俺の兄は社会人ニートだな
そう。あの頃とは第二次闇期だ。
第一次は中二病という比較的可愛い病気だったが、第二次のうつ病はこれっぽっちも可愛くない病気だった。
その時期は今から約3年前。俺が当時同棲していた彼女が、ケーキ屋さんの店員じゃなくてデリヘル嬢だとわかった頃だっただろうか。
いや、よそう。それは兄の闇期の話ではない。今は兄の話をしよう。
あれは俺が20歳、兄が21歳の夏に起こった事件だった。兄は京都の有名国立大学に現役合格して、実家を離れていた。専門は・・・なんだったかな。とにかく実
家から離れて一人暮らしをしていた。
今でもその時何があったかなんて詳しくは知らないが、当時は親から兄がうつ病をであることを聞かされた。兄がうつ病で自殺未遂したからしばらく京都に行ってくれないかと、スイカを食いながら言われた。
そう。夏だった。8月だった。突然の知らせだった。兄がうつ病だなんて全く知らなかった。
しかも自殺未遂って・・・・おい!
しかし突然すぎてワクワクした。きっと現実的じゃなかったからなんだと今は思う。
兄のことはもちろん心配だったが、京都旅行気分でワクワクしていたのを覚えている。
兄が自殺未遂をした翌日の早朝から新幹線で京都まで行った。新幹線で約2時間。そこから電車で30分揺られると兄の最寄り駅に着いた。
そこからは兄と合流してアパートに行く予定だったが、予定時刻になっても兄は現れない。
携帯電話を鳴らしてみるが繋がらない。
昨日の今日だったので、とても嫌な予感がした。
旅行気分で来ていた俺は、いっきに血の気が引き、8月だというのに寒気を感じた。
心臓の鼓動が速くなっていく。速くなりすぎて気落ちが悪くなった。
あらかじめ兄のアパートの住所を聞いてメモしていた紙を探し、駅前に停車していたタクシーの運転手に渡した。
「この住所まで大至急行って!」
タクシーの運転手がメモを見て嫌そうな顔をした。
「お客さん、これ歩いて5分ですよ」
「こっちの地理わからんのよ!こんなことしとる間に兄ちゃん死んどったらお前殺すけの!」
と怒鳴ると、運転手は黙ったまま前を向き、タクシーを動かした。
運転手は一言もしゃべらず乱暴な運転をして兄のアパートまで連れて行ってくれた。
タクシーが止まると1000円札を出し、お釣りはいらないと吐き捨て降りた。
古びた壁に書かれてあるアパート名とメモのアパート名とを交互に確認してから走り出した。103号室。兄の部屋は1階の奥から2番目の部屋だ。
部屋の前に着き、部屋番号が間違っていないことを確認すると、いきおいよくドアノブを回して引いた。
俺は鍵がしまっている前提で力を込めてドアを引いた為、鍵のかかっていなかったドアは軽すぎた。
ドア引いた勢いで自分が倒れそうになるのをなんとかこらえ、すぐ玄関で靴を脱ぎ捨てた。
ほんの3メートル先にもう一枚ドアがあるのを確認できた。その3メートルの狭い感覚の左側にキッチンがある。右側にはトイレと風呂が一体になったユニットバスだと思われる半透明のドアがあった。迷わず奥のドアを開けると、そこには兄が横たわっていた。
心臓が飛び跳ねた。めまいが一気に襲ってくる。
また血の気が引くのがわかった。
しかし・・・それはすぐに収まった。
下半身を出してノートパソコンの画面を見ながら、吐息を吐きながら自分の息子を可愛がる兄ちゃんがそこにいたのだ。
あの時は本当にホラーだった。
一瞬本当に死んでいるようにも見えたが、パソコンに移る裸のギャルを見るとすぐ状況が把握できた。
こいつ全然元気じゃん。俺は心の底からそう思った。
これが第二次闇期である。
今、目の前にいる兄はそのころの兄にそっくりなのだ。
身体全体から力が抜けているようで、ひょろひょろしている。
姿勢も猫背だし、目が曇っている。声に元気もない。髪もぼさぼさだ。
兄がうつ病を再発したなんて聞いていなかった。いつもそうだ。大切なことは俺には伝わってこない。
「仕事はいつまで休みもらったん?」
「いつまでとかじゃなくて、完全に病気だから治るまで復帰しなくていいって」
兄はうっすら笑顔を浮かべながら話す。なぜか申し訳なさそうに。
「でも給料は出るんよ。さすが大企業やろ。」
申し訳なさそうに言ったのは給料のことなのだろうか。
「さすが大企業やな!けど病気なら、またゆっくり直していこうや。」
「給料もらっとるし、社会人やけどニートみたいでいいやろ?」
兄が軽いジョーダンを言ってきた。俺はそれに乗って笑顔で答える
「俺の兄は社会人ニートだな」
ここまではあらかじめ考えていました。今からボチボチ書いていきます。