ф不死王 共通① 退位
「王は不死だ」
「何をいきなり……」
――多種多用の宇宙間でも異物とされる惑星ノングエイン。
原生民は性別というものを持たない。故に衣服、言動、仕事あらゆる面で差別がない。
「シャルレよ、お前が知る中で一番早く死ぬ星民は?」
「テラネスという星民ですが、雑多な種ですよ」
そして王となったものは守護神が有る限り死ぬことはなく。
王の職務の合間に、ただ退屈な日々を過ごしていた。
「そうだ退位しよう」
「はい?」
王位を次の王候補へ譲り、私はテラネスへ向かった。
私が他の星からみれば容姿が女なので次代の王は男という規定がある。
似た点では強い魔力を持ち古い次代に宇宙を支配していた惑星ウィラネスでも王の性別は順番制度だ。
「絵に書いたようなサイバーチックというやつか……」
――噂では最近滅んだとされる惑星プルテノの王女も移住しているという話。
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「――元陛下がノングエインを出た!?」
前王が退位後、即座に失踪したという発言に桃髪の少年は驚愕した。
「声が大きい。先代陛下を迎えにいく者はちゃんとここにいる」
前王カトレアの配下である金髪の男は荷物を纏めて小型宇宙船に放ると自分も乗り込んだ。
「ならよか……ってシャルレさんが追いかけるんですか!?」
「私は天命を全うする日まであの方に全てを捧げる所存だ」
暫しの沈黙が流れ、桃髪の少年は行き先を訪ねた。
「テラネスという星だ。先代陛下にはつまらない星といったが、実際はほとんどの星民が魅了される安定し、資源豊かな星だ」
「直属の部下のオレも行きますよ!」
「バルビル、貴様は観光目当てだろう」
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「ら~ら~」
どこからか吟遊詩人のように良い声が聴こえる。あたりを見渡してみると路上で男が楽器を爪弾いていた。
「よかったよ」
「すばらしい声だわ」
歌を聞いていった者等から金が缶に投げ込まれていく。
「おや、こんにちは美しいお嬢さん」
黒髪の青年はこちらに気がつくと、手を止めて笑いかけた。
「そなたはなぜ、往来で歌っている?」
「うーん。わからないけど、才能があるって友人に言われたからかな」
友人という単語は、イマイチしっくりとこない。
「その服はとても豪奢なものだけど、お嬢さんは異星人なのかな?」
「ああ、ノングエイン星からきた」
どうせ知名度は低い星なので、この者は知らないだろう。
「えーっと太陽星の下半球の星なんだ~」
「それはなんだ?」
この辺りの星民は随分と珍妙なアイテムを使っている。
ところどころに魔力を遮断する装置がおいてあり、おそらく科学とやらを使う者達と見受ける。
「タブレッティオだよ。もしかしてノングエイン星には無いの?」
「知識としては科学アイテムを使う星があるのはわかるが、我が星には魔法があるからな」
私は立ち去り、新たな場を開拓に向かう。
「……もしもし、宇宙軍の方ですか――ホシ、見つけましたよ」
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「人工母機と惑星シヴェリヤのお陰で少子高齢化は脱却され社畜も量産され経済発展したのに、この学園には生徒が不足している!」
とある学園の中年の校長は新任教師に嘆きをぶつけた。
「はあ……」
「というわけで、生徒候補を拾って来るんだ!」
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「いるわけねーよ……」
「うわ!!」
そこらを歩いていると、スーツ男にぶつかった。
「ああ、悪い……アンタ異星から来た子だよな?いま高校通ってるか?」
「高校……?」
「あー学園だよ」
学園と呼ばれるものならサニュにはあるが、ノングエインの王族侯貴族の子は専属の家庭教師がいるので通う必要がない。
「取り合えず私は帝王学を学んだ」
「……もしかして女王様候補とかか?」
例外として庶星民ならば惑星ドゥーブルにある魔法学園に通う者はいる。
星歴2550光年におけるこの時代、そちらが主流であり、ノングエインは些か古いのだ。
「なぜ会ったばかりの素性の知れぬ者にそこまで話さねばならぬのか?」
「あー悪い。俺は井澄ルシクーだ」
名前を言われたが、どこまでが名前で名字か解らない。
「イスミルが名前か?」
「イスミが名字で名前はルシクーな」
理解不能な点はあるが、これも星の違いというわけだ。
「……頼む、お前が何者でも構わないから生徒になってくれ!!」
「良いぞ」
よくわからないが学園とやらは気になるので了承した。
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「なあディターン、転校生が来るらしいよ」
黒髪の男子生徒は後ろの席に座る青髪の男子生徒ディターンに話しかける。
「興味ねえ」
ディターンは机に突っ伏した。
「私より可愛い女子かもよ」
女子生徒はディターンに声をかけた。
「お前は男だろアルオイン=フィランソワ」
「やれやれ、この星の人は男だ女とうるさいな。私の星では……」
「ノンカフェインだかノングエインだか知らねーよ」
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「今日は転校生を紹介するぞ」
「カトレアだ。王族なので名字はない」
退位したので星の名はもう語れない。よって私の名乗るものは名前だけだ。
よく見れば、昨日の黒髪の奴がいる。視線がかち会うと、こちらに手を降ってきた。
「席は澄羅ディターンの隣が空いているな」
「よろしく」
隣の青髪、たしかスミラディターンとかいう名の奴からの返事はない。
「昨日ぶりだねお嬢さん」
「ああ」
「オレはアズ・クロークっていうんだ。気軽にクロークって呼んでね」
名前はクロークのほうだったのか。
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放課後になり皆が帰宅する時間になった。この星は24時間制らしいが宇宙は25時間方式なので感覚が合わない。
そして困ったことに私は宇宙船を広げるところがない。どこかにちょうど良い家があればいいのだが―――




