第一章
「大変! Bちゃんが口から宇宙人を吐いたわ!」
姉であるつばめの不思議な叫び声を聞き、椿直巳はリビングへと降りた。
そこには四つん這いになり、口から大量の黒い物体とオレンジ色の液体を吐いているメイド姿の少女、高宮Bがいた。
たしかに、つばめが言うように口から宇宙人を生み出したようにも見えるのだが、直巳は驚くこともなく、ため息をつくだけだった。
何があったかは大体わかる。今日、学校から帰宅した時のことだ。
玄関でメイド姿の少女、「高宮B」が出迎えてくれた。
「おー……なお……おかえり……」
Bはそう言いながら、袋に入った何かを取り出してはポリポリと食べている。
「ただいま……って、何食べてるんだ?」
直巳がBの持っている袋を見ると、「乾燥ワカメ徳用」と書いてあった。水で戻すと何倍もの大きさになる、あの乾燥ワカメだ。
なんでこんなものをおやつに? と思いながら、直巳も一つもらって食べてみた。ポリポリとした食感が心地よく、塩分も効いている。なるほど、これは後を引くかもしれない。
ただ、これを一袋食べたら喉が渇くだろう。直巳がそう思いながらリビングに行くと、そこには空になった、大きなオレンジジュースのペットボトルが2本転がっていた。ちゃんと水分も補給していたらしい。
まあ、高いものでもないし、それにBは言っても無駄(主人曰く、ハムよりバカなメイド)なので、たいした被害もないなら放っておくのが一番いい。
で、その結果が大リバースだった。ワカメは胃の中でオレンジジュースを吸収し、元の姿を取り戻した。それは小さなBのお腹に収まる量ではなく、ワカメが外に出るのは必然だった。
騒ぎを聞きつけて、眼帯をした執事が駆けつけ、現場を見て驚く。
「B! どうしたのですか! ――どうやったらあなたの体から、バケツに入りきらないほどのワカメが出てくるのですか!」
Bの吐いたワカメは、海でもちょっとお目にかかれないぐらいの量になっていた。そこに大量のオレンジジュースが加わり、宇宙人爆死の現場みたいになっている。
直巳がキッチンを見ると、空になった乾燥ワカメ徳用の袋が2つあった。
(2袋も食べたのか……)
直巳が呆れて見ていると、つばめが車椅子を使って近寄り、Bの背中を擦り始める。Aはため息をつきながら掃除を始めた。
そして、金髪の美しい少女もリビングに姿を現わす。
「何の騒ぎ……って! それ、ワカメ! 私のサラダ用のワカメじゃない! 何勝手に食べてんのよ! このバカメイド!」
Bの主人でもある金髪の少女、「高宮=アイシャ=スレイ」は、Bの体よりも自分のワカメの心配をしていた。
アイシャが四つん這いになっているBの頭をひっぱたくと、それを合図にBは残りのワカメを、下水が詰まったような嫌な音を立てながら吐きだした。
「駄目よ、Bちゃん……乾燥ワカメをそのまま食べると、危ないのよ?」
つばめは、ようやく呼吸の落ち着いたBの背中を撫でながら、優しく諭す。
「大丈夫よ。こいつらはこのぐらいで死にはしないわよ。ほら、A。さっさと片付ける」
「私は吐瀉物の掃除をするストレスで死にそうなんですが」
「あっそ。それは良いことを聞いたわ。片付け終わったらすぐに死んでちょうだい」
「また、アイシャ様は冗談ばかり。私はこれぐらいじゃ死にませんよ」
Aはにこりと笑うが、アイシャの目は冷たい。
「知ってるわよ。殺したって死なないくせに」
実際、Aだけではなく、Bもアイシャも殺しても死なない。
アイシャを当主とする高宮一家。彼女達は普通の人間ではない。
アイシャは悪魔を使役したと言われるソロモン王の末裔で、見た目は少女なのだが、その実年齢は3000才を超えている。
AとBは、それぞれ、「ソロモン72の悪魔」として知られている悪魔だ。
Aは、羽根のある蛇に乗った天使として描かれる「アスタロト」であり、Bは猫とヒキガエルの頭がついた大蜘蛛として描かれる「バエル」である。
彼女達は、「ソロモンの壷」に封印されている全ての悪魔を解放するために魔力を集めている。そのために、降臨する天使を狩って天使遺骸を集めていた。
全員、戦いになれば悪魔として、ソロモン王の末裔として恐ろしくも頼もしい存在なのだが、普段はこのように人として(Bのみ人以下)生活している。
高宮一家が騒いでいると、最後の住人である、「伊武 希衣」(イブ マレイ)がやってきた。
彼女は「天使狩り」の少女で、「アブエル」という人造天使が付いている。
背は180センチを超えて、筋肉がついているがスタイルは良い。常人離れした強さと肉体と胸の大きさを持ち、何よりも直巳にたいして狂信的なまでに忠誠を誓っていた。
寡黙な彼女は、リビングの惨状をひとしきり見渡すと、無表情のまま呟いた。
「ワカメ……買ってこないと……」
一発で状況を看破し、対応はクールだった。
世界に天使が降臨するようになってから百年。天使は何も語らず、目的も正体も不明であり、頻繁に世界に降臨しては、人に不幸と幸福と、魔力をもたらしていた。
そんな天使達を崇める、「天使教会」があり、天使や天使教会と戦う、「反天使同盟」があり、天使の魔力を利用して魔術を復興させようという魔術師達がいた。
直巳達は、強いていえば魔術師にカテゴライズされる。
天使の影響によって足が石膏化してしまったつばめを治療するため、天使を狩って、その体の一部である天使遺骸を集め続ける必要があるのだ。
直巳には特別な能力、「神秘呼吸」(アルカナ・ブレス)があり、これは左手で触れたものの魔力を吸い取り、右手で触れたものに魔力を与えるという力だった。
つい先日、この力を狙った天使教会の「力神父」である、「加織貴士」という男と戦い、これに勝利した。
幸い、加織は独断で動いていたため、天使教会に直巳達の存在はばれていない。
そして、少しの時間が経過し、ほとぼりも収まったところで、天使狩りを再開しようかと思っているところである。
思っているだけで、出来ていなかった。
天使狩りをするには、降臨した天使を探すか、無理矢理降臨させるかしかない。直巳達は主に後者の方法を使っており、「嘆きの涙」という魔術具を使って、天使を降臨させている。この魔術具の入手が問題で、魔術商である「天木 来栖」(あまぎ くるす)から入手するしかないのだが、貴重なものだということで、なかなか入荷しない。
アイシャがちょくちょくプレッシャーをかけているのだが、「あれば最優先でそちらに回すんですけどねえ。無いんですよぉー」と、かわされてしまっている。
つばめの足は心配だが、Aの見立てでは、そこまで焦る状況でもない。なので、このように怠惰に毎日を過ごしている。
加織との大きな戦いの後でもあるし、休暇だと思って、直巳は穏やかな日常を謳歌していた。
「ぎゃあああああーーー!!」
今度は叫び声と共に、窓ガラスを突き破って真っ黒な鳥が部屋に転がり込んできた。
穏やかな日常のことは忘れて、直巳は飛び込んできた真っ黒なツグミを拾い上げた。
「どうした? カイム」
このツグミもソロモンの悪魔で、名前をカイムという。加織との戦いの後で復活させたばかりだ。普段は、このようにツグミの姿で生活させており、辺りを偵察させている。
そして、ちょくちょくカラスに突かれては、このように逃げて帰ってくる。
カイムは直巳の肩にとまると、羽根をバタバタと動かして熱弁を始めた。
「どうしたもこうしたもないよ! この時代のカラス、大きいし強すぎない!? 僕の装飾品を狙って、集団で襲ってくるんだよ!? あり得なくない!?」
カイムは鳥の姿をしているのだが、悪魔らしく、様々な装飾品をつけている。それがキラキラと光るので、よくカラスに狙われていた。
「お前、悪魔だろ」
「僕は頭脳派なの! 言葉と弁舌の悪魔だよ! 口げんかなら負けないのにな!」
「悪魔がカラスに普通のケンカでも負けるなよ」
「ふん! 直巳には言われたくないね! 直巳だって戦いは希衣に任せっぱなしじゃないか! 悪魔のくせにって言うなら僕も言わせてもらうけど、直巳は男のくせに――キュェッ」
「相変わらず……余計なことを……良く……喋る……」
全部言い終わる前に、カイムの喉は伊武の2本の指で締め上げられていた。最後の変な音は伊武がちょっとだけ力を入れて喋れなくなったからだ。ちなみに、もう少し力を入れるとカイムは永久に喋れなくなる。
「ご、ごめんなさい! 直巳は男なのに力を誇示して女性を従わせようとしないで、女性でも力仕事が向いているのなら、その能力を適切に評価、運用が出来るという、女性の社会進出が必要だと言われている現代社会においてリーダーに必要な素質を十分に持っているよね、って言いたかっただけなの!」
「……よし」
「あ、いいんだ」
カイムが伊武から解放され、パクパクと口を動かして呼吸を整える。
ちなみに、口が過ぎて伊武にキュっとされるのは、これで四回目だ。
「それでカイム。何か変わったことはあったの?」
アイシャがそう言って腕を差し出すと、カイムはアイシャの腕にとまった。
やはり主人の元が一番居心地が良いのか、カイムは嬉しそうに偵察の報告を始めた。
「えっとね。噂になってる魔術師失踪事件。あれ、本当みたいだよ」
失踪事件という言葉を聞いて、アイシャの表情が少しだけ堅くなる。
「気になるわね。聞かせてちょうだい」
そして、カイムは魔術師の連続失踪事件について話をはじめた。
最近、直巳達の住む町の近くで、失踪事件が何件も発生していた。
すぐ近所で起きているわけではないが、無視できる程、遠くの出来事でもない。
連続殺人か誘拐かと、ニュースでも騒いでいるが、実際に失踪しているのは、報道されている人数の倍では済まなかった――被害者の数は二桁を超えて、今も増えている。
報道されている被害者も、良く調べれば天使教会か、魔術師に絡んでいることがわかる。だが彼らは、魔術や天使教会への関わりが浅い。彼らを調べていっても、「報道されたらまずいところ」までは辿り着かない
実際には、多くの天使教会神父や関係者。反天使同盟の構成員。魔術師と呼ばれている人間達が失踪している。しかし、関係者は騒ぎを起こしたくないため、警察に失踪したことを伝えたりはしない。社会的には、ただ静かにいなくなっているだけだった。
カイムは鳥である身軽さを利用して、様々な人や場所から情報を得た。また、動物とも会話ができるため、噂程度の情報を集め、分析して、ここまで辿り着いた。ただ、見てきたものを順番に報告するような間抜けではない。自分で頭脳派というだけはあって有能だった。
アイシャはカイムから話を聞き、被害者のリストアップをする。さすがに全員の名前までは特定できないが、それでも重要なことがわかった。
「どの勢力からも、きっちり被害者が出てるわね」
アイシャが書き出したリストを見て言った。天使教会、反天使同盟、魔術師。どの勢力からも失踪者が出ている。
もし、天使教会から被害者が出ていないのなら、天使教会が怪しいということになる。もちろん、他の勢力の場合でも同じだ。
「魔術と関係のなさそうな失踪者もいるけど、本当に関係ないのかは、良く調べてみないとわからないわね」
「本人が魔術師じゃない場合、どういう関係が考えられるの?」
「スポンサーとか、魔術具収集家とか。その場合は資産家である場合が多いから、調べるのは簡単だわ。後は、ただ魔術師が好きで協力している人間とか……これはあまりないか」
「どうして? そういう人もいそうだけど」
「魔術師は一般人に素性を知られるのを嫌がるのよ。自分が魔術師です、って喧伝するようなのはいないわけ。無闇に魔術師を名乗るような奴は、大体がペテン師だから。それに、魔術師だってばれれば、天使教会にも目を付けられるでしょう? 良いことなんかないわ」
「なるほど。それはそうだ」
「ま、そういうのが狙われてるなら、自称魔術師も対象になるってことで、犯人探しのヒントにはなるわ」
「……やるの? 犯人……捜し……」
伊武がたずねると、アイシャは「まさか」と答えた。
「動いて目立って、ターゲットにされてもつまらないでしょう。注意はするけどね。私やまれーは大丈夫だけど、一人、注意しないといけないのがいるから」
そういって、アイシャは直巳のことを真っ直ぐ見つめた。
直巳は神秘呼吸という特技を持ってはいるが、戦闘力は低い。普通の男子高校生ぐらいの力しかない。
高宮一家は悪魔だし、アイシャも戦える。伊武に関しては魔術とかそういうのを抜きにして非常に強いので、心配はいらない。心配なのは直巳だけだ。
「大丈夫……私が……守るよ……」
伊武が嬉しそうに微笑んで言うので、直巳は多少、引きつりながら礼を言った。
ちなみに、伊武以外にもA達が直巳のことを守っている。それだけ、直巳の神秘呼吸は貴重な能力だった。
「襲ってきたら倒すとして。そうでなければ、こちらに危害が及ぶまでは静かにしてようと思うんだけど。直巳、どう?」
アイシャに聞かれて、直巳は少しだけ間をおいてから答えた。
「それでいいと思うけど……天使狩りも、まだ再開しないってことだよな」
「そうね。やめておいた方がいいでしょう――わかってるわ。天使遺骸よね」
アイシャは天使遺骸と言ったが、正確には「つばめの足」だ。アイシャ達も悪魔を復活させるために天使遺骸が必要だが、はっきりとしたタイムリミットはない。だが、つばめの足は定期的に天使遺骸を使って治療しないと、やがては全身が石膏化してしまう。
「天使遺骸の残りが少ない。Aが言うには、数ヶ月は持つ見通しだけど、多いに越したことはないから」
「そうね。天使の奇跡の影響だから、何が起こるかわからないし。もし、危なくなったら。どうしても天使遺骸が必要になったら、強行してでも手に入れましょう。その分、敵は増えるかもしれないけど――」
アイシャが伊武を見ると、黙ってうなずいた。
「大丈夫……全部……私がやっつけてあげるね……」
伊武が優しく微笑む。伊武の言う全部は、本当に全部だ。天使教会や魔術師だけではなく、一般人や善悪も関係ない。直巳の邪魔になるのであれば、迷うことなく全部だ。
「……前にも言ったけど、関係の無い人は巻き込んじゃ駄目だからな」
「うん……わかってる……関係の無い人は……出来る……だけ……殺さない……」
伊武は、わかってるでしょ? 偉いでしょ? と、直巳にアピールしている。尻尾があれば褒めて褒めてと振っているところだ。
「まれー、わかってないでしょう。出来るだけ、っていうのが引っかかるし、殺さなければいいってわけじゃないのよ」
アイシャの言葉が聞こえていないのか、伊武は笑顔のまま、直巳を見ているだけだった。
「直巳。まれー、わかってないんじゃなくて、わかっててやってる」
直巳は、伊武が、「わかった」というまで、改めてルールを叩き込んだ。
直巳が自分に向かって一生懸命話してくれているのが嬉しいのか、伊武はずっと嬉しそうだった。
失踪事件のことは気になるが、とりあえずはこれまでどおりということだ。朝起きて学校に行き、帰って家事をやる。その間に高宮か伊武が事件を起こすから退屈はしない。
ということで、早速、Aがやらかした。
2時限目が終わった頃、直巳の携帯にメールが届いた。
差出人:A
件名:お弁当の件でございます
本文:直巳様、お弁当を忘れていったようなので、お届けに参ります。つきましては、直巳様の所属しているクラスと、その場所をお知らせください。
直巳はすぐにAに電話をした。
「もしもし。直巳様ですか? メールでもよかったのですが、お気遣いいただいてありがとうございます。では、早速、直巳様の教室の場所を」
「いや、そうじゃない。来ないで大丈夫だ。パン買うから。というか、来ないでくれ」
「フフっ……直巳様はお優しいから。そうやって、すぐに遠慮をする」
「違うバカ。男装の眼帯執事が弁当届けにきてみろ。大騒ぎになるぞ」
「なるほど。それは盲点でした。では、普通の女性の格好して、校門までお届けするというのはどうでしょう。それならば、他の生徒にも見られませんし、言い訳もできるでしょう」
来るなと言っているのに、Aはどうしても来たいらしい。恐らく、暇なのだろう。
「わかった。じゃあそれで頼む。普通の女性の格好だからな?」
「お任せください。それでは、後ほど」
自信満々でAは電話を切った。
まあ、女性が校門まで弁当を届けに来るだけなら、なんとでも言い訳ができるだろう。
それに、Aが女性の格好をしてくるというのは、少し興味があった。Aは悪魔だからだとは思うが、作り物のように綺麗な顔立ちとスタイルをしているので、きっと美人だろう。
(どんな格好だろう? パンツスーツとかかな? 足長いし、ジーンズとかも似合うよな)
色々な想像を膨らませて、ちょっと楽しみにしていた。
直巳はすぐに、楽しみにしていた自分を殴ってやればよかったと後悔することになる。
そして、昼休みになった瞬間だった。
遠くから派手なエンジン音が響き、校門前で停止したことを猛アピールするようなスキール音が鳴る。
生徒達がなんだなんだと窓際に集まり、校門を注視した、その時だった。
「なおみくぅ~~~ん! お弁当持ってきたよぉ~~~!」
鼻にかかった甘い声で、校門から直巳を呼ぶ声がする。
「なっ!?」
直巳が窓際に駆け寄って、校門を見ると、信じがたい光景が広がっていた。
校門の真ん前に真っ黄色のオープンカー。その前には胸のざっくり開いたシャツに、真っ赤なジャケット。頭痛がしそうな程に派手なスカーフを巻き、パンツが見えないのが不思議、というようなミニの、しかもピッチピチのタイトスカートに、8センチはあろうかというピンヒール。顔の半分が隠れるんじゃないかという大きなサングラスをした、ブリッブリの女性が立って、直巳の弁当を振り回していた。
その女性は、窓から覗く直巳を見つけると、嬉しそうに飛び跳ねた。
「あっ! なおみく~ん! お弁当! 忘れたでしょおーう? 持ってきたよぉ~!」
まさか。そんな。どうしてこんなことに。
俺はAに、普通の女性の格好をしてこいと言った。Aはわかりました、と言った。
確かに、眼帯はしていないし女性の格好もしている。
だが、なぜAはあんな、「お店のお姉さんの気合い入れた私服」みたいな格好を?
なぜAは若い彼氏にお弁当を持ってきた年上の彼女みたいな振る舞いを?
直巳は我に帰ると、教室を飛び出した。続いて、教室を飛び出す影があった。
廊下を走りながら、「あ、なおみくんだ」と言う周りの生徒に笑われながらも、直巳はこれまでに無い速度で走った。
そして、校門に向かって一直線で走り、クネクネしているAと目が合う。
「あんっ! なおみくん遅いぃ~! もう! お昼休みが終・わっ・ちゃ・う・」
「ゾ☆」を言い終わる前に、後ろから直巳を抜き去った伊武がAを殴りつけた。
派手なお姉さんがピクリとも動かなくなったのを見ると、生徒達は、「三角関係だ」「椿が浮気して伊武が切れた」だのと好き勝手言い始めた。
伊武は倒れたAから弁当箱を奪うと、黙って直巳に渡した。
そして、Aを担ぎ上げると、オープンカーの運転席に放り込み、どうやったのか、手早くアクセルを固定してギアを入れると、一気にサイドブレーキを解除した。
しばらくして、少し離れた場所から派手な衝突音がすると、伊武は直巳の方を見た。
「……お弁当……食べよう?」
「そ、そうだな」
教室に帰ると質問攻めにあったが、直巳は、「姉さんの友達」と言い張った。
それでも周りが騒ぎ立てると、クラスの不良である沢井が立ち上がり、
「うるっせーぞ! んなことどーでもいいだろ! 静かにしろ! 殺すぞ!」
と怒鳴りつけたので、それで終わりとなった。
なお、沢井は以前、伊武にケンカを売って大変恐ろしい目にあっている。
沢井は伊武に、「これでいいすか?」と目で合図すると、伊武は黙ってうなずいた。
なお、帰宅するといつものAだった。事故のことは、なんとかしたらしい。
その夜、高宮家の庭で一台のオープンカー(事故車)が燃やされた。
次の日。直巳は休み時間、カバンから弁当が抜き取られていることに気がついた。
授業を抜け出して家に戻ると、Aがランドセルを背負って弁当を持っているBをツインテールにしているところだったので、弁当を奪い、Aを殴った。




