親バカ
「さぁ、王子。御座りくださいませ。」
引かれた椅子に腰を下ろす。
案内された場所は、比較的小さな屋敷………じゃなくて、その敷地内の夏の厳しい日差しを防ぐような日陰のある整備された庭園だった。
甘い香りを放つ名も知らない花々が咲き乱れており、蝶が花に掴まり蜜を吸っている。
「ここは私に与えられた家の一つです。この素晴らしい花々を王子に是非ともご覧になって欲しくて。」
質問をする前に、聞きたかった事を答えられる。そういえば、彼女は様々な功績から幾つかの土地を与えられていた。そのうちの殆どを王に返し、貧しい人々が安らかに過ごせるようにと言った、という噂が残っている。
ルイさんは、楽しげにいつの間にか置かれていたカップを口に運んだ。
「…………たしかに、綺麗だね。誰が整備しているの?」
「でしょう?この庭を整備しているのは、ついこの前森の中で蹲っていた少年なんですよ。とてもとても良い子なんですよ。」
透き通るような茶色の紅茶は、風のせいで水面が揺れていた。
ふと、テーブルが暗くなった。
影が伸びてくる方向を見ると、それは美しい二人の男女が居た。
白い清潔そうなシャツの上に黒いベストの、目の下に泣きぼくろがある芯の強そうな瞳の少年。その横には控え目の微笑をたたえたメイド姿の少女が、箒を片手に立っていた。
どちらも、羽毛に覆われた手首と鳥の鱗で飾られた足が特徴的だった。
「あ、そうそうこの子が荒れ放題だった庭を整備したんですよ。二人とも可愛らしいでしょ?」
「そ、そうだね……。」
「はぁ?可愛いとか言うんじゃねーしっ!」
可愛いと褒めると少年は顔を赤く染めて、怒ったように言った。
「わわっ!ごめんっ!」
「い、イーちゃん。や、やめた方がいいって!ご、ごめんなさいっ!イーちゃん、不器用で……」
慌てて謝る僕に向かって、さらに慌てた様子で、繊細なガラス細工のような声で謝り頭を深く下げる。
「キキ、お前もイーちゃんとか言うなよっ!子供じゃねぇんだし……。」
「え?でも、イーちゃんこの前怖い夢見たって言って私のベッドの中潜り込んできたじゃないの。」
謝る少女、キキに向かって激昂する少年は、キキの口から出された衝撃の真実を聞き、呆然となっていた。
「少年の名前は、イーヴ。少女の方はキキという名です。この二人は森で拾ってから我が子のように溺愛してるんです。昨日なんて、頑張って書いた花の絵を見せてくれたんですよ!」
本当に嬉しそうな表情で、キキが注いでくれた紅茶を飲む。二人を愛してやまないという心が読み取れるようだ。
「………これって、ただの自慢だよね。」
「もちろん、そうですが。」