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第三章

 アリエラは、直巳から貰った携帯栄養食を大事に食べ終えると、半壊した教会の椅子に座り、足のマッサージを始めた。

 今日、ようやく目的の町に辿り着くことが出来た。

 途中で路銀が尽きて、何日も歩くはめになったので、足がパンパンだが、道中で色々な収穫もあったし、無駄とは思っていない。

 30分ほどかけて、丹念に足のマッサージを終えると、アリエラは椅子の上に寝転んで、夜空を見上げた。

 空はどこの国でも、どこの町でも同じはずなのに、見え方はぜんぜん違う。この町は建物がたくさんあって明るいせいか、星があまり見えない。

 星が見えないことを悪く言う人もいるが、これはたくさんの人がきちんと暮らしているということ。良いことなのだと、アリエラは思う。

 その、たくさんの人の中から、幸運にも良い人――ナオミという少年に出会えた。

 アリエラは、食べ終えた携帯栄養食の包み紙を握りしめながら、昔のことを思った。



 アリエラは、ある地方の村で生まれ育った。寒いところで、作物はあまり育たたず、海も遠いので、人々は畑仕事と畜産と林業で、細々と生計を立てていた。

 アリエラには両親がいなかった。正確には、捨てられていた。

 どういう経緯でそうなったのかはわからないが、物心ついた時には、アリエラは村長の家で働いていた。

 村長には子供が3人おり、みんな学校へ行っていた。アリエラは、家の手伝いや、町へのお使いが忙しくて、学校へ行くことはできなかった。

 アリエラは村長の子供であって、子供ではない。使用人でしかなかった。

 そんなアリエラの唯一の楽しみといえば、たまにやってくる天使教会の神父が聞かせてくれる、色々な天使の話だった。

 神父が言うには、天使は色々な奇跡を起こして、人を救ってくれるのだという。

 具体的に、どうやって救ってくれるのかは想像が付かなかったが、天使様に会うことができれば、きっと幸せになれるのだと、アリエラは信じていた。

 村長はそれなりに熱心な天使教徒だった。本当に天使様に忠誠を誓っているのではなく、彼には天使様に祈る必要があったからだ。

 村長の妻は、長らく病に伏せっていた。

 病のせいで気が立っているのか、アリエラは、奥様によく八つ当たりをされた。細かくは思い出したくもないが、アリエラの左手の小指は、今も少し曲がっているし、冬になると背中が痛む。

 それでも、アリエラが彼女を恨むことはなかった。彼女も病で苦しんでおり、仕方がないことなのだと思っていた。自分も彼女も、天使様にお会いできれば、苦しみから解放されるだろう、救われるだろうと信じていた。

 アリエラは、天使様に会いたかった。


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