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1. 「まずは、朝飯食べろ、話はそれからだ、ガキ。」

 マンションに、子どもを連れて来てすぐに、女性は子供を風呂に入れた。

 目立つ傷はない。

 せいぜいが、腕の採血か点滴の痕跡ぐらいだ。

 しいて言えば、身長に対して体重が軽いぐらい。それ以外は普通の子どもに見えた。

 そのまま寝かせるのを躊躇う程度には汚れてはいたけれど。

 

 恐らくは、能力者だろう。

 それも、人工的な、と頭につく。女性が何よりも忌み嫌うそれだ。

 能力者に限っては、天然に養殖が勝つことはないのに。


 その間に、寝室のエアコンをフル稼働。

 勿論、脱衣室も暖める。

 女性の弟が勝手に隠して行ったボクサータイプの下着を着せて、同じく弟のピチピチなTシャツを着せる。

 身長差軽く三十センチ以上はある二人だ。

 辛うじて、ずり落ちない程度。

 ちなみに新品であるので、悪しからず。

「……方法からして、《チャイルド・クラン》から流出組かしら、決戦前の。

 ラディにも送って置くか。本当、人は異端を嫌うのに、どうして人は異端を増やそうとするのかしら」

 女性は子どもを抱き上げて廊下を歩きながら、眼を深紅に染めて解析していく。

 無感動無表情に、タイプライターの方がよほど感情的だ、と言うように、言葉を紡ぐ。

 一端、言葉が途切れる。

 エアコンの微細な作動音がするぐらいで、何も音はしない。


 女性は笑う、いや、哂う。

 笑顔と言うにも、哂った顔と言うにも、歪な顔でこう吐き捨てる。


「ああ、そうか、“人間”じゃないほうが、“駒”にしやすいものね。」

 それから、無言で寝室まで来ると、特注のクィーンサイズベッドに子どもを転がし、自身も横に入る。

 軽く子どもを抱き寄せると、小さくこう呟いて自身も目を閉じた。

  




「せめて、このマンションにいる間は、安らかな眠りが在りますように」





   +++    +++   +++   +++  +++   +++




「……っ、……!? 」

 先に眼を覚ましたのは、子どもの方だった。

 眼を開けると青みがかった銀髪の綺麗なお姉さんが、自分を抱き締めて眠っている。

「(ここ、どこだろう。)」

「……起きたか、ガキ。

 とりあえず、なんか作る、トイレまで連れてく。

 その後、窓のあるほうまで来なさいな」

 子どもが身じろぎしたせいか、女性も目を覚ましたようだ。

 眠そうにしたまま、無防備に彼女は子どもに背を向ける形で身を起こす。

「お姉さんは? 」

「名前? 」

「うん」

「……とりあえず、はなだって呼べばいい」

 勿論、本名ではない。

 髪の色が、縹……露草つゆくさ色に銀を溶かしたようなそんな色だからだ。

 もしかしたら、数日で別れるかもしれない少年。

 

 ……もしも、此処で暮らすのならば、本名を教えようとは思うけれど。

「じゃあ、縹お姉さん、なんで、僕、ここにいるの? 」

「まずは朝飯を食べろ。話はそれからだ、ガキ」

「ガ、ガキじゃないもん! 《AL-294》って」

「私はそれを名前と認めない」

 それから、十分少々。

 四人前の土鍋に三合分、冷凍ご飯とネギと千切りしょうがに、鶏もも肉と卵入りのミソ味雑炊とつぼ漬けが少々。

 それに、ペットボトルのウーロン茶と缶詰のもも。

 朝ごはんと言うには、質より量感が否めないと思う。

 一応、本来住んでいるマンションではなく、最近買ったマンションだ。

 むしろ、冷凍ご飯と鶏肉などが冷凍したあったのは褒めて欲しい。

「食え、雑炊食ったら、こっちの知ってることを話す。

 お前も何も知らない、いや、分からないほどは幼くはないよね?

 ……身元に繋がる記憶はないでしょうが」

「……っ」

「…………系統は違うだろうが、私も同類よ、養殖?」

「……天然か。

「で、貴方が誰かも聞かせて頂戴ね、リコリスと同じなんだろうけども。

 本当、知識は包丁と同じね。見せしめにあいつらはどうすり潰そうかしら」

 縹は、息を吐くように、この場にいない愚か者に対して、殺意を向ける。

 ……微笑んだ顔ではあるのだけど、妙に寒気の走る微笑であった。


 それからは、しばらく無言で食事が進む。

 随分とおなかを空かせていたようで、二人で食べるには多いと思っていた三合分の雑炊は、半分以上、子どもの胃に収まったようだ。

 

 まだ、足りないかな、と縹は、戸棚を探る。

 保存の利くものは一応、幾らか放り込んだはずだ、と。

 そうして自分用のコーヒーとホットミルクを用意し、固焼きビスケットも茶菓子に出して、食べてもいいよ、と子どもに言った。


 頭の中で話すべき内容を整理しながら、しばらくマグを傾ける。

「で、カランコエの坊やは、つくしのお守りよね、違う?」

「からんこえ、つくし?」

「ああ、今出てる方。綺麗な赤紫の瞳だし、番号の語呂合わせだけど番号よりはいいかなって?」

「なら、いい。

 俺はつくしの、この身体のストッパーみたいなものだな」

「…………つくしくんが、念動力サイコキノの流体操作が得意な神話級。

 カランコエが、念動力サイコキノはほどほどだけど、精神操作メインの透視クレボヤンス遠隔会話テレパシーが神話級か。

 レベルは、低いけど、過去視サイコメトリーもねぇ。

 あと二人ともそこそこな予知プレコグも、ほんと奇跡の様な能力構成スキルビルトだわ」

 つらつらと、縹は、つくし達の能力をつまびらかにしていく。

 勿論、彼らは話していない。

「…………っ?」

「一応、私は天然だって言ったでしょ?」

「厄災級なのか?」

「……そう、能力自体は複合しすぎて、識別オーバードゥ不可能ディヴィジョンって呼ばれてる分類になるけどね」

「…………」

「私は、子どもには甘い。

 それに、人体改造を是とするような奴は大嫌い」

「……俺達をどうする気だ」

「……どうしたい?

 私としては、総力戦でそっちの追っ手と研究所とスポンサーは潰す気ではいるし。

 そっちが望むのなら、家族になってもいい。死にたいのなら私が殺してもいい。研究所に戻すことも選択肢に入ってるよ」

 マグを机に置き、縹は人体改造を否定する。

 人は人として逝かせたいと言うのが、根底にあるのだろう。

 自身も、人として逝きたいと言うのがあるのだから。


 そして、つくしとカランコエの問いに、当たり前のように人の命を奪う選択肢を最初から入れている縹。

「同じ研究所じゃなくても、欲しがる研究所は幾らでもあるから」

「なんで、研究所に戻るのを選択肢に入れたんだ?」

「……籠の鳥を放しても、空に帰れずに地に落ちるだけ、それなら籠の方がいいでしょう?

 知り合いが、そう言うデータ取りメインのターミナルケア的な研究所をやっている」

「殆どの被験者は、何故か研究所を離れるとよほど適切な措置をしないと一年以内に死亡する。

 その方法を探せるかどうか怪しいから、主は明言してないがな」

「鴉か」

「とりあえず、旅宮市の集積地と時乃市の港にはおかしい様子は無かった。

 街の雰囲気も含めて、追っ手が来てるにしても索敵の段階だ」

 いきなり空間を割って入って来たのは、線の細い、年の頃は二十歳少々に見える青年だ。

 年齢が読みにくく、プラスマイナス五歳ぐらいをしても違和感のない彼。

 奔放に伸びた襟足の長いウルフカットで、華奢と言うほどではないが細い身体を紺色の裾の長いカンフー服とスキニーデニムを着たちょっと変わったイマドキの青年。

「……いきなり、現れた!!

 お兄さん、長距離の瞬間移動テレポーションできるの、すごい!!」

「……つくしくんの方? 」

「はい、《AL……じゃなくて、つくしのほうです」

「間違ってたら悪いんだけど、距離を稼げないけど、一応できるレベルの瞬間移動能力者テレポーター?」

「はい、えっと、なんで分かったんですか?」

「似たようなのいたのよね、知り合いの能力者で。

 ある程度の念動力者は、できる子が多いし、それが実用的かは投げといて」

「そうなんですかー、高櫻たかざくらさんの言うとおりでした」

 にぱっという感じの子どもらしい笑顔に、縹は少し安心する。

 まだ、引き返せる。普通に子どもとして生きていけるんじゃないかって、この時は思ったんだ。

「高櫻さん?」

「ぼくのお世話をしてくれてた縹お姉さんより、少し上のお兄さんです。

 ……ぼくを逃がしてくれたんです」

「高櫻瑛梧、かな、その高櫻さんは。

 英語の英に王をくっ付けて、きへんに口の付いた数字の五の瑛梧?」

 だけど、つくしの口から出た名前に、油の切れたロボットのようなぎこちない動きで名前を確認する。

 教えていない筈のその名前だったが、縹はその名前を出し、つくしは、漢字は分からないですけど、と簡単に外見にを教える。

 すると、彼女は綺麗に机に突っ伏した。

「は、縹お姉さん? 」

「あぁー、ちょっとね、此処でね聞くとは思わなかったんだ。

 事情変わったな、悪い、ちょっと、電話する」

 無理矢理に気力を立て直した縹は、一つ電話をする。


 それまでの温かい風ではなく、かと言って冷たいわけではないが、強いて言えば、肌寒いと言う雰囲気でだ。

「二代目エーゴが見つかった。

 こっち関係だ。五代目に連絡して、警戒レベル上げてくれ・できれば、こっちでとっ捕まえて欲しい

 身内に手を出したんだ、戦争だな」

『おいおい、おっさんに血が滾るようなこと言ってくれんなって、楽しくなるじゃねぇか。

 久々にでかい祭りになるな、おう、五代目には連絡しとくがお前からもしろよ、三代目』

「うん、私が人体実験系大嫌いなのを抜いても、身内に手を出されるのイヤだからね。

 誘拐はいけないよね。エーゴのお母さん、ムーミンママだったのにミィ並みに痩せてたもの」

『まぁなー、帝大理系のあっち方面ならな』

「相手が国の可能性も含めて動いてくれ。

 一応な、祖父様が脅して、私のメイン活動範囲でやるなって言ってたんだけど。

 拾った子の錬度疲労とかからして、歩いて一日圏内だろうからギリで私の範囲内だ。

 多分、昨日の午前中に逃がされてる。後、薬のクセから国か国落ちだ」

『ほぅ、俺のお袋の実家にも、つか、伯父貴にもだな、連絡するか。

 俺らのとこだしなぁ、手を出すのは仁義にもとるだろうかんな』

「ええ。薔薇姫にも連絡するから、虫の息でも生きてたら治すし、ね」

『なら、市長の方にも連絡入れて、夜間外出禁止にしてもらうか?

 今日の夜から一週間ほど』

「頼む。出来るなら情報の流出は避けたい。

 ガワがプラスチックのアサルトのゴム弾も使っていいわ。他の銃器武器も集積地にある分は使え」

『大盤振る舞いだな。救出はどうする?』

「そっちは久遠さんとジュリさん、リンデンで行かせる」

『ひゃっひゃひゃひゃ、ガチだな。

 リンデンと久遠なんざ、室内戦特化だろうし、あのちっこいのも対人戦好きだろ?』

「まぁ、ね。

 それに珍しく、エーゴにはジュリさんもイライアスも懐いてたもの。失踪はショックだったみたいね」

『幾ら静かに穏やかに猫みたいに暮らしてても、虎の子を虎の子と見抜けないで尻尾を踏んだんだし?

 ご愁傷様でした、ってところかねぇ?』

「誰が、虎の子だ」

『三代目と俺達、と言うか、外国っても《C.C.》の顛末をゼロの連中は把握してないのかね』

「してても、現場に出ないジジイ共は見ようとしないだけよ。

 とりあえず、ラディの報告聞いたら夕方にはまた連絡する。

 五代目は一応、一般人だけどね。今回は借りなきゃいけないみたいだ」

『いいって。初代の思惑からしたら俺達の役割だ。

 蓮児れんじ辺りも、ノリノリで参加すると思うぜ?』

「顔隠しと家族以外のアリバイ作っといてね。

 まぁ、《デザートストーム》で、私の本発売記念パーティってことにして十人ぐらい残しとけば、酒の席だけど店の人の証言でアリバイにはなるでしょう?」

『おう、またな』

 流れるように、打ち合わせもしてないのに、ぽんぽんと会話が交わされる。

 少々、補足するならば、エーゴ、もとい、高櫻瑛梧は、二代目こと、薬袋大命みない・ひろやの代の副長であり、彼が引退した後は、縹が率いていた連合の別のチームの副長をしていた青年だ。

 ちなみに、母親が二代目の母親と姉妹の為、いとこなのであった。

 更に付け加えるなら、母方の伯父は古式ゆかしく映画にしか居ないような任侠である。

 

 頭も良く、帝大理系へストレート合格。卒業後とある研究所へ就職したのだが、そこを三日で辞めて以来の足取りが、縹達でも一切掴めなかった。

 人間を辞めない範囲で、超のつく一流レベルの情報屋メインの裏稼業連中がである。

 その数少ない例外が、国関係だろう。

 特に日本という国は、詭弁のように自衛隊以外の戦力をもてない。

 更に言うのなら、9.11.が無ければ、情報戦が前提の現代であるのに、ゼロこと、公安は解体されていたかもしれないという国だ。

 今は、テロの不安もある関係もあり解体はされていないが、それでもスパイ天国と揶揄される時点でお察し。

 

 そんな中で、自衛隊のような戦力以外をもてる方法を知ればどうなるだろう?

 政府しゅうだんの幸せの前には、人間こじんの幸せなど陽炎よりも儚い、とそれを答えにさせてもらおう。

 戸籍の無い人間兵器って使い潰しやすい武器じゃないの、とでも。

 そして、追い詰められていたとは言え、カミカゼ特別攻撃隊を是とした国なのだ。

 

 しかし、それはさておいて。スピーカーモードにしてない電話であったのに、笑い声以外にも会話が丸聞こする二代目は、どんだけ声が大きいんだろう、と。

「と言うわけだ、つくしたちの言う高櫻瑛梧は、身内でね。

 今回の件で命も危ないだろうから、助けるけども」

「……あのな、縹の姉ちゃん。

 瑛梧が危ないのは黙ってたのに」

「少なくとも、選択の材料にするべきよね。

 後、精神的ショックが入れ替わりのスイッチ?」

「そうだ」

 話を変える様に、縹は指摘する。

 それに、いやいや付き合う形でカランコエは肯定する。

 縹は、時計が十時近いのを確認して一言。

「追加の情報が、もうしばらくしたら来るし。

 来ても、そいつと情報の付き合せだから二人で話し合え。

 鴉は置いていくから、聞きたい事があれば聞けばいい」

「その兄ちゃん、ナニ? 」

「特殊な式神かしらね、養殖と言う意味なら、貴方の同類。

 100%ナマか、30%ナマかの違いね。生体リンク試すのに完全に精霊側に置けなかったの。

 だから、情報に関しては私と鴉は同じものを持ってるから、分からなければなんでも聞けるわ」

「そういうことだ。

 必要が無ければ、話す気はないから、勝手に相談してろ」

 と言うわけで、マンションのリビングでつくしとカランコエは相談をする。

 分からないことがあれば鴉に聞いたし、途中で、打つ金髪の売れないバンドマンみたいな青年が、サンドイッチなんかも買って来てくれたので、それでお昼にしたりした。





 縹は、宣言どおり、夕方まで二人の前に出てこなかった。







 


色々と、補足すると。


縹は、=裄瀬あざみです。

んで、13歳で、暴走族の七つのチームからなる連合のトップになって、19歳で辞めるまでが三代目でした。

その先代が、声のでかいおっさんもとい、電話の相手の薬袋さんなわけです。


後、公安がどうこうとかは、当時の資料とかその手の本とかを組み合わせて在ったかも知れないお話です。

今、ブログでやってる二次の関係で政府がブラックですけど、ホワイトの綺麗事カマトトよりは信用できると思うのです、関わらなければ。


また、現実よりも暴力団対策法が緩く、地方の自警団的な意味がつよい程度には、日本の治安は悪い状態です。

作中は、2010年前後と思っていただければ。


次回分は、裏稼業全開の会話です。

つくし/カランコエが知らないけど、説明が必要な回です。

なので、会話が多くなりますが、ある程度知っていて、その上でのすりあわせなので、結構黒いです、縹もラディも。



では、次回。


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