わない。


 まぁ、《C.C.》の壊滅からもう四年か五年だっけ?

 俺達を倒せば、「裏稼業の最強の一角だぜ、ヒャッハー」とか、そう言う馬鹿も居るのは事実だった。

 それの牽制ってのも無いわけじゃないんだろうけどもさ。

 

 裏稼業やちょっとアングラな巨大掲示板8ch(まんま、裏8ch)なんかで、最強談義の名が挙がる一派ではあるんだし。

 今回の敵の敵も、能力者と渡り合えるが、流石に、ここまでの抵抗者が居るとは思わなかったんだろうね。

 

 そう言うのが、命取りなんだよ?

 裏稼業でも軍人でも傭兵でも、それは変わりないんだけどねぇ。



「ぐっ……がぅ、ぎゃ、ヤメ……」


「んー、あのね、俺も姉さんほどじゃないけど、怒ってんの。

 久遠さんには、怒られるかもしれないけど、戦場なのに怒ってんだ。」

「殺さ……、」

「ねぇ、ヘリファルテの一翼。

 戦場と都市部、場所の違いはあっても、ここはキリング・フィールドだ。

 そんな場所での命乞い、聞いたことあるの?無いよね、聞くわけ無いもんね。」

 俺が考え事をしながら、丸めてたそれなりに古参のおっさんが、ロシア語で命乞いをしてきたけど、それに対して、綺麗なロシア語で返す。

 うちのイギリスの本家……祖父の祖母がロシア人だからね、その関係で一応、会話ぐらいは出来るんだよね。

 同じような理由で、フランス語とドイツ語、ついでに日本語も、元々喋れる。

 読み書きは、英語と日本語だけだけとも。

 姉さんは、欧州系と一部のアジア系アフリカ系も、会話には困らないぐらいだしね。

 ちょこちょこ言い回しが古いけど、その辺りは何回も生まれ変わった関係の面目躍如ってトコ?

 んで、俺の能力の重力操作でそのおっさん、と言うか、持ってたアサルトライフルと一緒におっさんをサッカーボール大に圧縮して始末する。

 血も絞られたせいもあって、綺麗に圧縮できた。

 あのね、俺達みたいな『異能持ち』に『人間らしさ』を認めない側に付くんだったら『人間らしく』死ねると思わないでよね。

「……どっちに転んでも、風呂入りたい。

 流石にやりすぎた。」

 まぁ、スイカを頭上で握り潰したらどうなる?ってのがいまの俺の格好。

 二人目だしね。

 元々が青いウィンドブレ-カーも、どす黒く濡れて重い。

 流石に、動きにくいから、脱いで、青いトレーナーパーカーに着替える。

 さて、もう少し減らすか足止めかねぇ。

 ヘリファルテの隊長なおっさん、俺にも親戚だけども、姉さんが始末するなら、それでいっか。 

「あー、アリエスさんに会いたいな。

 ……あと、あのマイケルっての妹の護衛になってくれんのかね。」

 俺は、バックアップ班の恋人を思い浮かべながら、夜闇に紛れる。







 +ヘリファルテの古株・パーヴェル・ユリアーノヴィチ・ベロノゴフの場合+


 五十歳ほどの男性が、夜闇を走る。

 音をなるべく立てないよう訓練された動きでだ。


 それも、乱れがちではある。

 

(なんなんだ、この街は。)


 ツーマンセルを組んでいたのだが、彼は相棒のユスチンと引き離された。

 しばらくして、男の牛革を引き裂くような声が響いたのだ。

 おそらくは、ユスチンは死んだのだろう。


 自警団もどきのジャパニーズ・マフィアとその予備軍。

 後は、フリーランスの裏稼業、しかも、インドアしか居なかったはずだ。


 幾ら、《C.C.》を壊滅させたと言っても、対集団戦に長ける《異能持ち》だからできたこと。

 そう思っていた。

 

 だが、パーヴェルは、現に追い詰められている。


 武器はまだ手にしているが、通信機は無くした。

 だから、情報は入ってこない。

 入ってこないのだが、街の気配・・・・がおかしい。


 時々、パーヴェル達側も頑張っているようだが、どちらかと言うのならば、ロシア語の罵倒が多い。

 

「чёрт(チョルト)!!」

                「свинья(スビーニヤ) 」 


「Иди на хуй. (イヂー ナ フイ)」


 等々、「クソヤロウ」だの「ビッチ」だの「ファックユー」だの盛大に、自棄になっているようだ。

 つまるところ、劣勢である。


 それでも、とパーヴェルは思う。


 戦場が少なくなったこの世界では、戦場で死ねるのなら、幸せだろうと。

 軍隊として、戦場では死ねず、傭兵となって戦場で果てれるのだから、大尉に着いて来て良かった。

 そう、彼は思ったのだ。


 しかし、彼は次の瞬間、背後に下りてきた女性に肩を刺され、アスファルトに縫い付けられる。

 指一本すら動かせない。

 呼吸も苦しくなってきた。


 彼は、戦場で、だけど戦わずに終わった。

「《風舞姫》のとこに手を出すからよ。

 国にしても、貴方達にしても、それでも幸せだった?」

 アジア系の女性が、そんなことを言っていたようだけれど、パーヴェルの耳にはとうの昔に届かなくなっていた。

「こちら、《グレイトキャット》。

 一人、沈黙、行動を続行する。」

 そして、アジア系の女性……《グレイトキャット》は、携帯端末でそう連絡すると、また、夜闇に紛れる。


 




 +縹の妹 ナツメ・キャロライン=ヴァリード・エンデファングの場合+


 幾ら優勢に進んでいる、そう教えられても、戦場である以上は、怪我人は出ます。

 一応、姉には了解を貰って、敵側であっても比較的新人の人や今回の作戦だけに協力した人も、死ななければ、連れて来てと伝言しました。


 死ぬ人が、一人でも少ないように。

 《デザートストーム》の隣の空き地に、テントを張っての簡易の救護所です。

 何度が襲撃はあったようですが、暴走族OBの中でも、初代の頃のおじ……お兄さん達が警備してるせいか、全然、大丈夫みたいでした。

 《デザートストーム》の前のマスターは、今は居ません。

 マスター、エイレンさんの使鬼しきだった久遠さんが継ぐ形になってる喫茶店です。


 また、お薬を盛って、眠らせているつくしくんも《デザートストーム》の奥座敷に居ます。

 少なくとも、戦場に関わってほしくない、だけど、余り遠くへやるのは怖かったみたいです、姉さんも。


 薔薇姫さん……回復特化の薔薇姫伝説のカメオから生まれた九十九神……も、治療の為に同じテントに居なかった時のことです。

「おう、ナツメちゃん、コイツ頼むわ。」

 三十代半ばのオ-ルバックの男性。

 薬袋さんが、米俵でも担ぐみたいにまだ、若いと言っても、二十歳になっていない私よりも一つ二つ年上な程度の金髪な傭兵を担いでいました。

 それを私の前の治療台。

 ……遺体搬送車なんかに積んであるような台付きの担架に仰向けに転がします。

 肩の傷とそれ以外にも、細かい傷だらけです。

 面倒だったので、上の都市迷彩服と靴を脱がせました。

 と思ったら、縫う処置が必要ではないですが、太ももにも傷がありました。

 仕方ないので、ズボンも引っぺがしました。

 なので、必然的に、紺色のランニングシャツと迷彩柄のボクサーパンツ姿にしました。

 ……羞恥心?

 いや、恥ずかしいですけど、恥ずかしいですけど、三つ上に兄と双子の兄、十幾つ離れた弟達がいたら嫌でも慣れざるえませんし?

「はい、薬袋さん……って、相手方ですけど、大丈夫なんですか?」

「いやぁ、アサルトの弾切れ狙って、徒手空拳で相手しようとしたら、ナイフでやってきたから手加減できなくてな。

 最終的に、ナイフ奪って肩を刺しちゃった。」

 豪快に笑い飛ばすだけならばまだしも、てへっとやられるのは、アラサーも過ぎそうなおじさんにやられてもかわいくありません。

 仕方ないです。


 また、戦場に出ようとしてましたけど、薔薇姫さんよりも更に、補助と回復に特化した私を置いて行って何かあってもいいんですね。

 って言ったら、少し離れたところに立っていました。

 脅してませんよ、事実なだけです。

 ここのところ、暴走族間の勢力争いもほとんど無くて、暇してたんでしょうけど。

 一応、見張っても口出しは、相手が私に触れるまでしないようにお願いしました。


 肩の傷は、本来なら十九針ほど縫う傷でした。

 しかも、普通の医者なら、一回切開して、中の太い血管を一つ一つ縫うような傷でした。

 ナイフを刺しただけじゃなくて、一回転抉りこんでましたね、薬袋さん。


 全体的に掠り傷だらけですが、肩と太ももが酷いです。

 服を少し着る程度のかすり傷ですが、それ以外も酷かった

 あまり、能力で治し過ぎると、人間の身体には良くないですからね。

 肩の傷を塞ぎます。

 抜糸の必要が無い縫合のようなものです、勿論、動けば開きます。

 次に、太ももの傷も薄皮一枚程度まで治しました。

 完全に無能力者だと、一日の治療では此処までですね。


 後は、細かいと言ってもそれなりの傷を消毒したり、ガーゼを当てたりしていると、その傭兵の目が開きました。

 同時に、制御が甘い能力で、彼のことも呼んでしまいましたが。

 彼が、起き上がって何か言う前に新生児も乗れる大きな膿盆で額を力いっぱいスパーキン!!

「……すみません、ミハイル、でなくて、マイケルさん。

 一応、ナイフから手を離して話だけでも聞いてもらえますか? 」

「っ、? 」

「ああ、日本語が分からないはずなのに、理解していることが分からないんですね。

 それが私の能力です。英語も話せますけど、薬袋さんの為にも、日本語で失礼します。」

 正確には、英語とロシア語と日本語は読み書きできますし。 

 単純な文章なら、ドイツ語とかも行けるんですけど、話し慣れているせいか日本語の方が楽です。

 それに、薬袋さん、英語は出来なくも無いんですが、ほぼビジネス英語をべらんべえな江戸弁とでもいうんでしょうか、それぐらいなので、喋らない方がいいんでしょうね、ええ。

「ヘリファルテから寝返る場合、倍額を払えば寝返っていただけますか?」

「We cann't betray the boss.(俺は、ボスを裏切れない)」

「エリカさんとニコラさんの為ですか?」

 マイケルさんは、二人の妹……読んだ感じでは、エリカさんと私が同じ歳で、ニコラさんが十歳ぐらいでしょうか?

 二人とも、程度の違いはあれど、私と同じ能力者です。

 しかも、天然物です。

 だけども、そのせいで、健康を損ねています。

 そして、その身を国に取られています。

 表だってさせたくないことを、ヘリファルテにさせて、マイケルさんが其処の在籍することで、解剖などを処置を待ってもらっている状況。

 それにしてみても、ヘリファルテの叔父様の目的が『戦場で死ぬ』である以上、いつかは崩れる均衡です。

 

 事実、《占い師》の兄様の外れる方が少ない予見では、叔父様は負けます。

 と言うよりも、やっと戦場で死ねます、と言う方が正しいのでしょう。

 ですけども、それは、叔父様の事情。

 姉様にも、一応、「接触できれば、マイケル=ヘッジホッグには裏切りを唆せ」と言っていました。

 マイケルさんよりも、その妹の方を気にかけていたんです。

 姉様は、人体実験をと言うよりも、「異能持ち」が「人間らしい」生活を行えない方を嫌がりますし。

 それに、子どもを人質にすることも嫌がります。

 絶句したマイケルさんに構わず、私は話をしました。

「姉様、《風舞姫》と仇名される女性は、子どもが犠牲になるのを好みません。

 ですので、機会があれば、妹さん達ごと裏切りませんか?

 ……報酬理由は、私の護衛、で。」

「You, or The Lady of weakness? (お前が、《風舞姫》の弱点か?)」

「そうですね、私と下の弟妹が弱点でしょう。

 抵抗手段がほとんどないんですよね、私も弟妹も。

 後は、一番上の姉様も兄様も、両親も抵抗は出来ますし、裏稼業なら手を出さないでしょう、と言う面子ですので。」

「And to escort the traitor, do you insane?(裏切者を護衛にしたいなんて、正気か?)」

「マイケルさんは、選択肢が無い状態での今の状況でしょう?

 それに、その外見年齢的に好都合なので。」

 その後、うっかり、マイケルさんに抱きつかれた私が、涙目になってパニックになりかけたのを薬袋さんが引き剥がしてくれたりと色々在りました。


 でも、マイケルさんは、裏切ってくれるそうですよ。






 +瑛梧を救出する為の三人組の場合+



 周囲を木で隠すようにした白い箱のような建物。

 山間のそれなりに広い敷地であった。

 能力者を利用して、眼晦ましをかけているせいか、同じ能力者でないと探せないそんな場所だ。

「あらあらまぁまぁ、ねぇ、ジュリちゃん、イライアちゃん。

 お姉さん、本気出しちゃっていいと思う? 」

「本気は構わないけどね、エーゴと子どもで助けれるのは助けたいわ。」

「そうですね、全く、《永遠ネバーランド》なんて、皮肉過ぎる名前ですしね。

 ……全く、笑えません。」

 それが見える場所に、山を全力で舐めているような三人組がいた。

 自分を指して「お姉さん」と言ったのは、毒々しい赤紫色のボリューミーな髪に黒い眼帯をした女性の合わせのパンツスタイルな細マッチョな成人男性。

 腰には、愛刀が一振り。

 彼が、《紅い死神》月森久遠。

 「エーゴと子どもを助けたい」と言ったのは、白銀のロングストレートに深紅の瞳、黒いシンプルなゴスドレス姿の小柄な少女。

 身長よりも長い黒い柄だけの何かを背中に背負っている。

 彼女が、《凍れる樹姫》ジュリ=ローゼンマリア。

 最後の青年は、黒い波打つ髪に送られる死者の方が晴れやかそうなそんな曇天の葬送を思わせる瞳をしていて、暗い色のツナギを着ている中肉中背だ。

 ガンベルトと大振りのナイフを身につけている。

 彼が、《リンデン》イライアス=ヴィドル。

 上から、革靴、ローファー、トレッキングシューズを履いている。

 そして、本来ならば、もう一人居るはずなのだが、それはもう先に潜入しているようで。

「……奥の講堂に、子どもは集められてるみたいね。

 表向きは、国の研究施設兼孤児院だろうから、子どもの前でドンパチやるわけには行かないもの。」

「私達と敵対してるなら、始末する気なのかも、知れないわね。」

「とりあえず、先に講堂ですか?

 子どもを確保してから、でしょうけど、誰かしらいるならば、『刺身』にして情報収集と洒落込みましょうか。」

「……とりあえず、イライアス、前みたいに囀る口すら亡くすのは止めてくれ。」

「あれは、中々喋ってくれなかった相手が悪いんですよ。」

 要するに手足から、焼いたナイフで数センチ間隔でスライスしてたら、相手が喋る前に死んでしまったということなのだろう。


 それからは、無言で進む三人。

 途中で、襲い来る守衛(に扮したプロ)を倒しつつ、奥へ向かう。

 合間合間に研究室を覗くと、此処を廃棄する気なのか、資料や検体を処分していた。

 それを三人は、処分していく。

 久遠が、愛刀で斬り捨て。

 ジュリが、黒い柄に刃を生やし貫き。

 イライアスが、手にした銃で撃ち抜いた。



 そうして、講堂につくころには、生きている子どもは五人しか居なかった。

 後は、黒い戦闘服の男と研究者らしき男が、それぞれ数人。

「うふふ、ホントウ、救えないわね。」

「《リンデン》、大人の方にフルオ-ト。

 子どもの方は気にするな。」

 一応、一丁と弾丸ワンセットのみしか持ってきていなかったが、マシンガンと弾丸400発。

 イライアスは、それをフルオ-トで放つ。

 ジュリは、全力で回り込み、子どもに弾丸が到達する前に、黒柄の大鎌を核に障壁を張った。

 そして、久遠は弾が当たるのを気にせずに、戦闘服の男と研究者らしき男達を全員切り捨てる。

 特筆するならば、研究者最後の一人をアイアンクローして、幾つか質問をして、最終的に久遠はその研究員の頭をスイカを握り潰すかのように潰しただけだ。

 その頃には、当たったはずのマシンガンの傷口は、服の染みだけになっていた。


 生き残った子どもは五人。


 一番年上に見えるのは、中学生には見える十三、十四歳ぐらいの黒髪で前髪パッツンロングストレートの少女。

 白いブラウスに黒いベストとスカート姿で、ぱっと身は制服に見える。


 その次は、十歳ぐらいに見える少年。

 紅い髪をしているのが目立ち、服装は検査服だった。

 そして、痣と他の四人よりもキツイ制御拘束具が目立つ。


 真ん中の年齢なのが、一番年少の双子を庇うように立つ少年。

 色素の薄い茶髪に少し水色の混じる少年で、彼は長袖Tシャツにカ-ゴパンツを着ている。


 一番幼いのが、男女の双子。

 ジュリと同じぐらいな白い銀髪に深紅に近い赤茶の瞳をした三歳か四歳ぐらいで、髪の長さも同じで見分けが付きにくい。


「さて、どうしたい?

 死にたい?生きたい?外を見てみたい?

 少なくとも、同類よ、私と《リンデン》は。」

「えーと、そのオカマさんは? 」

 最年長であるからか、ジュリは代表して、五人に聞く。

 因まないでも、周りには、検体の子どもと戦闘服の男達と研究員の男達をそれぞれ、過去形にしたものが血に沈んでいる。

 そして、相手の最年長である黒髪少女が質問するが、即座に久遠は否定する。

 似て非なる物らしい。

「オネエよ、私は妖怪とかその類、刀が折れない限りは死なないもの。」

「後、ジュリさん、せめて、笑えないのは仕方在りませんが、その怒気は抑えましょう。」

「はいはい。

 ……どうした? 」

 150センチ足らずのジュリよりも頭二つは小さな双子が、服その裾を引っ張っている。

 視線を合わせるように、彼女は双子の前にしゃがむ。

「あのね、おねえさんから、“ある”のにおいがするんだ。」

「あのね、おねえちゃんから、“ある”のけはいがするの。」

「……うん、《AL-294》は私の知り合いのトコにいるわ。」

「ならね、ぼくと887ハヤナは、おねえさんについていきたいんだ。」

「ならね、わたしと883ハヤミは、おねえちゃんについていきたいの。」

「おねえさんとぼくと887ハヤナのかみとおなじだから。」

「おねえちゃんと私と883ハヤミのかみとおなじだから。」

「それに、おねえさんはとってもやさしいとおもうから。」

「それに、おねえちゃんはとってもさびしそうだから。」

「「ぼく/わたしは、おねえさん/おねえちゃんといっしょにいきたい。」

「そうか、来い。」

 見た目は、中学生と幼稚園児双子とハグしているが、年齢的には、100歳の棺桶に両足を突っ込んでいる老婆と受精卵よりも年齢差のある光景ではあった。

 まぁ、三歳ぐらいとは言え、二人を一辺に抱き上げる辺り、ジュリも非常識ではあるのだけれど。

 ちなみに平均で言うなら、二人合わせて40キロほどと思ってもらえれば間違いない。

「…………まぁ、詠太郎ちゃんが逝ってから元気なかったから良いとして、どうする? 」

「こいつ等は、裏稼業で殺し殺されがお仕事だけども、悪人ではないぞ? 」

「瑛梧先生!? 」

 そんな会話をしていた時だった。

 染めた茶髪に無精ひげ、後は打ち身などの痣だらけの壮年近い白衣の男性が、金髪の売れないロッカ-のような男に支えられて連れて来られたようだ。

 研究者ではあるが、《AL-294》を逃がした張本人であった。

 それから、瑛梧の説得もあり、残る三人も引き取られることになったのは、追記しておこう。










色々、残酷描写もあがりましたけど、第一稿よりは、マイルドになりました。

ええと、第一稿は描写が詳しく、友人に「どこのエリア88だ!!」と言われる始末。

一応、マイルドめにして、こんな話。


設定はあったけど、なキャラが結構出たり。

特に五代目総長と副総長は遊びました。


五人の生き残りに関しては、双子ちゃんと紅い髪の子がジュリちゃんのトコに行って、ジュリ息子(アラサー/能力者)と喧嘩になったり。

茶水髪の子が、久遠さんのトコに行って、イライアスと兄弟もどきになったり。

黒髪ロングの子が、イライアスのとこ行って、しばらくしたら、イライアスが(夜の意味で)襲われ襲い返したとか。

そう言う後日談はあります。

イライアスと黒髪ロングの子のは、月光で書こうかな、どうしようかな、とか迷ってますが。


あみだくじって恐ろしいね、とだけ呟きます。


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