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終章

 アリエラとの戦いを終えてから、一週間が経過した。

 失踪事件は起こらなくなり、町には平穏が戻ったことを確認すると、久しぶりに天使狩りを行なった。

 アイシャが久しぶりに、「嘆きの涙」を使い、Aが降臨地点を予測し、伊武が狩る。

 いつもどおりの動きで、降臨した天使を狩ることができた。

 伊武の魔力が少ないことが心配だったが、「天使の奇跡」を弾くぐらいは問題なく出来た。

 久しぶりに手に入れた天使遺骸を見て、直巳はほっとする。

 人間のものでないとはいえ、切り落とされた両腕を見て安心するという異常さに、直巳は気づいていなかったが。

 天使狩りを終えて帰ってきた一同を、つばめが出迎えた。

「お帰りなさい」

 車椅子で玄関までやってきたつばめは、いつもどおり笑顔だった。

 寒いのか、肩まで毛布をかぶっている。

 アイシャやA、それに伊武は、それぞれつばめと言葉をかわし、リビングへ向かっていく。

 Bだけは、しばらくつばめの周りをうろうろしてから、リビングへ向かった。

 いつもなら、つばめの膝に乗っかってごろごろするのだが、様子がおかしい。

 全員がリビングへ入った後、直巳はつばめを呼び止める。

「姉さん、ちょっといい?」

「ん? どうしたの? なおくん」

 つばめは笑顔だったが、顔色が悪い。真っ白だ。よくみると、唇も震えている。

 直巳は説明のできない嫌な予感に、頭の先から、音が聞こえるほど一気に血が下がった。

「……姉さん、何があったの?」

 直巳が声をかけると、つばめは、はらはらと涙をこぼし始めた。

「な、お、くん……ごめんね……黙っていたかったんだけど……やっぱり、黙ってたら駄目だよね……余計に、迷惑かけちゃうよね」

 そういうと、つばめはかぶっていた毛布を取った。

「なん――で――」

 直巳が絶句する。

 つばめの腹部までが、石膏になっていた。

 つい先日まで、石膏化していたのは膝から下だけだったのに。

 この短期間で、どうしてここまで進行したのか。

「ごめん……なさい……もう……放っておいて……いい……から……」

 つばめは、か細い声で言うと、そのまま眠ってしまった。気を失ったと言ってもいい。

 まるで、初めてつばめが石膏化した時と同じような衝撃だった。

 あの時は、足だけでもショックだったのに、今回は、さらに――。

「――対策を考えましょう」

 いつの間にか、アイシャが後ろにいた。

「みんなに伝えるわ。直巳も、つばめを連れてすぐに来て」

 アイシャはそう言うと、リビングへと向かった。

 リビングへ入る直前、直巳の方を向かずに言った。

「泣くのなら後にしなさい。必要なら、朝まで付き合ってあげる」



「わ……私が……私がっ! 知ってたのに……私がっ!」

 腹部まで石膏化したつばめを見ると、伊武が取り乱した。

 伊武はつばめの体調が悪いのを知っていたが、口止めされていたのだという。

「あの時……ちゃ、ちゃんと伝えていれ……いれば……ご、ごめ……ごめんなさい……」

 震えながら頭をかきむしる伊武の頬を、アイシャが殴りつけた。

 伊武が話を聞くようになるまで、何度も何度も。

 アイシャの拳がすりむけたころ、ようやく伊武は話を聞けるようになった。

「まれー。本当に心配しているなら、これからどうするかを考えなさい」

「そう……そう……だ……ね……わかっ……た……」

 アイシャの言葉に、頬を腫らした伊武は、しっかりとうなずいた。

「まずは、手に入れた天使遺骸を使って治療しましょう。A、やりなさい」

「はい」

 Aは、手に入れたばかりの天使遺骸2本を惜しみなく使い、治療をはじめた。

 天使遺骸を灰にして、つばめの石膏化した部分に振りかける。

 そして、つばめの下腹部にアスタロトの印を描いて魔術を発動させた。

 たいした時間もかからない。手慣れたものだ。

 結果――石膏化は下半身まで押し戻すことができた。

「振り出しにも、戻ってないわね」

 アイシャは唇を噛む。ようやく手に入れた、貴重な天使遺骸を2本使ってこの有様だ。

 急な進行の理由は、Aにもアイシャにもわからなかった。本当は、全身が石膏化するまでには、何もしなくても数ヶ月の猶予があるという見立てだった。

「天使の奇跡」は何が起こるかわからない――そうとしか、言えない。

 こうなると、ある日突然、つばめの全身が石膏化する可能性も否定ができない。

「やはり、天使遺骸は効きます。問題は、入手ができないことですが」

 さすがのAも、真面目な口調で言うと、アイシャは、「そうね」とうなずいた

「天木には伝えておいたわ。緊急事態だから、「嘆きの涙」が必要だって。あの男がどこまで役に立つ気があるかはわからないけど」

 アイシャは顔をしかめて、天木への苛立ちをあらわにする。

「他に、手は無いのかしらね。嘆きの涙にだけ頼るのは危ないと思っていた……その矢先にこれだもの……嫌になるわね」

 アイシャは自嘲するように笑うと、目を閉じて天を仰いだ。

「天木以外に、使えそうな人間――どれくらい、いたかしらね」

「どんな人……なら……役に……立つ?」

 伊武にたずねられると、アイシャは顔を上に向けたまま答える。

「天使の力に詳しいか、つばめを助けられそうな奴なら、何でもいいわ」

「魔術師じゃ……なくても?」

「なんでもいいわよ、そんなの。人でも悪魔でも天使でもね」

 アイシャが半ば投げやりに言うと、伊武は目を閉じて考え事をはじめた。

 考えるというよりは、迷っているようだった。

 そして、10秒ほどすると、おもむろに口を開いた。

「使えそう……なのが……いる……」

「どんなやつ? 魔術師?」

 アイシャがたずねると、伊武は肯定も否定もしない。無視しているわけではなく、どう返事をしていいか、わからなかったからだ。

「……魔術具作成者クリエイター

「魔術具作成者……ねえ……」

 アイシャが疑わしそうな口調で言うと、Aも同調して薄く笑った。

 魔術具作成者――その名のとおり、魔術具を作る者。魔術師とも違っており、錬金術師の系譜に連なる存在である。

 ただ、高田が持っていた杖のように、おもちゃのような魔術具を作っては素人に高く売りつけるような連中も多い。動くおもちゃならまだいいが、動かないガラクタを売りつけることも多々ある。そういうのはもう、魔術具作成者でもない、ただの詐欺師だが。

 自称、魔術具作成者は多数いるが、ほとんどがペテン師だということだ。

「少し……待ってて……」

 伊武は疑っている二人を無視して、突然、リビングを出て行った。

 直巳とアイシャは、伊武の考えていることがわからず、顔を見合わせる。

 すぐに戻ってきた伊武の手には、妖剣フリアエと守護剣アルケーが握られていた。

 伊武は、その2本をテーブルの上に置く。

「これは、マルジェラの持っていた剣ですね?」

 Aがアルケーを見て、なぜここに持ってきたのかと不思議そうな表情をする。

「……そう……よく見ると……刃の根元……に……Hg……っていう……刻印が……ある」

 伊武が、アルケーの刃の根元、刻印のある場所を指で示す。

 光の加減でようやく見える、というようなものだったが、他の人間も確認できた。

「で、このHgがなんだっていうの?」

 アイシャが、Hgと彫ってある部分をなぞりながら言った。

「Hgは……人の名前……アルケーを作った……魔術具作成者(クリエイター)……マルジェラの……他の装備……スーツとか……作ったのも……多分……Hg……」

「なるほど。アルケーやマルジェラの装備を作ったっていうなら、腕はありそうですね」

 Aが言うと、アイシャも黙ってうなずいた。

「そのHgの腕が良いのはわかったけど、天使の奇跡をなんとかできるの?」

「Hg……は……天使についても……少しは……知っている……はず……だから……」

「ふうん……で、まれーはどうして、そのHgのことを知っているの?」

 伊武が、フリアエの柄の後ろを見せる。

 荒っぽい手彫りだが、間違いなく書いてあった。

 Hg。

「フリアエを作ったのも……Hg……フリアエは……天使の力を弱め……傷つける武器……」

「――天使を切る妖剣か。傷つける武器が作れるなら、治せる道具が作れるかもってこと?」

 アイシャの言葉に、伊武がうなずく。

「なるほど……悪くないわね。それに、今後の役にも立ちそうだわ」

 アイシャが伊武の提案を認めて、受け入れる。

 伊武の提案は有用だということだ。それで、直巳にも希望が湧いてきた。

 Hgというのがどんな人物かはわからないが、伊武にフリアエを渡しているのだ。きっと協力もしてくれるだろう。

「じゃあ、Hgを探して、協力を依頼するっていうのが、次の――」

 直巳が弾んだ声で言うと、伊武は首を横に振って否定した。

「協力は……多分……してくれない……から……無理にでも……協力……させる……」

「え? でも、伊武にフリアエをくれたんだろ?」

 直巳が言うと、伊武は再び、首を横に振った。

「フリアエは……私が……Hgから……奪ったの……」

「奪った……? Hgは、伊武の敵だったってこと?」

 三度目の質問で、伊武はようやく首を縦に振った。

「私は……フリアエで……Hgに……殺されかけた……の……」

「――え?」

 直巳は、伊武の言っている意味が理解できず、妙な声を出した。

 固まっている直巳を尻目に、伊武は突然、上着を脱ぎ出して、タンクトップ一枚になった。

「……見てて」

 伊武が小さく息を吐いて力を抜くと、右腕の肩口から血が滲みだした。

「なっ――どうして――」

 直巳が驚きのあまりに声をあげると、伊武は落ち着いた声で、「大丈夫」と言った。

 そして、小さく息を吸うと、傷口は完全に閉じた。

 Aが伊武に、無言でハンカチを渡す。伊武は黙って受け取ると、肩口の血をぬぐった。

「超回復能力を……完全に切ると……こうなる……の……以前……Hgに……右腕……落とされて……無理矢理……くっつけてる……だけ……」

 なんだ。伊武は何を言っている。右腕を落とされた? 無理矢理くっつけている?

「フリアエは……元々……Hgが……私を……アブエルを殺すために……作られたもの……だから……Hgと……戦った時……に……奪った……の……」

 伊武は周りの反応が見えていないようで、人差し指でフリアエの刃を、ゆっくりとなぞりながら、ぼそぼそと言葉を続けた。

「Hgに……フリアエで……アブエルの腕……落とされて……私の腕にも……影響が出た……フリアエで切られた……天使の傷は……簡単には……治らない……から……」

 ということは。伊武の右腕は、「本当は落ちている」というのか。それで、これまで戦い続けていたというのか。マルジェラと死闘を繰り広げていたというのか。

 直巳は驚きのあまり、何も言えなかったが、アイシャはフリアエに興味を持ったようで、目を輝かせている。Aは口元を押さえて笑みを隠している。何が楽しいのかは知らないし、知りたいとも思わない。

「Hg……生きていた……よかった……次に会ったら……右腕のお返しで……殺すつもり……だった……けど……」

 伊武の指先から血が流れ、フリアエの刃をつたい、先端からこぼれ落ちた。

「殺す……のは……つばめさん……の……役に立って……もらってからに……する……ね」

 伊武がこれまでにないほど、暗く笑った。

本作、「ツバキ黙示録 第二章 -聖女の祈り、騎士の願い-」を読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、前作「ツバキ黙示録」の続きになります。

前作に引き続き、楽しんでいただければ何よりです。


ラストは、3作目へと繋がります。

今度はもう少し、早いペースで公開できたらと思っています。

「ツバキ黙示録」は、このまま続ける予定です。


今回の作品について少し。

続編のアイディアは色々あったのですが、二話目として、この二人の話を選びました。

この話を書くなら、早めに書いておくべきかなと思ったので。

アリエラとマルジェラを、ちゃんと書こうと思ったので、群像劇の要素が強いです。

また、前回のラストで復活したカイムも登場しました。

気に入ってもらえれば幸いです。

性格も能力も、色々なタイプの悪魔を出していこうかなと思っています。


ぜひ、本作についてのご意見やご感想をお聞かせください。

前作でいただいた感想は、大変励みになりました。

一言でも構いませんので、感想をいただければありがたいです。

反響が何よりのモチベーションになるというのは本当ですね。


後は、そうですね。

どうしたら色んな人に読んでもらえるかなと悩んでおります。

良い方法があれば教えてください。

面白かったらでいいので、宣伝とかしてもらえるとすごく嬉しいです。


後書きまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

また次回作もよろしくお願いします。

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