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伊予天正の陣戦記  作者: 赤城康彦
8/25

戦記 八

 大船小舟が来島海峡を埋め尽くし、続々と今治に上陸する。

 先に伊予への第一歩を踏みしめたのは、大将の小早川隆景であった。

 一万五千という大軍を率いるだけあり全身から威厳ただようその雄姿は、毛利の両川として吉川元春とともに毛利家を支えた器量の大きさをうかがわせるものであった。

 それを伊予の豪族たちが出迎える。これらもまた村上水軍と同じように毛利側についたのであった。

 彼らは、かたちの上では長宗我部の軍門にくだっていたが、攻められ屈服させられた屈辱と恨みは消えず反撃の機会を虎視眈々を狙っていたのだった。

 その反撃の機会が到来し、士気も高かった。なにせ天下にその名を轟かす小早川隆景が味方につくのである。

 中には土佐側につく売国奴もあったが、それらはことごとく討たれたり追い払われてしまった。

「出迎えご苦労でござる。あなたたちのお力添えに、感謝いたしもうす」

 出迎えの伊予人を前にし、隆景は丁寧な口調でまず礼を言った。これに伊予人らは大変感銘を受けた。

(あの高慢ちきな土佐人とはえらい違いじゃ)

 かつては毛利も伊予を欲し軍勢を送り込んだ。さらに豊後の大友宗麟も伊予を欲し。三方から攻められ伊予は苦境にあえいでいた。その三方の中で特に強かった長宗我部であったが、容赦のない強さは毛利と大友に攻められた恨みを忘れさせるほどであった。

 とにかく、伊予人らは土佐人から伊予を取り戻したくて必死であった。

 上陸した小早川隆景の軍勢はまず今治で一夜を過ごし、大飯を食らい伊予人らとともに英気を養い。

 夜が明けて進軍を開始した。

 その一方でこれまた瀬戸内海を埋め尽くすかと思わせるほどの吉川元長率いる大船団は直接新居郡をめざし、勢いよく上陸する。

 その様は金子城からも見え、城内にとどまる留守居役は肝を冷やした。

「うむ!」

 大将、吉川元長は、砂浜のため馬が使えず徒歩にて槍を振るい迎え撃つ伊予勢を薙ぎ倒してゆく。

 父は小早川隆景と並んで毛利の両川と称された吉川元春である。名将を父にもつ者として、彼もまた文武に優れた武将であった。

「ええい、邪魔だ! どけどけ!」

 と叫ぶのは和田義光であった。

「伊予の土民風情が、血迷ったか!」

 義光の手勢は金子元宅の手勢とともに瀬戸内海からあふれ出る毛利軍を迎え撃とうと城を出れば、どこから集まったのか新居郡の領民たちが手に得物をもって合流するどころか、義光を差し置いて突っ走ってゆくではないか。

 意表を突かれた義光は後方に追いやられて、領民らをかき分けながら毛利軍に向かわねばならぬ羽目になった。

 これには同じように元長も驚かされてしまった。

「こやつら、民百姓か!」

 その貧しい身なりで鋤や鍬を振りかざし毛利軍に突っ込んでくるのが伊予の武士でなく領民であることはいやでもわかり、意表を突かれてしまった。

 人をやって調べたところ相手の兵数は少ないというのはわかっていたが。まるで地よりき出て石鎚山から吹き下ろす突風の如く毛利軍に立ち向かう領民らの数を合わせれば、同数になるのではないか。

 このことは、予想もしなかったことである。

「よせ、命を粗末にするな!」

 武士としての自覚の強い元長は民百姓を討つことをよしとしなかったが、容赦なく襲い掛かってこられて、討たざるをえなかった。

 しかし討っても討ってもきりがなく。それどころか毛利軍が押されて、味方の武士が次々と討たれてゆく。

「なぜだ、お前たちは土佐を恨んでいるのではないのか!」

 元長は叫んだ。が、それは領民たちの耳に届かなかった。

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