第十四章
ある日、直巳が天使教会に様子を見に行った時のこと。
アリエラは何かを作っており、子供達がその様子を見守っていた。
「できましたー!」
アリエラが完成した手作りのぬいぐるみを元気良く掲げると、子供達は一緒になってはしゃぎだした。ちなみに、アリエラが作ったのは、右半身がラメ入りのピンクで、左半身が黒のレザーという、やたらファッショナブルな熊のぬいぐるみだった。
また、アリエラの足下には、右半身が青地に白の水玉、左半身が絞り染めという、サイケデリックな熊のぬいぐるみも置いてある。
これは、地元のお母さん達に余った服や生地をもらって作っているもので、売ったお金を天使教会の再建に当てていた。
お母さん達は、本当にどんな服でもアリエラの所へ持ってくる。子供達が過去に買った痛い服でも、自分が着なくなった、ださい服でも構わない。そんな素材のせいなのか、アリエラのセンスがぶち切れてるせいなのかはわからないが、やたら尖っている熊のぬいぐるみは、女子中高生を中心に人気だった。
値段は一個、千円から。特別安いわけでもないが、どれも世界に一つのデザインなのと、作りがしっかりしているので人気がある。
アリエラは暇があれば、その妙な素材とセンスをいかんなく発揮した熊のぬいぐるみを作っているので、それなりの収入源になっていた。
また、材料をもらっているお礼に、子供達にぬいぐるみの作り方を教えていた。なかなか好評なようで、日曜日はほとんど、ぬいぐるみ作り講座になっている。
アリエラに遊んで欲しい男の子達は文句を言っていたが、アリエラに、「一緒に作りましょう?」と微笑みかけられると、みんな、「しょうがねえなあ」と言いながら、手取り足取り教えてくれるアリエラにデレデレしていた。小さくても、所詮は男ということだ。
直巳も一つ買うと言ったら、アリエラは気合を入れて、スペシャルなものを作ってくれた。
「取っておきの素材を使いましたよー」と自信満々で作ったのは、「鋲のついたオープンフィンガーグローブと鋲付きの革ジャン」を切り貼りしたもので、穴の開いた箇所には、壊れたビニール傘から取った、ビニールを縫い付けている。
鋲付きのレザーに、ビニールから透けて見える綿。白と黒と金属が織りなす、およそ修道女がチャリティーで作ったとは思えない、パンキッシュなぬいぐるみだった。
「男の子が持っててもおかしくないように、格好良く作りました!」
アリエラはそう言うのだが、直巳は格好良いとは、また別のすごみを感じていた。
直巳が持って帰って部屋に飾ってみると、悪くない――というか、気に入った。
調子に乗ってアイシャに自慢してみたら、「抱き心地が悪い」と一蹴されてしまった。
一方でマルジェラは、「何でも屋」に近いことをやっていた。
天使騎士団で様々なボランティアをしていたので、色々なことができる。庭の手入れや家の修理に力仕事はもちろん、語学も堪能なので、家庭教師も出来た。
こちらは内容によって金額が変わるが、どれも普通に業者に依頼するよりは安かったし、きちんと仕事をするので評判だった。
こんな風に稼いでいるので、天使教会の再建はともかく、二人の生活は安定し始めていた。
天使教会も、完全な修復はまだまだ先だが、トタンやブルーシートを駆使し、なんとか人が暮らせる程度の修繕は出来ていた。食べ物にも衣服にも困っていない。
二人は目的に向かって、充実した生活をしていた。
充実していたからこそ、マルジェラは悩んでいた。
自分は、失踪事件を解決しにきたのだ。
早く犯人を捕まえて、天使騎士団に報告をしなければならない。
それは、この楽しい時間――アリエラとの生活の終わりを意味する。
マルジェラは、この生活がいつまでも続くとは思っていない。
でも、こうしていたい。アリエラと一緒にいたい。
一緒に天使教会に住もうと、手を差し伸べてくれたアリエラ。
元気で可憐なアリエラ。温かく、柔らかなアリエラ。
自分が本当に求めているものが何なのか、マルジェラにはわからなくなっていた。
だから、答えを保留しながら、この生活を続けている。
終わらせようと思えば、いつでも終わらせられるのに。
アリエラを抱きしめて眠る必要もなくなる――なくなってしまう。
だが、時間はいつまでも待ってくれなかった。
深夜、男達の一団が天使教会にやってきた。
高田陽治の率いる、星の鷹だった。




