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第二十三章

「俺を……救う? アリエラ……何を言っているんだ?」

 アリエラは一歩、近づいてきた。

「魔術にすがる異端の子。迷える黒い子羊。あなたは天使様の光が届かない、暗闇にいる」

 アリエラは、ガチャリと、近くにある扉を開けた。

 扉の中は、床も壁も石で作られた狭い部屋で、ロウソクが一本だけ立っており、部屋の中をぼんやりと照らしている。

 直巳の部屋の真ん中に、突然現れた扉と部屋。

 もちろん、直巳の部屋の中に、こんな別の部屋が存在するわけはない。空間がおかしい。普通ではあり得ない。

「その扉は……どこから出した?」

「ふふっ……わかっているくせに。もちろん、私が出しました」

 アリエラが手をかざすと、出ていた部屋が消え、アリエラの隣りに新しい部屋が出来た。開いた扉から漏れ出たロウソクの光がアリエラの顔を照らす。それでようやく、アリエラの顔が見えた。いつもの笑顔とは違い、無表情だった。

「どうやって、入ってきた」

「移動用の扉もあるんですよ。このように」

 アリエラが、もう一つの扉を出す。扉の向こうには、外の風景が広がっていた。

 アイシャが家に設置したものと同じ――空間移動だと、直巳はすぐに理解した。

「アリエラ……君は、魔術師なのか」

 直巳の問いかけに、アリエラはクスクスと笑う。

「違いますよ。魔術師なんて偽者です。奇跡の模倣者。羽根や牙を欲しがって鳴く、愚かな子羊。そんな偽者に、人を救う資格などありません――彼等は、救われるべき存在です」

「なら……アリエラ……君はなんだと言うんだ……」

「私は――」

 アリエラの背後から、大きな影が現れた。白い大きな羽根に、ウサギの顔をした天使。

「私には、天使様が付いていますから」

「天使付き……本物の……」

 直巳はウサギの顔をした天使を見つめ、呆然とつぶやく。

 アリエラはウサギの顔を抱き寄せると、愛おしそうに頬ずりをした。

 世界中に数えるほどしかいないと言われる天使付き――アリエラはその一人だった。

 伊武のような人造天使付きではない。本物の天使付き。

「さあ、ナオミ。あなたも懺悔室でお祈りをしましょう。罪を悔いて、天使様のために祈るのです。お祈りが終われば、あなたは天使様に救われるのですよ――彼のように」

 そう言って、アリエラは一本の鍵を直巳の前に放り投げた。

「彼は、二十分ほど前からお祈りを始めている、天使教会の神父様で――あら?」

 突如、その鍵が消えてしまった。何の前触れもなく、文字通り消失した。

「あら、お祈りが終わったみたいですね。彼に、天使様のご加護を」

 鍵のあった所に向かって祈りはじめるアリエラ。

 直巳も、なんとなく予想は出来てきた。

 アリエラの作り出す部屋。お祈りが終わると消える鍵。その後にやってくる、天使の救い。

「その鍵があるうちは、部屋から出すこともできる、というわけか」

「はい。ナオミは察しが良いですね。部屋に入ると鍵が現れて、お祈りが終われば消えます。この鍵を使えば部屋から出すことができるはずです」

「できるはず、というのは……どういうことだ?」

「これまでに誰も、出したことがないからです。全員、天使様に救われました」

 全員。一人や二人じゃないだろう。全員は全員だ。被害者、全員。

「天使に救われる……死んだって……ことだよな」

 直巳の質問にも、アリエラは動じることなく微笑みを浮かべる。

「死ぬだなんて、怯えることはありません。永遠に天使様にお祈りを捧げ続けるか、天使様に救われるか――どちらにしても、ナオミの罪は洗われるのですよ」

 アリエラの背後にいる天使が腕を一振りすると、今度は直巳の背後に扉が現れた。

 最早、疑いようもなかった。

 失踪事件の犯人はアリエラで――これは失踪事件なんかじゃない。

「さあ、ナオミ。天使様にお祈りを捧げましょう」

 アリエラは、全員殺している。

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