表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/38

第三十三章

 マルジェラは逃げ、アリエラは消えた。

 天使騎士団は全滅し、死体すら残っていなかった。何もかも残らず、アリエラが消してしまったからだ。

 残ったのは、直巳達と廃墟の天使教会だけ。

「……終わったのかな」

 消えたアリエラのことは気になるが、こちらも満身創痍だ。すぐに帰って、アイシャと今後のことを考えないといけない。

 伊武がマルジェラの残していった守護剣アルケーを拾い、Aをかつぎあげると、こちらへ歩いてきた。

「Aは……生きてるの?」

 直巳がたずねると、伊武は肩にかついだAをゆさゆさと揺すった。

「ま、希衣様……揺するの……やめてください……色々、出ちゃいますから……」

 Aは弱々しい声で返事をした。とりあえず生きているようで、直巳は安堵する。

「A、傷は治らないのか?」

「魔力が足りなくて……完全には……高宮家に戻れば……なんとか……」

「わ、わかった。早く帰ろう――伊武、Aは俺が運ぼうか?」

 伊武も魔力が尽きているし、疲労とダメージのせいか、顔色が悪い。いくら傷がふさがってるとはいえ、ダメージ自体が抜けるわけではない。しばらくは休む必要があるだろう。

 だが、伊武は直巳の提案を断った。

「……別に……重くない……から……」

 そういうと、またAを揺すって、軽いことをアピールする。Aの口から変な音がしたので、直巳は慌てて、わかったと答えた。

(一応……全員無事、か)

 この戦いに勝ったのかはわからない。だが、たしかに全員無事で切り抜けたのだ。今はそれで上出来だと、直巳は思うことにした。

 直巳も怪我はしていないが、安心してくると、強い疲労を感じてきた。

(家に帰って、伊武とAの治療をして……アイシャと話して……それから何か作って……伊武は普通に食べられるかな……それから、シャワーを浴びて……ようやく寝られるか)

 帰ってから寝るまでに、結構やることがあるなと、直巳が大きく溜め息を付く。

「ふふ……疲れた……ね……」

 直巳の溜め息をきいて、伊武が笑いながらいう。

 戦闘用のスイッチを切り、いつもどおりの顔で直巳に微笑みかける。

 ただ、伊武は顔も服も、血と泥でひどく汚れている。直巳はそれを見ると、ほとんど無傷の自分が、申し訳ないような気持ちになった。

「疲れたけど……伊武ほどじゃないよ。俺はまた、みんなに任せっきりだ」

「アリエラと協力して……マルジェラを倒したのは……椿君……だから……あんなこと……私やAじゃ……できなかった……から……」

「それも、伊武とAが頑張ってくれたから出来たんだよ」

「うん……だから……適材適所……だよ……盾には……盾の仕事……剣には……剣の仕事……だよ……」

 途中経過がどうであろうと、誰がどう活躍しようと、最後に勝てばそれでいいし、直巳は自分の仕事をした。なぜ攻撃を防がないのだ、おかげで壊れてしまったと、剣に文句を言う盾はいないだろう。

 伊武は本心からそう思っている。相手が直巳だから慰めるつもりもあるし、相手が直巳じゃなければ、言おうとも思わないが。

 直巳は、伊武の言葉を聞くと、「わかった」とだけ答えた。

 これ以上、ぐちぐち言っても甘えてるだけだ。迷惑をかけていると思うなら、次はもっと役に立てるようにすればいい。

 直巳達は最後にもう一度、天使教会を見渡し、誰もいないことを確認する。

「よし、帰ろう」

 直巳の言葉に伊武はうなずき、Aも黙って片手をあげる。

 戦いは終わった。

 直巳達は戦いを終えて、椿家に戻ることにした。




「――まだ、終わっていませんよ」




 直巳の背後から声が聞こえて、肩を掴まれた。

「な――アリエラ!」

 背後から、突然にアリエラが現れて、直巳の肩を掴んだ。

 アリエラは逃げたのだと、もうやってこないのだと、直巳は勝手に思い込んでいた。

 アリエラはただ、確実に直巳を殺せる機会を待っていただけだ。戦いの緊張が解け、伊武の監視が解ける瞬間を、ただ待っていた。

 直巳が首だけで後ろに振り返ると、そこには、アリエラの作り出した懺悔室があった。

 アリエラの手に力が込められる。女性とは思えないほどの強い力だった。

 後は、このまま懺悔室に放り込まれて終わりだ。

「椿君っ!」

 気づいた伊武が声をあげ、直巳に手を伸ばすが――間に合わない。

 直巳とアリエラの目が合う。

 アリエラは、初めて見るような満面の笑顔で言った。

「さあ、天使様にお祈りを――」




「あんたが祈りなさい」




 突然、直巳の真横に現れた人物が、アリエラを正面から思いきり蹴り飛ばした。

「――えっ?」

 アリエラが驚きの声をあげて、直巳の肩から手を離す。

 アリエラは閉まる扉に向かって、反射的に手を伸ばすが、間に合わない。

 自分で作った部屋に入ったことは何度もある――もちろん、閉じ込められないように扉は完全に閉めない。

 だけど、扉が閉まって、外から鍵がかかって、その鍵を他人に握られたら――アリエラ自身にも出る方法はわからない。

 そしてアリエラは、手を伸ばしたまま、自らが作り上げた扉の向こうへと消えていった。

 扉が閉まり、後には一本の鍵だけが残る。

 これが――この呆気ない幕切れが、処刑聖女アリエラの最期だった。

 アリエラを蹴り飛ばした少女は、その鍵を拾い上げた。

「どうして、そこで気を抜けるのかしらね」

「ア……アイシャ?」

 アイシャが鍵をもてあそびながら、ふふんと笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ