ルイさんの案内
お腹いっぱいになるまで食べると、すぐに空になった食器を、子供のようにあどけない顔をしたメイド達が片付けていく。
「ねぇねぇ、そこの君。今度さ、空いた時間で一緒にお食事でも……。」
「え、えぇっ?エミル様ぁっ?」
「……エ・ミ・ル・様ぁ?」
顔を赤く染めたメイドさんを食事に誘うと、何故か後ろから殺気が。
「仮にも一国の王子なんですから、ナンパは控えてください。」
「わぁあっ⁉︎ごめん、ラミアっ!殺さないでぇっ!」
必死になって、頭を下げる。一国の王子、その言葉で本当に王子になったという事を改めて再確認した。
食事の後、剣の稽古をつけてもらうために修練場に向かう。
自慢じゃないけど剣を扱うのは、魔法よりは得意な方だ。魔法は覚えることが多く、あまり好きではない。
考え事をしていたせいか、変な場所に出てしまった。修練場の場所が分からなくなり、困っていると木の影から見覚えのある風に揺れる赤茶色の毛髪が見えた。
「あ、誰かと思えば……王子じゃないですか。」
「ルイさん?」
「どうなされたのですか?」
「いや……修練場の場所が分からなくなって……。」
「それじゃあ、私が案内しましょう」
ルイさんは、優しく甘く微笑んだ。
「えと………あの聞いてもいいかな?」
「何でも、答えられる限りなら答えますよ。」
「じゃ、じゃあ………何で僕が王子だって知ってたの?」
何を聞こうか考えてなかったので、ふと思い浮かんだ事を口に出す。彼女は、ほんの少しだけ悩んだような素振りを見せ、困ったように笑って言った。
「うーん………何でしょうかね。強いて言えば、その手の甲の紋章のおかげでしょうか?」
そう言われ、自分の手の甲を見てしまう。手の甲には己の尾を噛み、環となった龍。何年経っても色褪せないインクで描かれたようだ。
紋章の色も、僕の左の瞳もその深みのある燃える炎のような赤。
「…………私、貴方の出産に立ち会ったんですけど……王子様は知らないですよね。」
「え。…………知らなかった。」
「ですよね。まぁ、出産に立ち会ったんですが、驚きましたよ。こんなに美しい色を持つ人が居るなんて。」
その時の事を思い出したように笑って、彼女は足を止めずに、修練場とは明らかに別の方向へと進み続ける。
「あのさ。………どこ向かってるの?」