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帰ってきた兄

 

 そんな兄も中学生になった。もちろんこの時期も邪気眼系の症状は出ていたが、中二病はこれからが本番だろう。兄も中学に入り、一年間はイケイケドンドンな生徒だったのだろうと思う。この一年間は兄が中学生で俺が小学生なので、学園生活での兄はよく知らない。



しかし、よく知らない一年でも、中二病の症状を発症していたと断言できる。



それは暖かい季節から寒い季節に変わる、いわゆる衣変えシーズン中だ。



我々兄弟が通っていた中学では、マフラーや手袋などの防寒具は、高価で派手なものでなければ着用が認められていた。


しかし、兄はマフラーも手袋もすることはしなかった。

代わりに、当時は全く流行ってなくて誰もしていなかった、『耳当て』をして通学をしていたのである。そう。あのヘッドホンのようなやつだ。




おまけに、みんながまだマフラー等を着用するずっと前の日から。

すなわち、そこまで寒くない時期から着用して、みんながそろそろマフラーはいらないかなと思い始めるずっと前の日、すなわち、まだ寒い時期に耳当てを着用しなくするという自分ルールがあったようだ。





そして私が兄と同じ中学に通いだして気が付いたこともある。



これも衣変えシーズンでの発症例だ。



衣変え期間というのが2週間程設けられていた。2週間だけは、夏服を着てもいいし、冬服を着てもいいという期間。

簡単に言えば、半そでの制服を着るか、学ラン着るかを選べる期間だ。


冬服から夏服に変わる間は、まだ肌寒い時期から衣変え期間入って、夏服から冬服に変わる衣変えの間は、まだ暑さが残る時期なのだが・・・



兄はそのどちらも初日から衣変わって通学していたのである。




みんながまだ寒いと思って登校している中、一人半そでを着て登校した。

みんながまだ暑いと思って登校している中、一人学ランを着て登校した。






これが映画やアニメのモブキャラなら周りの景色に馴染まず注目されてしまう。

兄はそこを狙っていたようにも思う。俺はモブじゃないという主張だったのだろうか。




これは明らかに、流行に流されずマイナー路線を好み他人とは違う特別な存在であろうとする、別にサブカルが好きなわけではなく他人と違う趣味の自分は格好いいと思い満足しているサブカル系の中二病の症状だ。


そんな兄は卒業するまで、みんなとは違う行動をして、ある意味みんなの注目の的であった。

他にも私生活で様々な中二っぷりを発揮していたが、ここでは割愛させていただく。




これが兄の第一次闇期である。





 そして今は、俺が23歳で兄が24歳の11月だ。兄は一つ上だが色々あって同じ年に就職して同じ社会人1年目である。

兄は大阪で営業マンとして仕事を頑張っているだろう。地元で働く俺も毎日営業マンとして頑張っている。



街の景色はすっかり秋になってきていて、紅葉もシーズン中だと言っていいほど綺麗に残っている。夜の風はすっかり冬の厳しさになっていた。





 今日も仕事が遅くなってしまった。新人は先輩が帰るまで先輩の手伝いをしないといけない古風な会社に勤めている。アナログの腕時計を確認すると、もう22時になる5分前だった。

そろそろ帰ろうか。まだ残っている数名の先輩に手伝えることがないか確認を取った上で先に上がった。

冷たい風が吹く中、駐車場に行き愛車に乗り込む前に、自販機で暖かい缶コーヒーを買った。家まで片道15分の道のりだ。タバコと缶コーヒーで一日の終わりを実感する。




 俺は今実家に母親と二人で新築の戸建に住んでいる。親父がいないわけではない。今までずっと父親とも一緒に住んでいたが、去年注文住宅を購入し、今年の2月に新築が完成して住み始めた。しかし、これも転勤族の宿命だろう。


父親は4月から転勤の辞令が出て今では遠い県外で単身赴任中なのだ。

社会人になって1年程したら一人暮らしを始めたいと前々から思っていたが、新築の家に母一人にはできないので、そのことは親父が帰ってくるまで諦めている。

 


家に着き、駐車して車を降りた時に気が付いたが、いつもと家の様子が違うようだった。

二階には3つ部屋があって、俺の部屋と母の趣味の部屋と兄の部屋に振り分けられている。

そのうち、まず点けることのない兄の部屋の電気が点いていたのである。

母親が何かしているのかなと、あまり気に留めることなく玄関の鍵を開けて階段を昇る。


自分の部屋でスーツを脱ぎ、一日の疲れから解放された気分になった。

部屋着に着替えていると、1階から母の声が聞こえたので兄の部屋の電気を消し忘れていると思い、着替え終わるとそのまま自分の部屋を出て兄の部屋のドアを開けた。

そこには、いるはずのない兄がいた・・・・





ドアを開けると、座ってノートパソコンをいじっていた兄が振り向いた。

バツが悪そうに一度目線を俺から外したが、再び目が合うとお帰りと一言残して、またノートパソコンと向き合った。



「あ、ただいま。兄ちゃん休暇でも取ったん?」



なんとなくおかしいなと思いながら探り口調で聞いてみた。




「まあ、そうゆう感じかな。」




兄はノートパソコンを閉じると、体ごとこちらに向けて座りなおした。

俺も、まだドアノブを握りっぱなしで、顔だけ兄の部屋に入れているような状態だった。その状態から部屋に入り、ドアを閉めて兄の前に座った。




「なんかあったん?」



「実は、またうつ病なったんよ」



と、これもまたばつの悪そうな薄い笑顔を浮かべて言った。

確かに今の兄からは生気がいまいち感じられない。あの頃に近いなと思った。







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