03『伝承・“追い掛け狸”』
今日の練習は早めに終わったので着替え終わっても午後六時ごろだった。夏も真っ盛りなので、夕方とはいえ少し空に赤みが差しているくらいで明るさは昼間と変わりない。
待ち合わせた時間に大学の正門に真理恵が行くと、そこにはすでに瀬名川が待っていた。どうせ一緒の部活なのだから揃って道場を出てもいいのだがあまりにも目立つので、別々に出て待ち合わせる形にしたのだ。
「ごめんね。待った?」
「いや、俺も今来たところだから大丈夫。さあ、行こうか」
大学のそばには小高い丘があり、瀬名川が真理江を連れていったのもそんな丘の中腹にある喫茶店だった。
丘は大学最寄りの鉄道駅とは逆方向にあり、生徒の姿はあまりない。
駅方向にも立派な喫茶店はあるのに、どうしてこちらなのかを聞くと「理由があるんだ」と、瀬名川はちょっと意味ありげに微笑んで言った。
その喫茶店には、ある意表を突かれた思いだった。見た目は少し広めの和風の一軒家。しかし敷地を仕切る塀はなく、窓の代わりに前面に大きく開かれた縁側にはいくつもの客室が見える。
そして、玄関先には『和喫茶・文福』と切り揃えられていない木の板に筆で書かれたフォントで店名が書いており、この建物が一般家屋ではなく喫茶店であることを主張していた。
「へえ、こんなお店があったんだ」
「まあ、あんまり人が来ないところだから知らないのも無理はないさ。俺も民俗学ゼミやってなきゃ、知ることはなかっただろうなぁ」
店の入り口である趣のある玄関の引き戸を開けた瞬間、真理江は息を呑んだ。
狸がそこにいた。
昨日見たのと非常によく似た狸である――が、
「お、置物……?」
そう、これは正真正銘、陶製の置物だった。
「ああ、やっぱり似てる?」
「やっぱり……って?」
「ま、それは席に着いてから話すよ」
中には坊主頭に作務衣を着込んだ初老の男がいた。この喫茶店の店主らしい。従業員は他にもうひとり、和装の女性が一人おり、彼女が真理江たちに近づいてお辞儀をした。
「まあ、いらっしゃいませ。お席にご案内しますね。お煙草はお吸いになられますか?」
瀬名川ちらりと真理江に目をやった。
「吸わないよね?」
「え、ええ」
「では、こちらに」
店員は、柔らかな応対で二人を奥の席に連れていく。そこは、二人差向いに座れる席で、囲いがあってほとんど個室のような席だった。
「へえ、日本茶が中心の店なのね」
もらったメニューを開いてみて、真理江は感心した。そこに並んでいるのは抹茶から始まり、煎茶、番茶、ほうじ茶、玄米茶等が並んでおり、「本日の茶葉」と「おすすめ」の案内も入っている。
一応コーヒーや紅茶などもあるようだが、こちらは銘柄も何も入っていない。
瀬名川はコーヒーを頼んでいたが、真理江はせっかくなので煎茶を頼むことにした。
「それで、あの狸は……?」
「“追い掛け狸”。化け狸の一種でね、この辺の民間伝承の一つなんだ。あの置物もそれを象ったものさ。ここに連れてきたのは、たぶんもうわかってると思うけど、あの置物を見せるためだ」
瀬名川も民俗学のゼミにおいて、この町に伝わる民間伝承を調べる過程でこの店を知ったのである。この店の主人は妖怪話の類が好きらしく、民俗学の教授とも親しく付き合っているらしい。
そして、瀬名川が語った伝承『追い掛け狸』は次のような話だった。
* * *
昔々、この町は村とも言ってもいいくらい寂れた集落で、住人の十人のうち九人以上は百姓という典型的な田舎の農村だった。
ある日、その百姓の中でも平凡で正直さだけが取り柄という男・平吉が一人の娘に懸想してしまった。
ところが、それがあまり相性の良くない話だった。相手の娘自身は金持ちでもなんでもない貧乏商人の生まれだ。だが、その分金持ちへの憧れは大きい。その娘・お園はどこぞの金持ちの嫁になって、何不自由のない気ままな生活を夢見るような野心家だった。
そんな娘が百姓になど目もくれるはずもない。平吉は真摯に気を引いたが、お園はいつも彼をいいように利用するか、袖にするかのどちらかだった。
恋は盲目というが、平吉の場合はまさにそれだった。なまじ正直で真っ直ぐなものだから他に気立てのよい娘が声を掛けても相手にせず、ただ一人お園しか見ていなかったのである。
そして、平吉はとうとうその結論に達してしまった。すなわち「お金があれば、お園と一緒になれる」と。
そうと決めると平吉はもう何も見えなくなってしまった。身分は低いが頭の良かった平吉は、その村一番の庄屋に忍び込むと、二千両もの大金を盗むことに成功してしまったのである。そしてお園に「一緒になってくれ」と、その二千両を持っていった。
だが、お園の野心というのは二千両で満たさせるほど小さなものではなかった。
お園は一旦は平吉の求婚に同意し、二千両を平吉から受け取った。
さて、そこからがお園の悪知恵である。なんと彼女はその二千両を庄屋に持って行き、そして「平吉こそがその二千両を奪った犯人である」と告発したのだ。
二千両もの金貨をかっさらった犯人を捕まえた事実と、お園の生まれ持っての器量、そして計算高い立ち回りで、お園はすっかり庄屋の主人に気に入られ、ついに狙った通り、庄屋の長男と夫婦になることと相成ったものである。
一方、平吉のほうは二千両もの金銭を奪った罪で投獄、拷問の末、遠島への島流しの沙汰が下った。
島流しの船に乗る日、お園が庄屋の息子に嫁入りすることを知った平吉は、裏切られた絶望ともはや適わぬ恋を儚み、その船の上から身を投げた。それは一切の躊躇もない飛び込みぶりで、平吉の身体は水に沈む一方で、二度と浮かびあがってこなかったという。
ついに夢をかなえたお園の方はというと、庄屋において嫁として疎まれぬように振舞いながらも金銭には全く不自由のない生活を満喫していた。買いたいものは大抵買えてしまう生活。憧れていた生活そのものである。おまけに自分にしつこく付きまとっていた野暮ったい百姓を追い払うことまでできたのだから、自分のことながら打った手を自分で褒めてやりたい。
だが、一つ新たに気にかかることもできていた。嫁入りしてしばらくしたころから、いつも背後に視線を感じるようになったのである。
何度も後ろを振り向くが、そこには誰もいない。気にしないように気にしないようにと努めたが、背後の視線は逆に存在感を強めていき、ついに姿を現した。
それは、八月の夏真っ盛りの時節、自分がこの生活を手に入れてから丁度一年が経とうとしている頃だった。
夕涼みに散歩に出たお園はここ一月ほどなかった例の視線を背後に感じた。それはいつもよりも強く、ねばりつくような視線だった。
何度もこの視線にさらされていい加減に振り返らないことを憶えたお園だったが、ぞくりと背中を走った悪寒に思わず後ろを振り向いてしまった。
そこにいたのは狸だった。
明らかにただの獣ではない。二本の足で立って歩き、旅人のような三度笠をかぶっている。
そして、小脇に抱えた袋の中にはギッシリと金の小判が詰まっていたものである。
狸はお園に尋ねた。
――金、持ってきた。たくさん、持ってきた。
――欲しいか、欲しいか?
お園は何も答えられなかった。すると、すーっ、とその狸の姿は消えていき、やがて何事もなかったかのように、涼しい夜風がお園の姿を通り過ぎて行った。
それから、狸は何度もお園の前に姿を現しては「金を持ってきた。欲しいか?」と聞いて消えていく。
ここまで来ては無視を決め込むこともできないと考えたお園は、旦那に相談して、腕の良い除霊師を紹介してもらった。
除霊師は話を聞くと、それは平吉の執念の残滓である、と断言した。
祓ってもよいが、自分にはいささか狸――平吉の方も哀れだ。どちらかといえば成仏させることをお勧めする、と。そして今度狸が現れたら、真摯に謝り、そして墓でも碑でも建てて、平吉を弔ってやりなさい、と助言した。
それを聞いたお園は驚いた。まさかあの野暮な百姓が、手ひどく騙されて死んだのに、あんな姿になってまで金を持参して、自分に逢いにきているというのである。
そして、お園は今までしてきたことを悔いた。居たたまれない気持ちのまま、彼女は主人である庄屋の息子に、盗まれた二千両を取り返した時の真相を打ち明けたのである。
結果的に庄屋の息子は、妻の過去を容認し、とがめることはしなかった。そして、一緒に平吉を弔ってやろう、と言ったのである。
立派な墓を建て、僧侶に経をあげて平吉を弔ってからのお園は周囲が目を見張るほど変わった。今までの三倍は働くようになり、そして稼いだ金の一部は百姓をはじめとする貧困層の援助にあてたそうである。
それから、“追い掛け狸”、つまり平吉は二度とお園の前に姿を現さなかった。一説によると、街の裏山に住み込み、田畑を荒らす害獣から作物を守る一匹の狸が目撃されたという。
* * *
「と、まあこんな話でさ……って、藤島!? な、何で泣いてるの!?」
えぐ、えぐ、と嗚咽を漏らし始めた真理江に、瀬名川が慌てた様子で周りを見回す。
「いや、平吉がさ、……あまりにも、健気で……」
つまり話の展開に感涙してしまったのである。真理江は自他共に認める怖がりであるが、また、泣き上戸でもあった。
「まあ、そんな感じで“追い掛け狸”はそんなに怖い妖怪じゃないんだ。そのお金を受け取ったら酷い目に遭うとかいう話はあるけどさ」
どうやら、痛いとか悲しいといった負の感情で、泣いているのではないと分かっていささかほっとした様子で瀬名川は続けた。
そして、自分のコーヒーと真理江の煎茶が空になっているのを見ると、「そろそろ出ようか」と、伝票を持って立ち上がる。
「え、あ、待って」
真理江は慌てて涙をハンカチでぬぐうと慌てて鞄と竹刀袋を持ってついていく。
結局、瀬名川が、今日のお茶代を持った。真理江も「私も出す」と言ったのだが、「僕に少し見栄を張らせてよ。泣かしちゃったお詫びも兼ねて」とにこやかに拒否された。
「もう真っ暗になっちゃったし、送っていくよ」
「え、だ、ダメよ。でもわたしの家に行くとなるとかなり遠回りになるわ」
「そういうわけにもいかないよ」
有無を言わさず、真理江を先に促し、瀬名川もそれについていく。
外に出ると、さすがに日が暮れていた。夜闇に絶えないコオロギや鈴虫の鳴き声が夏らしさを感じさせる。
「さっき言ったように“追い掛け狸”自体は怖い妖怪じゃないんだ」
隣を歩きながら瀬名川は言った。
「むしろ本当に妖怪だったらいいくらいさ」
「ということは、違うってこと?」
真理江が聞き返すと、瀬名川は目を丸くして言った。
「藤島……、まさか、昨日の夜に見たのは本当に“追い掛け狸”だと思ってるの?」
「あ、いや……そういうわけじゃないけどさ」
もちろん真理江も、昨日見た狸がただの悪戯だと思っている。だが先ほどの話を聞いて、妙にあれが本当の妖怪のように感じてしまっていた。
「でも、消えたりしてたのよね」
「それは、いくらでもやりようはあるさ。お化け屋敷だって怖く見せてるけど全部仕掛けだろ? でも同じように誰かの仕掛けた悪戯と考えるとちょっと気を付けるべきかもしれない」
「え? なんで? どうして?」
「まず、いくら仕掛けで脅かすことが可能だからって、無差別に人を脅かすためにそこまでの準備はしない。犯人はハッキリ君を狙ったんだ。もう一つ、犯人は藤島が怖がりだということを知っている。つまり最低その情報をつかめる手段があるってこと。つまり犯人は君の知り合いである可能性は非常に高い」
瀬名川の口調に、藤島は自分の動悸が早くなるのを感じた。狙われているということは、つまり悪意をぶつけられている。つまり、手の込んだ悪戯をするほど嫌われているということだ。それも、自分の知り合いの中に。
思い当ることを必死で探そうとする真理江に、瀬名川は続けた。
「『追い掛け狸』はただの伝承だよ。でも、そんな話が考えられた理由って言うのは必ずあるものなんだ」
「理由?」
なぜ、いきなりそんな話をし始めたのか、と真理江は隣に視線を向ける。
「さっきの話じゃ健気な男になってるけど、つまるところ平吉は好きになった女に付きまとい、挙句金まで盗んでしまったって話だろ? おまけに死んだ後も狸の化け物になってまでお園の前に現れている。つまり……」
「ストーカー?」
「そういうこと。伝承ではお園も悪い女だったから素朴な男に見えたかもしれないけど、それにしたってやってることだけを見れば粘着質の性質が悪い男と見ることもできる」
へぇ、と真理江は怖さよりも瀬名川の語る『追い掛け狸』の解釈に感心してしまった。さっきはただの昔話だとおもって聞いていたが、視点を変えるとここまで違った要素が見えてくるのだ。
「あ、ここよ」
あるL字路を曲がったときに、真理江がそう言って注意を促した。その注意がなくても街灯がなく、暗くなった路地を見れば分かった。
街灯がないとはいえ、周りの街灯がある区域からの光と月や星の明かりで全く見えないほどでもない。構成としては今曲がってきたL字路と、路地の先にあるT字路に挟まれている一本道で、車両は入れない道幅の正に裏路地と言っていい規模の道だ。
確かに不気味な雰囲気のある路地だ。一応、住宅街の中にはあるものの、住宅なのは左だけで、もう片方はフェンスを隔てた向こうは人の手があまり入っていない林である。フェンスの上からは右の林の常緑樹から太い枝が張り出しており、生い茂る葉が屋根のように覆いかぶさっている。これでは真昼間も相当暗いにちがいない。
「これは想像以上だなぁ。女の子がこんな道通っちゃだめだよ。幽霊とか妖怪より痴漢のほうが怖いじゃないか」
怖がりの藤島がよく通ってるな、とばかりに瀬名川があきれた様子を見せる。
「それはそうなんだけど、ここ通るのと通らないのとでは全然歩く距離が違うのよ。部活帰りだと特に……ねぇ」
分かるでしょう? と言いたげに真理江は瀬名川に目くばせをすると、瀬名川が苦笑した。どうやら部活帰りの身体のかったるさは男女共通らしい。
「それでも心配だよ。藤島は可愛いし……っと」
そこで、自分が口走った言葉に気づき、瀬名川が言葉を止める。真理江も反応して瀬名川を見るが、彼は、ふいと視線をそらす。
「あ、いや他意はないんだけどね。いやないと言い切ると嘘になるんだけど」と、途端にしどろもどろになる。「わ、分かってくれるかなぁ。この微妙なニュアンス」と、言葉に詰まりきった瀬名川が真理江に助けを求めるように言う。
「う、うん、なんとなく」
真理江も顔が熱くなるのを感じながら頷いた。真理江が瀬名川を異性として気になっていたのと同じレベルで、瀬名川も真理江のことが気になっていたのだろう。
はっきりしないのはいろいろ残念だが、今この場ではなんとなくいっぱいいっぱいだと感じている真理江は半分ほっとした部分もあった。
お互い照れているのか、不意に続いていた会話が途切れてしまった。先ほどまで瀬名川との会話が気を紛れさせていたのだろう。それがなくなると途端にこの路地の暗さが気になり始めた。
この路地の長さは二十メートル程度のものだ。それもすでに半分を過ぎている。だが、もう半分が不安を書きたてて仕方がない。たった十メートル。昨日もこのくらいの地点であの音がしたのだ。
ちゃりーん
「……!」
隣の瀬名川もその長身を強張らせたのが感じ取れた。
「聞こ……えた?」
「……うん」
二人して顔を合わせると、音の下方向をゆっくりと確認する。だが、視線の先に気になるものは見当たらない。
問題は次だ。昨日は、音の発生源を確かめた後、進行方向を向いたときに狸と目があった。警戒心を大きくして、そろりと進行方向を確認する。――しかし、そこにも何も見つけられなかった。
ほっ、っと一息ついた時だった。左手が妙に明るく感じ、そちらに視線を移す。
いた。その視線を写した先で丁度目を合わせてしまった。
「きゃあァッ!?」
あまりにも不意を突かれたので、今度は思わず大きな声を挙げ、その上隣にいた瀬名川に縋りついてしまった。
「え、何…って、うおあっ!?」
彼自身も、狸の姿を見つけたらしく、しがみ付いてきた真理江を引っ張って反対側の壁際に押しつけるように下がらせる。
真理江はぎゅっと目をつむっていたが、やがて瀬名川に軽く肩を揺すられた。
「もう、消えた。大丈夫みたいだよ」
その言葉を受けて、真理江は薄く目を開き、瀬名川にしがみついたまま先ほどまで狸のいた場所を見つめてみる。しかしそこにはやはり壁しかなかった。
今度こそ本当にほっと安堵したところでようやく自分がどんな状態にいるのか気付き、真理江は瀬名川から間合いを取るかのようにバッと後ろに飛びのいた。
「ご、ごご、ごめん……つい……!」
「や、俺のことなら気にしないでいいよ。役得役得。なんであのまま抱きしめなかったのか後悔したくらいさ」
朗らかに、笑って答える。
その後の道程には何もなく、瀬名川は真理江を下宿の前まで送り届けた。
「ごめんね。送ってもらっちゃって」
「ううん。俺が一緒なら出ないと思ってたけど、無駄にならなくてよかったよ。アレにはビックリしたけど」
まだ不安そうな真理江を気遣ってか、瀬名川自身は、それこそお化け屋敷の中身を振り返るような朗らかな笑みで言った。
「……で、何か分かった?」
瀬名川自身は、あれを手の込んだ悪戯だと言っていた。真理江は、それで実際に見た所感を聞いたのである。
「いや、驚くばかりで何にも……」と、瀬名川は申し訳なさそうに肩をすくめる。「でも、君を狙ってあの狸が出るのはわかったから。また明日もよかったら送るよ」
「……ありがとう。お願いします」
「いいよいいよ。藤島のためだ」と、手を振って、瀬名川は「また明日」と、来た道を戻って行った。
八畳のフローリングの自室に帰りつくと、真理江はそのまま崩れ落ちるように玄関先に座り込んでしまった。
何か内容の濃い一日だった。狸の話もそうだが、瀬名川の事もだ。
まだ確定的な話はないが、彼も真理江を悪くは思っていないらしい。そして数々の彼の言動は非常に好意的だ。まだ、彼氏というものを作ったことのない真理江だったが、男女が付き合い始めるときはこんな風に距離を縮めて言うのかもしれない。
(……と、それどころじゃなかったんだわ)
胸に湧き上がってきた甘い期待感を、振り払うように真理江は頭を切り替えた。
瀬名川は言っていた。あれは悪戯の可能性が高い、と。それも手の込み方からして無差別ではなく真理江を確かに狙っているのだと。
だとしたら誰がこんなことをしているのだろう?
そして、何のためにこんなことを?
疑問は渦巻くばかり、今日の濃い一日でも何一つ解決されていなかったのだった。




