表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/38

第三十五章

 翌日、アイシャは高宮家に天木を呼びだし、状況の確認を行なった。

 天使騎士団本部は生存者からの報告を受け取り、しばらく様子見、ということになったらしい。まだ、この町から完全に目が離れたわけではないが、失踪事件が発生しなければ、そのうち気にもしなくなるだろう。

 天木もアリエラがいなくなったことを知ると、踊り出しそうなほど上機嫌になった。

「それで天木。そろそろ、天使狩りを再開したいんだけれど」

「嘆きの涙ですね。一つだけですが、手に入りました。事件解決のお礼に差し上げます」

 一つかと、アイシャは落胆した。ないよりは良いが、一つでは現状の回復すら難しい。

 天使を降臨させる魔術具、「嘆きの涙」は便利だが、供給が不安定だし、この町で何度も天使狩りをしていれば、どうしても目立つことになる。

(何か、別の手を考えないと駄目ね)

 アイシャが頭を悩ませている間に、天木が、「嘆きの涙」を持ってきてアイシャに渡した。

 用事の済んだアイシャは、すぐに帰りたかったのだが、話好きの天木に引き止められる。

 まあ、天木には色々と面倒をかけているし、少しぐらいなら付き合っても良いかと、アイシャは半ばあきらめ気味にハーブティーのおかわりを要求した。

 天木がハーブティーのおかわりと、頼んでもいない山盛りのお菓子を持ってくると、早速、楽しそうに話を始めた。

「それで、あの処刑聖女アリエラを、どうやって倒したんですか?」

 天木は目を輝かせて聞いてくる。なるほど、それが聞きたくて引き止めたのかと、アイシャは納得した。

「天木は、アリエラの能力を知っているの?」

「ええと、何も無い所に部屋を作り出して、そこに閉じ込めて殺す……でしたっけ?」

「正確に言うと、閉じ込められた後、天使様への祈りが途絶えると殺されるそうよ」

「死にたくなければ、永遠に祈り続けるしかないってことですか――処刑聖女にふさわしい能力ですね。どうやって殺されるんでしょうねえ」

「アリエラに付いている天使が殺すのか、別の方法か……確認する術はないわね。体験した人間は、全員死んでいるのだから」

「恐ろしい話ですね。それで、そのアリエラをどうやって――」

「閉じ込めたのよ。アリエラが作った部屋に、蹴落としてやったわ」

「……蹴落とした?」

「そうよ」

「……アイシャが?」

「そうよ」

 平然と答えるアイシャに、天木は顔を引き攣らせた。

「それはそれは……まさか、処刑聖女を蹴りで倒すなんて、さすがアイシャ」

「それなんだけど。倒したかどうか、わからないのよね」

 アイシャは木製の小箱を取り出して、天木の前に置いた。指輪が入る程度の小さなものだ。

「これは?」

 天木は興味深そうに小箱を見たが、触れようとはしなかった。

 アイシャは、天木の軽い口調や態度とは正反対の慎重さに、ククっと鼻の奥で笑った。

「アリエラが人を閉じ込めるとね、その後に鍵が出てくるのよ」

「鍵……ですか?」

「そうよ。その鍵を使えば、閉じ込められた人間を助け出すことができる――らしいの」

「らしい、っていうのはどういうことですか? それなら、鍵を探して、他の人間も助けてあげれば良いじゃないですか」

「無理よ。ある瞬間に鍵が消えてしまうの。大抵は、閉じ込められてすぐね」

「つまり、天使への祈りが止まったら――中の人間が死んだら、鍵も消えると」

「アリエラが言うには、だけどね」

「ということは、この小箱の中身は――」

「アリエラの鍵よ。アリエラを閉じ込めてから、2時間後ぐらいかしらね。まだ消えてなかったから、これに入れておいたの」

「……もう、丸1日は経ってますよね? さすがに消えてますよね?」

 アイシャが、小箱を天木の方に近づける。

「気になるなら、開けてみる? 鍵が残ってたら、噂のアリエラに会えるわよ」

 天木は一瞬たりとも悩むことなく、小箱をアイシャに押し返した。

「やめておきますよ。おっかない」

「臆病なのね」

「慎重と言ってください」

「なら、どう? 買ってみる? 処刑聖女がアリエラが入っているかもしれない小箱」

「どっかの猫じゃないんですから。かもしれない、じゃ商品になりませんよ。それに鍵が入っていたとして、処刑聖女の身柄なんか誰が欲しがるんですか」

 誰が欲しがるのか――アイシャは一人だけ、欲しがりそうな人物を思いついた。

 彼女に渡したら、箱を開けるだろうか。鍵があれば、アリエラを呼び戻すだろうか。

 アリエラを呼び戻して、何をするのだろうか。

(騎士が囚われた聖女を解放して愛を語る――っていうなら、ロマンチックで済むけどね)

 アイシャは、我ながら、くだらないことを考えているなと思う。

 終わった話にいつまでもこだわるのは、ただの感傷でしかない。無駄なことだ。青臭い。そんなことは直巳に任せておけばいい――アイシャにはわかっている。

 でも。それでも気にしてしまうのは、どうしても知りたいことがあるからだ。

 どこかの誰かが、知っているのなら教えて欲しい。

 聖女は今も祈っているのだろうか。騎士はまだ願い続けているだろうか。

 聖女の祈りは届いた。騎士の願いはかなわなかった――それでも、まだ――。

「――アイシャ? どうしました?」

 天木に声をかけられると、アイシャは鼻で笑って、頭から考えを振り払った。

 そして、いつもどおりの作り笑いを浮かべて天木に向き直る。

「いえ、何でもないわ。そうね。こんな箱、誰も欲しがらないわね」

 アイシャはそういうと、さっさと小箱をバッグに入れてしまった。

「天木。この鍵のこと、他の人間には絶対言わないでね。特に、直巳には」

「はあ……わかりました」

 突然、話を切り上げたアイシャを、天木は不思議そうに見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ