第38話
ようやく拠点予定のラクーザ到着です。
<42日目>
「ふわぁ~、賑やかなところですねぇ~」
リィが私の横で驚きの声を上げる。
今、私たちは、馬車に乗って自由都市【ラクーザ】の東門の前にいる。
今朝ステムの街を発つと、6時間ほどで街をぐるりと覆う防壁の端へ辿り着くことができた。
ラクーザは、この東方大陸を実質的に治めるエイドウ剣王国の直轄地である。
厳密には、一個の都市国家とは言えない。
とはいえ、かなりの自治を認められているし、領地も確定されている。故に、一個の国として扱われることが多い。
また、王の裁量で関税等の面で優遇されていることもあり、交易都市と呼ばれることも多いそうだ。
だから、私たちと同じく街へ入る審査待ちの人達の中には、商人風の人やあきらかに冒険者らしき人達、どう見ても堅気には見えない人など、様々な人達でごった返していた。
人間だけではない。
獣人種やエルフ、ドワーフなど、人種も様々。
まさに「自由都市」なのだろう。
そこに目を付けたのが、この世界に降り立った【適合者】だ。
東方大陸のある意味中心地とも言えるこの街を拠点にして、行動を開始したのだ。
自らゲームクリアを目指し、自分の持つ能力とスキルを鍛えんとするもの。
自らのスキルを使い、ゲームクリアを目指す者たちのための装備を供給するもの。
自らの力でのクリアを諦め、来たるべきその日まで命を長らえんとするもの。
その行動のどれもが正しい。
他力本願と詰るのは簡単だ。
しかし、自分の命をチップにギャンブルを楽しめる人がどれだけいるだろう。
そんな人達は、きっとどこかが壊れているんだろう。
もちろん私も同類だけど。
入国審査を経て、ラクーザ入りを果たした私たちは、まず真っ先に冒険者ギルドを訪ねた。
ちなみに、東方大陸のギルド本部は王都エイドウに存在する。
だが、ラクーザの性格上、現在の中心地はこの街のギルドだ。
「ようこそ、冒険者ギルド・ラクーザ支部へ。ご登録ですね。」
この街の受付嬢も、可愛い猫耳の獣人娘さんだった。ギルドを作った人物はケモナーに違いない。
きっとそうに違いない。
ちなみに名前はミミさん。年齢は14歳だそうだ。
私とリィがBランク。オルがDランク。
Bランクはどのギルドにあっても歓迎される程だ。問題なく登録は済んだ。
今さらクエストをちまちまとこなしていくような状況ではないので、ひとまず目的を果たしに行くことにする。お金稼ぎなら、高レベル帯での素材採取と売却の方が実入りが良いからねぇ。
緊急性が高かったり、高ランク冒険者でなければクリアできないようなクエストなら引き受けても良いけど。
まずはスキル訓練所へ。
基本的なスキルは取得しているので、何だか変なスキルばっかり取得してしまった。
新たなスキル【編み物 LV1】【建築様式 LV1】【誘惑 LV1】【会話術 LV1】【徹し LV1】【舞闘術 LV1】【ダンス LV1】【宮廷舞踊 LV1】【精神統一】【専門:魚料理 LV1】を取得しました。
っていうか、専門スキルなんてあるんだ・・・。
これは新発見だなぁ。
生産スキルに専門分野があるとすれば、それぞれの武器防具種別に専門の作成スキルがある可能性があるってことだからね。
普通に基本スキルで作成するよりも、作成物の完成度が高くなるであろうことは想像に難くない。
奥が深いなぁ。
もしかして、ドロップ系のユニークアイテムを狙った方がもしかしたら速いかな?
まぁ、その辺りはこんな序盤で心配していても仕方がない。現状出来る最善手を打ち続ける以外、MMOには方法がないからね。
スキル回収を終えて、メッセンジャーでフィールズさんに連絡を取る。
コールするとすぐに相手に繋がった。
「もしもし、フィールズさんでしょうか。わたくし・・・」
「おお、クリスから聞いてるぜ。カグヤで間違いないかな?」
ナンバーで誰からコンタクトがあったのか分かるからだろう、そんな風に相手から切り出してきた。クリスからすでに連絡が行っていたようだ。
まぁ、普通するよね。
「そうです。ようやくラクーザに入りまして。野暮用が終わったのでとりあえずご連絡を・・・と。」
「そうかそうか。いつ連絡があるか心配してたんだぜ。まさかスルーされるわけじゃないよなってな!」
「まさか。腕の良い生産PCをスルーなんて出来ませんよ。それで、どうしたらいいでしょうか?」
「そうだな・・・。店に来てくれるか。仲間と一緒に北東エリアで【フィールズ雑貨店】って店を開いてる。でかい店舗だからNPCに聞いてもすぐ分かるぜ。」
「了解しました。では、これから向かいますね。」
「ああ、よろしく頼む。待ってるぜ。」
メッセの通話を切る。
雑貨店って・・・。武器防具だけじゃないぞってアピールかしらね。
北東エリアへ向かうと、そのへんを歩いているNPCに場所を訪ねてみることにする。フィールズさんの言った通り、みんな知ってるお店だった。
店は個人で運営するにはかなり大規模の建物だった。仲間と一緒にと言っていたので、適合者の生産PCによる共同経営的なものなんだろうと勝手に思っておく。
「いらっしゃいませ~。何をお探しでしょうか。装備品から日用品まで、何でも揃うフィールズ雑貨店へようこそ!」
とても愛想良く店員が話しかけてくる。若い人間女性だった。
下位適合者だ。生産スキル+店員って扱いっぽいかな。
「探しものというか、人ね。フィールズさん呼んでくれるかしら?」
「社長ですか。何かお約束を?」
「メッセンジャーで事前に連絡してあるから多分平気だと思いますよ。」
「あ、分かりました。カグヤ様ですね。こちらへどうぞ!」
察してくれたらしく、すぐに二階へと案内してくれた。
一階が店舗、二階が事務所になっているらしい。
「社長、カグヤ様をお連れしました!」
「おう、入ってもらってくれ。」
ドアを開けると、パーティションで区切られた、オフィス空間。
天井から「武器部門」とか「消費アイテム部門」とかパネルがぶら下がっている。
うわー、非ファンタジー空間でちょっと引くわ~。
「すまんね、わざわざ来てもらっちまって。なかなか自由には動けなくなっちまってな。」
木製の机の上には「社長」の表示。うう、なんだろうこの違和感。
「オレがフィールズだ。一応社長ってことになってる。隠してても仕方ねぇからバラしとくけど、【上位適合者】だ。で、コイツらはそれぞれの部門の責任者だ。」
フィールズさんの台詞に合わせて、8人のメンバーが手を上げたり頭を下げたり笑いかけたりして挨拶してくる。人間もいればエルフ、ドワーフもいる。生産PCのせいか、獣人種のキャラはいないようだ。獣人種ってなんとなく戦闘系のイメージあるもんね。
私も微笑んだり手を振ったりしてそれに応える。
「上位はオレ一人。あとは下位だ。だが、オレを含めてここにいるのは、それぞれプレイする上で決めていた生産スキルのマイスター達だ。実力は保証する。」
「ええ、もちろんそれは微塵も疑っていませんよ。適合者の区分だけで人を判断するほど、私の目も曇ってはいません。」
「それならいいんだ。どうもオレだけ上位だってんで誤解されがちでね。」
苦笑するフィールズさん。
「カグヤさん。アンタの実力はクリスから聞いている。クリスがまるで歯が立たないほどの力だってね。」
「クリスがどんな風に伝えているかは知りませんが、私もこの40日ただ楽しんでいたわけではありません。ただ、もう隠し続けるのにも飽きましたし、本気でクリアを目指すなら、ある程度の協力関係は必要だと判断しました。」
そこで一度言葉を切る。
「皆さんにはお知らせしておきます。私は【完全適合者】です。」
クリスからの事前情報である程度予測はしていただろうが、それでも息をのむ音が聞こえてくる。
それほどレアな存在なのだ、【完全適合者】という存在は。
「予想通りとはいえ、やっぱり驚くな。オレとクリスも上位だから相当レアなはずなんだが、完全適合者は桁が違うわ。」
「でしょうね。私自身が一番驚いていますよ、きっと。ちなみに一応秘密ということにしておいて下さい。余計な軋轢も接触も避けたいので。」
「ああ、秘密は守る。この東方大陸に完全適合者が降りていてくれたのはありがたい。他の三大陸にいるとは限らないし、他に存在するかどうかも分からないからな。」
確かに。
しかし、他の大陸の情報が欲しいな。王都に行けば情報が得られるか?
「オレ達【フィールズ雑貨店】は、要するに【ギルド】だ。クリアまでの道程を協力することで短縮するための。オレ達生産PCのスキルアップを最優先にして、その過程で得られた装備品で探索PCの能力を底上げして、効率よくゲームを進行することが目的だ。」
「総勢何名のギルドですか?」
「今のところ生産PCが18人。探索PCが90人だ。探索PC達は、大陸各地に素材採取に散らばっている。」
なるほど。探索PCのリーダー格がクリスってことかな。
大陸中を素材探して飛び回るなんて大変な仕事だなぁ。でも、それだけ本気でゲームクリアに取り組んでいると思えば好感も持てる。
「クリスは探索組のリーダーを務めると同時に、各地で確認した【適合者】をスカウトして回る役目も任せてる。【識別】持ちだからな。他にも【識別】持ちはいるんだが、レベルが高くないといまいち効果が低いんで、クリス頼みと言っていい。」
「クリスの84が最高レベル?」
「そうだ。約一ヶ月で良く上げた方だと思うぜ?」
「それは同意するわ。ところで、このギルドに【専門スキル】持ちはいるかしら?」
「いるぜ。というか【専門スキル】に気がついてるたぁ、さすがだ。」
マイスターが複数いるならと思ったけど当たりね。
「そう・・・。それならお互いにメリットを享受できると思うわ。」
「どういうことだ?」
「私があなたたちに協力する。私のレベルは実は204。レア素材の情報を教えてもられば、それを手に入れることが私なら多分可能よ。」
「204だと!?」
今度はさすがに心の準備が出来ていなかったようで、一同絶句。
まぁ、チート能力じゃなかったらさすがに不可能よ。
「それなら確かに・・・。危険な役目を任せちまうことになるがいいのか?」
「ええ。それによって私も高ランクの装備を手に入れることができる。あなたたちはスキル熟練度を獲得できる。お互いメリットがあるわよ。」
「そう言ってもらえるならありがたいが・・・」
「他にも私に支援してくれるなら、そうね・・・。まず住む家が欲しいわね。拠点になるような。あとはスキル回収を手伝ってくれれば十分よ。」
「分かった。家の手配は簡単だ。スキルについては、可能な限りは提供しよう。」
「よろしく。【専門スキル】までよこせなんて言わないから安心して。」
さすがにそこまで求めようとも思わないし。
そこは譲歩しておこう。全部自分でアイテム作ろうとも思わないしね。
魔法系のアイテムだけで十分。
たくさんのスキルを取得させてもらった。スキルマスターLV3が見えてきたわ。これだけでも十分おつりが来る。
後は、自分でレア素材を取りに行って、装備品を作成してもらえばいいだけね。
「どうもありがとう。スキルマスター特典のEXスキルが結構重要なのよね。」
「そうなんだよなぁ。ここにいるオレ達は生産系のEXスキルばっかり取得してるから、生産効率は上がるけど、戦闘がからっきしでね。」
「それでいいんじゃないかしら。せっかく分業できてるんだし。」
彼らはこの街でも結構有名なギルドらしく、方々に顔が利くということだった。高品質のアイテムを安定して供給できるようになれば、確かに重宝されるだろうね。
彼らの伝手で、私の冒険拠点になる家を手配してもらう。
買い取りか賃貸かということだったが、とりあえず賃貸で借りておいて、気に入ったら買い取る方向で話をまとめてもらった。
その一軒家は、フィールズ雑貨店と同じ北東エリアの外周、ホワイト調の煉瓦造りの二階建てで結構お洒落な感じ。
これなら良いかも!
煉瓦造りだけあって、断熱や遮音性にも優れているだろうから、多分快適。
後は中身だけど、家具とか揃えないといけないからねぇ。
建物の中も、人が住んでいなかっただけあって埃がそれなりに積もっているが、掃除すれば十分綺麗に使えるだろう。部屋数も十分。これは良い物件に違いない。
「フィールズさん、結構高いんじゃないですか、この家だと。」
「そうだなぁ。月に7金貨ってとこだな。なに、そのぐらいはこっちで負担するよ。」
「いやいや、そこまでしていただくわけには。気に入ったのでいずれ買い取りますよ。じゃないと改造できませんからね。」
賃貸物件に色々改造を施すわけにはいかないでしょう。
「改造するのかよ!」
「自分好みの家にするのは持ち主の特権でしょ。」
早速今日から・・・と思ったけど、さすがに時間的に不可能なので、今晩は宿に泊まって済ませることにした。
明日はとりあえず家具類を調達しなくっちゃね!!
何だかワクワクしてきたわ。
【42日目を終了します。現在のカグヤのステータスは以下の通りです。】
名前:カグヤ 種族:人間 性別:女 年齢:15歳
レベル:204HP:509(579)MP:550(870)
STR:501
AGI:491(541)
DEX:493
INT:535(835)
VIT:478(498)
MEN:504(764)
LUC:470(570)
所持称号:完全適合者・魔術の深淵を求める者・妖精女王に祝福されし者・冒険者
蒼の祝福・スキルマスターLV2・命を刈り取る者・金の祝福・宵闇の主
所持二つ名:無限の魔導姫
次はお家ゲットですね。




