表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/38

第五章

 直巳がアリエラと出会ってから、2日後のこと。

 直巳が学校帰りに駅前を通ると、アリエラが箱を抱えて立っていた。

「カイム」

 直巳が呼ぶと、どこからかカイムが現れて、直巳の肩にとまった。

「直巳、どうしたの? 遊んでくれるの?」

 ツンツンと直巳の髪をついばむカイムをあやして、用件を告げる。

「アリエラがいるから、ちょっと話そうと思って。一緒に来てくれないか?」

「あ、そういうことね。オッケーオッケー。じゃあ、この護符持ってて。これでずっと言葉の通じる魔術がかかるようになるから」

 そういうと、カイムは身につけた装飾品の中から、一つの小さな金細工をくちばしでついばんで外し、直巳に渡した。

「ありがとうな。後で、何かご馳走するから」

「本当に!? じゃあサラミ!」

 ツグミなのにサラミをリクエストされた。直巳がネットで検索したところ、ツグミは果物が好きということになっていたはずだが。悪魔だから肉や脂が好きということなのだろうか。それではカイムが大嫌いなカラスと同じだが、いいのだろうか。ちなみにBは魚肉ソーセージやワカメなどの海産物が好きで、Aは酒や煙草、香辛料などの嗜好品を好む。

 リクエストを了承すると、カイムを肩に乗せてアリエラに話かけた。

「こんにちは、アリエラ」

「ナオミ! どうしたの?」

「アリエラがいたから、何をしてるのかなって」

 ナオミは首から、チラシの裏を張った箱を下げている。

 チラシの裏には、「てんしきようかいをたてるためのきふをおながいします」と書いてある。

 かなり汚いので、推理しないと文章の内容は理解できない。

「……寄付を募ってたの?」

「はい! 少しだけ言葉も勉強したので、寄付をお願いしています!」

「集まってる?」

「正直、あまり集まってません……でも、仕方ないです。お願いしている立場ですから」

 それでも、めげている様子はない。どこまでもポジティブなのだろう。

 この時点で、カイムからの視線を感じる。

(余計なことしようとしてるよね? アイシャ様に言われたよね?)

 わかってはいるが、アリエラの放っておけないオーラは半端ではない。それに、この状況を黙って見逃せるような教育を、姉のつばめから受けてはいない。

(女の子には優しくしないと駄目なのよ。お姉ちゃんにも優しくしてね)

 立派なシスコンとして育てられた直巳には、姉の教育が骨まで染みついている。

 直巳は少しだけ考えてから、妥協点を探り出した。

「アリエラ。余ってるチラシと、書くもの持ってる?」

「え? ありますけど……」

「ちょっと、貸してもらえるかな」

 直巳はアリエラから紙とマジックペンを借りると、出来るだけきちんとした字で、寄付を募る文章を書いた。

「壊れた天使教会を修繕するための寄付を募っています。ご協力ください」

 自慢できるほど綺麗な字ではないが、アリエラの字よりは通じるだろう。

「アリエラ。これに張り替えるといいよ」

「まあ……ありがとうございます! 綺麗な字ですね! なんて書いてあるのですか?」

 直巳が内容を説明してやると、アリエラは喜んでくれた。

「早速、これに張り替えます! ありがとうございます!」

「ああ、それから。寄付してくれた人にさ。握手するといいよ」

「はあ……握手、ですか?」

「そう。俺と初めて会った時みたいに、こうやって両手で」

「それは……もちろん構いませんが……どのような意味が?」

「言葉が通じないから、感謝の気持ちをわかりやすく示した方がいいだろ? ありがとうございます、って言いながら、握手をするといいよ」

 直巳の提案に、アリエラはずいぶんと感心してくれたようだった。

「試しにやってみようか。いい? お礼は大声で。握手は俺がいいよ、っていうまで続けて」

「わかりました!」

 そう言うと、直巳は財布から100円を出し、箱に入れる。

 その瞬間、アリエラの両手が直巳の手をしっかりと包んだ。

「ありがとうございます!」

 アリエラが満面の笑みを浮かべ、大声で感謝を述べる。

 その大きな声に、人々はアリエラの方を振り返った。

(まだ……まだだ)

 言葉に反応して、人々が振り返っても、アリエラはまだ、笑顔で直巳の手を握っている。

 人々がその様子を十分に見届けた、というところで、直巳はアリエラから手を放した。

「うん。これで大丈夫。次から、握手はこんな長くなくていいからね」

「はあ……よくわかりませんが……そうしますね」

「うん。これで、寄付も増えるはずだから」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。アリエラが何をしているか、みんなにも伝わったと思うよ」

 天使教会再建の寄付を募っていることが伝わったかはわからない。だが、アリエラが抱えているのは、「お金を入れると可愛い修道女が笑顔で握手をしてくれる箱」だということは伝わったはずだった。当然、そのことをアリエラには言わないが。

「それじゃ、頑張ってね。また、様子を見にくるから」

「はい! ありがとうございます!」

 直巳はアリエラに別れを告げると、少し離れた場所から、様子を観察することにした。

 すると、最初はおっかなびっくり、一人の男子学生がアリエラに寄付をした。

「ありがとうございます!」

 アリエラは出し惜しみ無しの笑顔と握手を、男子学生にプレゼントした。

 他の男性は確信しただろう。あれはもう、魔法の箱で間違いないと。

 それからは、寄付に行列ができるほどだった。硬貨一枚で彼女は喜び、男達は潤う。

 中には千円入れて様子を見るバカもいたが、もちろんアリエラからは笑顔と握手だけだ。他の人よりも大きく喜んでくれるので、入れた甲斐はあるだろうが。

 行列がなくなった時には、女性も興味半分で寄付をしはじめた。アリエラは変わらぬ対応だったが、ここまで喜んでくれて嫌な気はしないだろう。

 これを続ければ、明日には噂が噂を呼び、アリエラが寄付に困ることはないはずだ。

「直巳……えげつないね。あれ、もう握手会だよ」

 カイムが呆れた声で言うが、直巳はどこ吹く風だった。

「誰も損してないだろ?」

 元々、直巳にはこういう、ずる賢いところがある。つばめは、直巳のこういう面を嫌がるのだが、これぐらいなら、まあいいだろう。

「可愛いって得だよねえ。うちの女性達にも、やらせてみたいね」

 カイムが愉快な提案をする。試してみたい気はするが、そんな目立ち方をしても仕方がないのでやらないが。

「カイムは、誰が一番だと思う?」

「当然、アイシャ様! 一番可愛いから!」

 カイムの無邪気な答えを聞いて、直巳は笑った。

「じゃあさじゃあさ。直巳は、誰だと思う?」

「……服装次第かな」

「僕、直巳のそういうところ嫌い!」

 カイムが直巳の髪をくちばしで何度も引っ張る。

「冗談! 冗談だって! 痛いって!」

「もう! で、誰だと思う?」

「うーん……Aかな。男女問わず、狙いを決めたやつから、数百万単位でむしり取りそう」

 直巳の答えを聞くと、カイムは何かを思い出すように遠くを見つめた。

「……怖いよ、アスタロトの本気は。昔、富豪の娘がアイシャ様を虐めたことがあってね」

「いや、話さないでいい。聞きたくない」

 富豪の娘、アイシャを虐めた。このキーワードだけで、「Aは富豪の娘に何をしたでしょうクイズ」の解答予想が嫌な結果で埋まってしまう。

「ま、そのうちAの誘惑術が役に立つ時もくるのかもな」

「僕も得意だよ! 弁舌と詭弁の悪魔でもあるからね!」

「そっか。頼りにしてるよ。じゃ、サラミ買って帰るか」

「やった! ねえ、直巳」

「ん?」

「こんなこと言ったら駄目なのかもだけど。あの子、いっぱいご飯食べられるといいね」

「――そうだな」

 直巳はスーパーでサラミを買うと、カイムと分けて食べながら帰った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ