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第二章

 それから、また数日後の放課後。

 今日の夕食当番である直巳は、食材を買うために駅前へと寄った。

 店の多い駅前は、買い物客で混雑していたが、その中に、一際目立つ人物がいた。

 質素な格好をした外人の女性。あまり手を入れていないのか、少しぼさっとした、赤毛のおかっぱが特徴的だ。化粧っ気はないが、それが逆に彼女の素朴な可愛らしさを引き立てている。

 ボロボロの旅行カバンを手に持った彼女は、きょろきょろと辺りを見回しては、周りの人に話しかけているのだが、言葉が通じないのか、話を聞いてくれる人はいても、途中で困った顔をして立ち去ってしまう。

 直巳も声をかけようと思い、彼女に近づいていった。言葉が通じないとなると、時間はかかりそうだが、急ぐ用事があるわけでもない。

 と、その時。直巳の肩に、黒いツグミがとまった。

「お? いきますか? 直巳は可愛ければ悪魔でも外国人でもお構いなしだね」

 カイムだった。からかうように話かけてくる。ちなみに、カイムの声は、他の人にはただのツグミの鳴き声に聞こえるらしい。

「困ってるみたいだから、助けようと思っただけだ。変なこと言うな」

「可愛い子はいるけど、可愛くて困ってる子がいなくて、みんな困ってる……って、怒らないでよ。こんな時のための僕じゃない」

「カイム、なんかできたっけ?」

 ちなみにカイムは悪魔だが、戦闘に向いていない。また、未来予知が出来る悪魔なのだが、先の未来をはっきり見ようとすれば、魔力を多く使うので、魔力不足の今は出番がない。

 つまり、直巳にとっては、「人の言葉を話せる鳥」でしかなかった。

 直巳の失礼な言葉にたいして、カイムが羽根をばたつかせて抗議する。

「失礼な! 僕は動物を含め、諸国語を理解できるし、それを人間に伝授できるんだよ。外国人との会話ぐらい、僕の能力があれば簡単だって」

「そんな便利なことが出来たのか! よし、頼む!」

「任せて任せて――散った言葉は再び一つに――えいっ」

 カイムが羽根を広げて魔術をかける。直巳自身に変化はなかったが、これでいいらしい。

「これで……外国語が話せるようになるの?」

「違う違う。お互いに自分の言葉で話すよ。でも、言葉の形を超えて意思の疎通ができるようになる。だから、普通に話せば大丈夫」

「変な感覚だな……ありがとう、カイム」

「いえいえ。楽しそうだから、僕も一緒でいいよね? 邪魔しないから」

 黙っていれば、飾りを付けた鳥なので構わないだろう。

 直巳はカイムを一撫でしから、赤毛の女性に話しかけた。

「こんにちは。何かお困りですか?」

 直巳が話しかけると、女性は驚いた顔をしてから、恐る恐る口を開いた。

「あの……私の言葉が……わかるのですか?」

「はい。わかりますよ」

 言葉が通じていることがわかると、女性の表情はみるみるうちに明るくなっていった。

「ああ……よかった……言葉も通じず、異国の地で困り果てておりました。あなたのようなお優しい方と出会えたのも、きっと」

 彼女は満面の笑顔を浮かべると、服の中から二翼十字を取りだし、握りしめて祈った。

「天使様のお導きでしょう」

 カイムが小さく鳴いた。



「私のことは、アリエラとお呼びください。天使教会の修道女です」

 アリエラと名乗る赤毛の修道女は、穏やかに微笑みながら直巳の手を取った。両手で包み込むように優しく、自然に。感謝と親愛の情の現れのようで、いやらしい感じはなかった。

「俺は、椿直巳と言います。直巳でいいですよ」

「ナオミ……ナオミ……はい、覚えました。ナオミさん、ナオミさん!」

 アリエラは嬉しそうに直巳の名前を連呼する。手は握ったままだ。

 直巳が照れくさそうにしていると、アリエラはようやく気づいて、恥ずかしそうに手を引っ込めた。

「それで、アリエラはどうして困っていたの?」

 直巳がたずねると、アリエラは申し訳なさそうに話し始めた。

「私は、人々に天使様の教えを広めるために世界中を旅しております。先日、この町で大規模な天使降臨があったと聞いて、一目見たいと、いてもたってもいられずにやってきました」

「大規模な天使降臨……ああ、ありましたね」

 直巳はとぼけるが、実際は知っているどころか当事者だった。直巳の神秘呼吸を狙う、天使教会の力神父、「加織貴士」が引き起こした、《楽園の到来》(パラダイス・カム)という魔術のせいだ。

 実際には天使ではなく、「天使のような何か」が大量に降臨しただけだ。直巳は加織から魔力を全て奪い、《楽園の到来》を止めたのだ。

 もちろん、このことは誰にも言っていないし、アリエラに言うつもりもない。

 しかし、直巳が大規模天使降臨のことを知っているというと、アリエラは目を輝かせた。

「ナオミさんも知っているのですね!? 私は、その現場を見てみたいと思い、遠くの国から船に乗り、何日も歩いて、この町にやってきたのです。なんとか、この町まで来られたのはいいのですが……教会の場所がわからず……もう、お金もなくて……どうしたものかと、途方に暮れておりました」

「なるほど。アリエラは、とにかくその現場を見てみたいと」

「はい。あの、ご存じでしたら、行き方だけでも教えてもらえませんか?」

 もちろん、直巳はその場所を知っているが、とぼけて知らないふりをした。

「少し、待ってください」

 直巳はポケットからスマートフォンを取り出し、事件のことを検索する。そして、事件の起こった場所の写真を見つけると、わざとらしくアリエラに見せた。

「多分、この場所じゃないかと思うんですが」

 アリエラはスマートフォンの画面をじっと見つめると、表情を輝かせた。

「ここです! ここ! 壊れた天使教会の写真が載っています!」

「えー……はい、そうですね」

「ナオミさん! ここにはどうやって行けばよいのですか!?」

 キラキラと目を輝かせるアリエラを見て、直巳は内心でため息をついた。困っている人に声をかけたことに後悔はないし、力になれるのなら、なってあげたい。しかし、それが天使教会の修道女というのは運が悪かった。

 天使狩りのこともあるが、個人的な気持ちとしても、天使教会とはあまり関わりたくない。

 それでも、大規模天使降臨の現場を見るために、身一つでこの町にやってきた外国人を冷たく見放すことは、直巳にはできなかった。

「ええと、ここからだと少し歩くので、よかったら案内しますよ」

「い、いえ。でもそれではナオミさんに申し訳ありません! 教えてもらえれば……」

「上手く伝えられる自信がないんですよ。地図を書くのも苦手だし。一番楽なのが、直接案内することなんです」

 アリエラは頼りたいが迷惑もかけたくない、という気持ちに揺れて、困った表情をしていたが、やがて決心したように直巳の顔を見た。

「お願いします。優しい方、ナオミさん。あなたのご厚意に感謝します」

 そういうと、アリエラは深々とお辞儀をした。

「エロ男」

 カイムが直巳に向かって囁き、くちばしで髪を引っ張った。



 二人で目的地である天使教会跡地へ歩いている途中のこと。当然、世間話はすることになるし、肩にとまっている着飾ったツグミの話にもなる。

「ナオミさん。その子は、ナオミさんのペットですか? よく懐いていますね。カラスでしょうか?」

 アリエラにカラスと言われると、カイムは羽根を広げて威嚇した。

「こいつはツグミですよ。カラスって言われると怒るので、気をつけてください」

「ご、ごめんなさい! 鳥には詳しくなくて! えっと、お名前はなんていうのですか?」

 お名前。着飾った黒いツグミで、名前はカイムです。これはばれるのではないだろうか? アスタロトやバエルに比べたら知名度は低いが、それでもソロモンの悪魔だ。修道女のアリエラが知っていてもおかしくはない。

「えー……Cっていいます」

 高宮方式を借りることにした。頭文字のアルファベットを取って、アスタロトならA。バエルでBなら、カイムはCだ。綴りはCAIMなのでCでいい。Kではない。

「シー? シーさんと言うのですか?」

「そうです。シーって呼んでやってください」

「そうですか。可愛らしい名前ですね。シーさんも道案内、ありがとうございます」

 アリエラに微笑みかけられたが、カイムは普通の鳥のように無視をした。

「シーさんは、お洒落なのですね。帽子も剣も格好いいです。騎士様みたいです」

 アリエラに褒められると、カイムは小さく鳴いて喜んだ。

(エロ鳥)

 直巳がボソッと呟くと、カイムは慌てて、普通の鳥のように振る舞い始めた。

 あまりカイムに突っ込まれると、ボロが出るかもしれないので、直巳は話題を変えた。

「アリエラは、現場を見た後はどうするの?」

「決めてないんです。しばらくは、この国で活動しようかと思っているのです」

「どこかの天使教会に住み込んで、って感じ?」

「ううん……でも、あまりご迷惑をおかけしたくないですし、いつでも動けるように身軽にしておきたいんですよね。私、結構うろうろしていますので」

 思いつきで、突然この町にやってくるぐらいだ。あまり、一つの天使教会でじっとしているのは合わないのだろう。ずいぶんアクティブな修道女だとは思うが。

「とりあえず、目的地に着いてから考えます。何か、思いつくかもしれませんし」

「そうですね」

 同意はしてみたが、それを行き当たりばったりというのではないだろうか。天使教会の人間にしては、やはり変わっている。

「ところで、ナオミさんは天使教徒なのですか?」

 聞かれるとは思っていたが、やはりきた。

「……以前は、天使教会にも通っていたんですが、最近は色々あって、少し距離を置いています。修道女様の前で申し訳ないのですが」

 どう答えるべきか迷っていたが、素直に答えるのが一番良い気がした。感情的なことではない。事実が一番、波風が立たないと思ったのだ。

「そうですか」

 変わらぬ穏やかな口調。それだけだった。怒っているわけでも、寂しそうな顔をするわけでもなく、理由を聞いたり、勧誘してくるわけでもない。

 直巳は少し妙だなと思ったが、それで終わりなら助かるので、これ以上は触れない。

 アリエラも、様々な場所を旅して、様々な人と出会っているのだろう。あまり深く追求するのは、良くない結果を招くのだと知っているのかもしれない。自分で言うのもなんだが、今の直巳は道案内をしてくれた恩人でもある。

 それから、アリエラはこれまで立ち寄った様々な国の話をしてくれた。海外旅行をしたことがない直巳にとっては、どれも楽しい話だった。

 そして、しばらく歩いた所で、ようやく目的地についた。

 目的地。直巳が以前通っていた天使教会。大規模天使降臨のあった場所。力神父と悪魔達が戦った場所。

 あの戦い以来、直巳は初めてここに来た。

 半壊した天使教会。えぐれた地面。知らない人には、それらが何に見えるだろうか。

 今も、戦いのことを思い出すことができる。

 だが、直巳はそういった感情を表に出さず、アリエラに語りかけた。

「ここが目的地だよ、アリエラ」

 直巳に言われると、アリエラは直巳の顔を見た。目が輝いている。直巳は笑いながらうなずいてあげると、アリエラは走り出した。

「わあ! ここなんですね! ここに、たくさんの天使様がいらっしゃったんですね!」

 アリエラは壊れた天使教会の前で、嬉しさを抑えきれずに、くるくると踊り出した。

 無邪気で可愛らしい、と言えばそうなのかもしれない。

 だが、これが戦場跡であることを知っている直巳には、異様な光景に見えた。

(アリエラ。ここは悪魔が力神父に勝った場所で、降臨したのは全部、偽天使なんだ)

 そして俺は、悪魔に荷担した天使狩りなんだよ。

 アリエラに隠し事をしている。これは仕方のないことだから、胸が痛むわけではない。

 ただ、ちょっと寂しかった。

 直巳が一人でたたずんでいると、アリエラが走って戻ってきた。

「決めました! 私、ここに住みます! この天使教会を直します!」

「は?」

 直巳が驚きの声をあげるが、アリエラは気にもせず続けた。

「私、大工仕事もできますから! 寄付を集めて……お仕事もしないと駄目かな? でも、この天使教会を直して、私はこの地で、本当の天使様の教えを広めます! そう決めました! 私がここに来たのは、きっと、そうしろという天使様のお導きなのです!」

「はぁ……そう、ですか」

 いきなりの報告に直巳は返事のしようがない。

 やめておけというのも変だし、頑張れと言うのも立場上、気が引ける。

 だが、直巳のはっきりしない態度を気にすることもなく、アリエラは続けた。

「ナオミさん、また遊びにきてくださいね! 今日のお礼、ちゃんとさせてください!」

「そ、そうだね」

 それは構わないのだが、成り行きで天使教会と再び関わりを持つのは避けたい。

 そう思っていると、アリエラはそれを察したようだった。

「あ、でもナオミさんは天使教会とは距離を置いているんでしたね。なら、お友達として、遊びにきてください! ここ、私の家ですから!」

 いきなりアリエラの家になっていた。

 しかしまあ、友達として、ということであれば、無下に断ることもできない。

「わかった。また、様子を見に来るよ」

「はい! 歓迎します! 親切な私の友達!」

 アリエラは直巳の手を握ると、笑いながらくるくると回りはじめた。

 念願の地に辿り着いて、当面の目的が出来て、直巳に親切にしてもらえたのが嬉しくて、感情が抑えられなくなっているのだろう。直巳も苦笑しながら、それに付き合った。

 と、その時。アリエラのお腹が派手な音を立てた。

「あっ……聞こえちゃいました……? 恥ずかしい……」

 顔を赤くしながら、お腹を押さえるアリエラ。

「実は、昨日から何も食べてないんですよね。都会は食べられるものが少ないから、お金が無いと逆に困っちゃうんですよ」

「食べられるものって、草? まさか、草のこと?」

「果物とか草とか。ちょっとした生き物とかです」

 ちょっとした生き物の中身は聞きたくないが、たくましい生活を送っているらしい。

「食べ物もそうだけど……アリエラ、どこで寝泊まりするの?」

「寝泊まり? この天使教会でしますよ。私の家ですから」

「いや、壊れてるよ? 屋根ないよ?」

 天使教会は戦いの余波で半壊しており、屋根が吹き飛んでいる。壁だってところどころ壊れている。建物というよりは「わりと新しい廃墟」というのが適切だろう。

「外は屋根も壁も全くありませんけど、ここには少し壁があります。大分違いますよ」

 アリエラは住居についてもたくましかった。

「とりあえず、今日のご飯どうしようかな……お金、17円しかないし……駅前で寄付を募ろうかな……あ、でも……言葉わからないから、ちょっと準備が……」

 アリエラが、うんうんとうなっているのを見て、直巳はため息をついた。

 深入りはしたくない。したくないが、苦労している空腹の女の子を見捨てられるほど、直巳は割り切って考えることができない。

「アリエラ。これ、食べて」

 直巳はカバンの中から、携帯栄養食を取り出す。チョコレート味だ。念のため、というわけではないが、いつもカバンに一つ入れている。

 アリエラも、それが何かはわかっているらしく、差し出された栄養食と直巳の顔を交互に見比べる。

「だ、駄目です! そこまで親切にしていただいても、お返しできません!」

「――友達が腹減らしてたら、飯ぐらいおごるだろ」

「ナオミさん……」

 それでも手を出そうとしないアリエラの手を取り、直巳は栄養食を押しつけた。

「ほら。遠慮しないで」

 アリエラは栄養食を握りしめると、涙を流し始めた。

「こ……こんな親切にしていただいて……わ、私はどうしたら……天使様……この優しい人との出会いに感謝を――」

 アリエラが祈りを捧げようとしたところで、直巳がそれを遮る。

「違うだろ。友達同士なら、お祈りじゃないだろ」

「へへ……そうですね……ありがとう! ナオミ!」

 涙を残しながらも、アリエラは笑顔を浮かべてお礼を言ってくれた。

 いきなり呼び捨てになったのは、親愛の現れということだろう。

 そして、直巳はアリエラと別れた。アリエラは、直巳の姿が見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。

 帰宅途中、直巳は耳元のカイムに、ノンストップでねちねちと説教され続けた。

「そうやって誰にでもいい顔をしてると、そのうち地獄を見るよ? いや、悪魔だから地獄っていうんじゃなくて、ただでさえ直巳は変なのに好かれやすいのに。きっとあの子も変なんだよっていうか変じゃない。まだ変な女の知り合い欲しいの? 変な女なら、もう家にたくさんいるでしょ。それとも何? ああいう純朴なタイプがいいんの? そりゃ、家にいるのはおっぱいが大きくて無口なメスゴリラと、可愛いけどつかみ所のないソロモンの娘と、変な悪魔と変な悪魔だけどね。あの人達だって、それなりに直巳のことを気に入っているのに、しかも天使教会の修道女と知り合うだなんて、どうかと思わない? それにわかってる? 難しいのはモテるまでじゃないんだよ? モテてから、上手く別れたり距離を置いたりして付き合うのが難しいんだよ? せーのでみんなに好きですって言われたらどうするか、考えたことあるの? そういう考えも無しに片っ端から女の子に声をかけてると、そのうち地獄を見るよ? 悪魔だから地獄って言ってるわけじゃなくてね?」

 そのまま話が5ループ目に突入したところで、家に着いた。カイムがずっと耳元で騒ぎ立てていたので、耳の聞こえ方がちょっと怪しい。

 玄関の扉を開けると、伊武が出迎えてくれた。

「椿君……お帰り……あれ? 買い物……してこなかったんだ……」

「あ、忘れた」

 元々、夕食の買い物をしに駅前に出たのだが、アリエラに構っていて、すっかり忘れてしまった。

「ごめん。今から行ってくるよ。夕食には間に合わせるから」

 直巳が学校のカバンを置き、玄関に置いてある買い物用エコバッグを手に取って、再び外に出ようとしたところで、カイムが騒ぎ始めた。

「まあまあ、今日ぐらいは携帯栄養食でいいじゃないですか。ほら、いつも直巳のカバンに入ってるやつがあるでしょう? おや? ない? ああ、そういえばさっき……ギュッ!」

「じゃ、行ってくるから」

「あ……待って……」

 直巳がカイムの首を持って家を出ようとすると、伊武に呼び止められた。

「椿君……隠し事とか……しないよね……?」

 女の勘というのか、何かを察した伊武が、直巳をじっと見つめる。

 じっと見つめる、という穏やかな抗議を挟んでくれるのは、相手が直巳だからだ。これが他の相手なら、伊武はもう、相手の骨とか関節とかを人質に取っている。

「ちょっと、変わった知り合いが出来たので……夕食の時に話すね……」

 直巳が冷や汗をかきながら言うと、伊武は笑顔に戻った。

「うん……わかった……楽しみに……してる……ね……気をつけて」

 伊武に見送られて家を出た直巳は、ほっとため息をつく。

 直巳は別に悪いことをしたわけではない。困っていた人を助けて、それが外国人の女性であって、たまたま天使教会の修道女だった、というだけだ。

「ま、黙ってたら、みんなも気分悪いよな」

 そう。具体的に、何がいけないとかではない。気分の問題だ。

 それに、隠していたら、それこそやましいことだと思われてしまう。

「カイム。結果的には、話すきっかけができてよかったよ。ありがとうな」

 手に持ったカイムに話かけるが、首を持ちすぎていたのか、気絶していた。

 静かで丁度いいので、そのままエコバッグに入れて買い物へ向かった。

 カイムはバッグに鶏肉を入れられた所で目を覚ました。

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