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Next Eden【神とのゲーム】  作者: 葉月風都
第1章 最果ての村編
3/151

第2話

<1日目後半>


【ようこそ、楽園へ。ここは適合者のための世界です。貴女は完全適合者のようですね。よく考え、見聞を広げ、自らに必要だと思うことを積極的に行い、力をつけていくことを期待します。『次代の楽園』の祖となられることを祈っています・・・】


 白い光に包まれた女神様(?)が私に語りかけてくる。

 美人だけど、将来の輝夜には敵わない!


【貴女の新しい人生に幸多からんことを・・・】


 光の渦を抜けると、そこは草原だった。

 眩しく光る白い太陽。さすがに太陽が二つあったりはしないらしい。

 遠くに見える雲を被った山々。緑の森。そよぐ風。

 現実の自然そのもの・・・いや、現実世界以上の美しい自然が再現されていた。


「すごい!!」


 これが新型機の実力・・・。

 ザ○とは違うのだよ、○クとは!!


「すごすぎる、新型機・・・」


 旧型機とは桁違いだった。何もかもが違う。

 こんなに自然に世界を表現できるなんて・・・。

 感動の一言だね!


 辺りを見回して観察してみると、どうやらしばらく行った先に村があるようだ。

 さしずめ「始まりの村」といったところかな。RPGだしね。


 まずは自分のステータスと持ち物確認。現状把握は全ての基本だからね。

 ステータスは作成時の通り。おそらく外見も。鏡がないので何とも言えないけど。


 アイテム袋の中身を確認する。「冒険者の鞄アドベンチャーズ・バッグ」と名付けられたそれは、よくあるように50個までのアイテムを、サイズ無視で小さな鞄(私の物はウエストポーチ状の物で腰に巻かれていた。装備品に合わせてあるのかな?)に収納しておけるものらしい。


 鞄の中には【HPポーション(小)】と【MPポーション(小)】が2つずつ。

 それと銅貨が10枚、銀貨が10枚、金貨が10枚入っていた。

 公式ガイダンスによれば、「銅貨が100円、銀貨が1000円、金貨が10000円だと思って下さい」とのことなので、所持金は11万1000円ということになるのかな。


 ケープは肩に掛かっているからいいけど、杖はどこかな?


「神杖?」


 つぶやきに反応したのか、いつの間にか右手の小指にはまっていた指輪が光を放つと、右手に1m程の美しい細工が施されて、先っぽに白く輝く宝珠が埋め込まれた、一目で『いかにも高レベルアイテムです!!』と分かる杖が出現した。


 うん、これはむやみに見せびらかさない方がいいようだ。

 ステを確認してみたけど、指輪状態でもボーナスは発動しているようなので、基本指輪のままでもよさそうだ。

 神杖とケープの他は「旅人の服(女)」「ショートソード」らしい。なんかアンバランスだね。

 まぁいいけど。


 周囲に他のプレイヤーがいる様子はない。ラッキーと言えばラッキーなのかな。

 敵になりそうな獣や魔物もいなさそうなので、村に向かって歩き始める。

 気持ちのいい風を浴びながらゆっくりと。


 1時間程度は歩いただろうか。村の入り口らしき柵の切れ目に到着した。

 こちらの姿を見つけた村人が近づいてくる。


「よう、お嬢ちゃん。こんな辺境の村に何の用だい?」


 私に話しかけてきたのは、いかにも農夫ですって感じの30歳くらいのおっちゃんだった。すごい人の良さそうな顔。村人1だね、これは。

 さて、なんて話しかけてみようか。AIのレベルを確認するのにはちょうどいいかも。


「ここはいったいどこなんでしょうか?」

「そんなことも分からないでここにいるのかい!?

 ここは最果ての村『イーストエンド』だよ。まさに東の果てさ。ここから東へ20kmほど行ったところに岬があるんだが、そこがこの大陸の東の果てだと言われてるぜ。」


 おっちゃんは不思議そうな顔をしながらそう返事をしてくれる。説明的な台詞ありがとね。


 私は、【識別(アナライズ)】で得た追加スキル【世界知識LV10】をアクティブにして情報確認。どうやらここは東方大陸の東の果てらしい。

 世界地図が脳内マップとして浮かぶが、大陸の形が表示されているだけで、他にはイーストエンドの位置と名前。


「なるほど。自分でマッピングした部分が表示されるのかぁ・・・。


 そこまで便利でもないかな、このマップ・・・」


 まぁ、何も分からないよりは遙かにマシなのでいいことにしよう。地図って貴重だし。


「実は私、こう見えても冒険者なのですが。東の果ての岬というものを一度見てみたいと思いましてはるばるやってきたのです。」

「なるほど。それなら分かるぜ。『果て』ってのは何か知らんがロマンがあるよな!」


 いい笑顔のおっちゃん。


「しかし、一番近い街でもここから300kmはあるぜ。よく無事にたどりついたな、そんななりで」


 上から下まで視線を動かすおっちゃん。

 別に不躾ではないからいいけど、年頃の女子をそんな風に眺め回してはいかんよ?


「なんせ冒険者ですので。これでも魔法使いなのです。」

「魔法が使えるのか!? 一体どんな魔法が使えるんだ!?」

「えーと・・・」


 使用可能な魔法の一覧を参照する。結構あるなぁ。


「火・水・風・地・光・闇の6系統を全てです。ただし、第1階梯だけですけどね。」

「それでもすごいぞ。6系統全てを使える魔法使いなんてそうはいないらしいじゃないか!」


 ・・・そうらしい。

 ちなみに6系統の魔法は第1階梯から第9階梯まで分かれている。

 第3階梯まで使えればまぁ、魔法使いと名乗って誰にでも認められるレベル。

 第5階梯で一流。

 第7階梯で超一流。

 第9階梯まで納めていれば伝説級らしい。


 偉いぞ【世界知識】。

 どうやら意識的に「これが知りたい」って思わないと反応しないらしい。なるほど、得た知識を調べようと思わないと使い物にならないわけだ。

 よくできてるなぁ。


「これまで歩きづめで疲れているので、もしよければこの村でしばらく休ませて欲しいのですが。宿屋のようなところはありますか?」

「うーん、そんな大層なもんはないが、飯屋の二階に人が止まれるスペースがあるはずだ。そこにとまるといいんじゃないか?」


 少し考えたあと、そうやって教えてくれた。


「そうですか。ありがとうございます。では行ってみますね。」

「おう。まっすぐ行って広場に面した看板のある家だ。迷うことはないと思うぜ。」

「はいー。」


 手を振っておっちゃんと別れると、食堂兼宿屋へ向かう。


「こんにちは~」


 扉を開けると、そこはいかにも食堂といった感じの場所だった。

 木製のテーブルとイスが並んでいる。

 床をモップで掃除していたおばちゃんがこっちを見た。


「見慣れない顔だねぇ、お嬢ちゃん。まだ飯時には早いんじゃないかい?」

「いえ、私冒険者なのですが、今夜泊めていただけないかと思いまして。村の入り口の所で人の良さそうなおじさんにここへ行ってみるように進められまして…」

「ああ、なるほど。冒険者なんだね、お嬢ちゃん。あんまり可愛いからどこのお姫様かと思ったよ。一晩3銀貨。飯代は別だけどいいかい?」


 おばちゃんいい人認定。

 そう、輝夜は可愛いのです!


「はい。お世話になります。私、カグヤといいます。よろしくお願いします。」


 頭を下げる私。


「ご丁寧にどうも。あたしゃ、エルザっていうんだよ。短い間だろうけどよろしくね。」


 そう言って朗らかに笑った。

 ちょっと二階の部屋を準備してくるから、お茶でも飲んで待っててくれというので、イスに腰掛けてお茶を飲みながら待つことしばし。


「準備はできたからいつでも部屋は使ってくれていいよ。二階に上がって一番奥の部屋だから。鍵は渡しておくからね。」


 いかにも鍵って形の木製の鍵。


【カグヤは宿屋の鍵を手に入れた!】


 なんてね。おばちゃんの言うとおり、ひとまず部屋へ向かう。

 部屋には木製の机とイス。あとベッドがあるだけの簡素な部屋だった。

 最果ての村っていうくらいだから、お客さんなんて珍しいんだろうなぁ。

 お客さん来てから準備するくらいだし。


 ベッドに転がると、システムメニューを開いてログアウトボタンを探す。

 そろそろ現実世界でも晩ご飯時だ。輝夜が迎えに来るはずだから、一度戻って食事と身仕舞いをしてからもう一回ログインしなくっちゃね。


「あれ・・・・?」


 ログアウトボタンが見つからない。GMを呼び出すコールボタンもない。


「まさかねー。ラノベ展開じゃあるまいし。」


 微妙な不安を感じるけど。

 まさかねー。


 部屋を出て下に降りて行くと、おばちゃんに質問。


「この村に、色んなことを教えてくれる物知りなおじいちゃんかおばあちゃんはいませんか?」


 RPGなんだから、まずはチュートリアルでしょ。


「ああ、チュートじいさんのことだね。店を出て右へまっすぐ。村はずれの家だよ。すぐに分かると思うけど、そろそろ暗いから足下には気をつけて。」

「わかりましたー。ありがとうございます。」


 知らず知らずのうちに足が速まる。

 次世代機種のニューゲームだ。何か不具合があってもおかしくない。

 ニッポン皇国の12~18歳が対象なんだから、同時にログインしている人の数だって膨大なはず。何かサーバの方でトラブってるのかもしれないよね。


 真っ先にVRMMOモノのラノベやアニメを思い浮かべる私の方がどうにかしてる。

 そう思っても、私の足は止まらなかった。


 そんなときだった。


「カーン、カーン、カーン!!」


 村に鐘の音が鳴り響く。なにやら左側(太陽が沈んでいった方角なので、おそらく西)が騒がしい。

 思わずそっちへ向かって駆けだしてしまった。

 慌ただしく動き回る村人の会話から察するに、魔物が村に向かってきているらしい。

 人の流れに逆らって西へ向かうと、すぐに柵が見えてきた。

 男の人達が鍬や鉈を手に集まっている。中にはブロードソードを持っている人もいる。


「ゴブリン共だ。5匹はいるぞ!」

「弓を持ってこい!!」


 確かにゴブリンだった。

 言われなくても「アレはゴブリンですね。分かります。」って感じ。

 何をそんなに村の人が慌てているのか分からない。

 どんなゲームだって雑魚キャラだよね?


「あのー、何をそんなに慌てているのですか?」


 殺気立っている村の人に聞いてみた。


「お嬢ちゃん、見かけない顔だな・・・じゃなくて!

 ゴブリンが5匹だぞ。どうにかしないと村に犠牲が出る。早く弓持ってこい!」


 うーん、よく分からないけど。


「私、実は今日この村に着いたばかりの冒険者なのですが、要するにあのゴブリン達は倒していい敵ってことですね?」

「お嬢ちゃん、そんななりなのに冒険者なのか! そうだ、倒せるんなら倒してくれ!」


 どうやら本気らしい。しかもかなり焦っている。

 村人と冒険者では戦闘力にずいぶんと差があるらしい。スカウター無いかな。


 ・・・あるじゃんw


 目の前の村人を【識別(アナライズ)】してみました。


名前:ラドー LV:1 HP:20/20 MP:10/10


 目が点です。うん。確かにゴブリンにもやられそうです。

 ゴブリンが見えるので、ちょっと遠いけどダメ元でスキル発動。


モンスター名:ゴブリン LV:2 HP:40/40 MP:10/10


 HPが倍ですか。一対一では厳しいかな、さすがに。

 装備の差でひっくり返せるかも知れないけど。


「わかりました。お任せ下さい。」


 なんせ初クエストだもんね!

 なるべく派手に行こうと思って、火魔法第1階梯【ファイアボルト】を発動。


「あれ・・・。単体魔法のはずだよね?」


 不思議に思ったら、【世界知識】が答えてくれた。INT100ごとに対象を増加させることができるらしい。今のINTは556だから最大6体まで対象を取れる。


 小さな5個の火の玉がゴブリンに向かって猛スピードで飛んでいく。

 着弾。

 ボンッという音がして、もうもうと煙があがる。

 5つのゴブリンの焼死体がそこに転がっていた。

 焼け焦げた鎧。重度の火傷で割れた皮膚から赤黒い焦げた肉が見えている。


「なにこれ。ゲームなんだからポリゴンのかけらになるとか、光になって消えるとか、透明化して消えるとかすればいいのに・・・」


 あまりにリアルな死体感。空気感。

 『VRゲーム』という認識に対する違和感。


「凄いな、嬢ちゃん!!」

「凄い魔法が使えるんだな!!」


 村人の賞賛の声も、今の私の耳には入らない。

 くるりと身を翻すと、一目散にチュートじいちゃんの所まで走り出す。


【レベルが上がりました。カグヤのレベルは3に上昇しました。】


「おじいちゃん!!」


 息を切らせながらチュートじいちゃんの家に駆け込む。


「なんじゃ、どうしたんじゃ、お嬢ちゃん。そんなに息を切らせて。」


 びっくりした顔でおじいちゃんは私を見る。


「そんなことはどうでもいいの。教えておじいちゃん。ログアウトってどうすればいいの!?」


 おじいちゃんはきょとんとした顔で私を見た。


「ろぐあうと? なんじゃそれは? 聞いたことのない言葉じゃのう?」


 目の前が真っ暗になった。


 冗談じゃよ。


 そういっておじいちゃんがにやりと笑ってくれることを期待していたけれど、もちろんそんなことは起こらなかった。


「ワシも物知りで通っておるが、そんな言葉はしらんのう・・・」

「じゃ、じゃあ、GMコールは!? 強制終了は!?」

「うーん、すまんのう。何のことかさっぱりじゃあ。」


 済まなそうな顔で頭を下げるおじいちゃん。

 あまりのことに私はへなへなとその場に座り込んでしまった。


 嘘でしょ?


 夢でも見てるのかな。ネタとしてはよくある話だけど。


「テンプレもいいけど飽きるよね-」

「こんなチート世界なら私だっていってみたいわ-」


 なんて笑ってた自分がとっても愚かに思えた。

 帰れない。

 そのことがこんなにも重いなんて。


「む、そうじゃ。ちょっと待っておれ・・・」


 おじいちゃんがそう言って奥の部屋へ行ってしまった。

 もしかして・・・という希望が私の中に生まれる。

 おじいちゃんは、丸められた一枚の羊皮紙と、複雑な幾何学紋様の刻まれた謎の小箱を持って戻ってきた。


「謎の呪文のような言葉を話す者が現れたら渡すようにと代々伝えられてきたシロモノじゃ。おぬしがそうやもしれぬ。見てみるがいい。ワシが見ても何もおこらんかったがのう。」


 そう言って、おじいちゃんは私に羊皮紙と小箱を差し出した。

 それをおそるおそる手に取ると、紐で丸められた羊皮紙を開く。

 その途端、羊皮紙から音と光が飛び出した。


「これを目にしているからには、きっと君は適合者なのだろうね。どれだけの適合率かは分からないが、この世界で生きていける可能性があるということだ。」


 ホログラムのように投影されたそれは、白衣の男だった。


「おそらくもう気づいていると思うが、ここは仮想現実世界ではない。現実の世界だ。ただし、『異世界』だがね。何故こんなことになっているのか、その疑問はもっともだ。だから、手短に説明してあげよう。理解できるかどうかは別の問題だが、知っておくことに損は無いだろう。


「この世界の存在を知ったのは今から2年前。旧VRマシンの稼働中だった。非常に高い適性を持った使用者が突然失踪する事件が立て続けに起こったのだよ。事態を重く見た国技研は政府のお墨付きのもと、調査を開始した。その結果分かったのは、仮想現実世界をゲートとして異世界に接続することができるという事実だった。


「しかし、1つ大きな問題があった。それは、こちらからあちらへの一方通行だということだ。観測の結果、どうやらいわゆる『剣と魔法のファンタジー世界』であることが判明したが、一方通行の新世界など何の意味も無い。列強に邪魔されない新たな世界を皇国が手に入れるというアイデアは頓挫した・・・かに見えた。


「だが、そこで1つの異変が起きた。何と、向こうの世界から接触(コンタクト)があったのだよ。それも『神』を名乗る存在からね。その『神』はこう我々に言った。」


『1つゲームをしないか、とある世界の住人よ。我はこの世界の全能神****。そちらから送り込まれたこの世界に適応できる存在【適合者】が我のもとに辿り着くことができたなら、この世界とそちらの世界をつなぐ(ゲート)を我の力で開いてやろう。こちらの世界も安定期から終末期へ向かうところでいささか飽き飽きだ。無かったことにしてもいいが、お主らには使い道がある様子。このゲームにお主らが勝利すれば、賞品としてこの世界を贈ろうではないか。』


「傲慢なこの言葉に、我々は一も二もなく飛びついた。何せ様々な法則を無視してこちらの世界に接触できるような存在がアプローチしてきたのだから、こんなチャンスを逃す手はない。このチャンスを逃せば、別な列強がこの世界とのチャンネルを開いてしまうかもしれないのだから。


「すぐにでも計画を始めようとした我々に、『神』は言った。この道具では、まだ完全に異世界に繋がることはできないと。そこで我々は、より完全なVRマシンの開発と、『神』とやらから手に入れたこの世界の情報を元にVRゲームを開発した。この世界の写し絵。『NEXT EDEN』をね。つまり、この世界は君がプレイしようとしたゲームとほぼ同じ世界だと言うことになるね。


「2年かかったのはそのためだ。その間、初等・中等教育においてVR世界への適応力をさらに高める施策を実施した。また、この世界へ送り込める数は多ければ多いほど望ましい。よって、最もVR適応率の高い世代である12~18歳の若い世代に、無償で配布することにしたのだよ。ちなみに、希望者はおおよそ1000万人。うち1%が【適合者】だとすれば10万人がその世界に転送されたことになる。


「ちなみに【適合者】には3種類あるそうで、【下位適合者】【上位適合者】【完全適合者】のいずれかが君のステータスには表示されているはずだ。


「【下位適合者】はこの世界に転送できるだけの者で、訓練によってはモノになる程度。【上位適合者】はかなり見込みのある者で、この世界でも高い能力と地位に就ける者だそうだ。ぜひ努力して欲しい。そして【完全適合者】はこの世界の神々に匹敵することができる可能性を秘めているそうだ。最も我々と『神』が期待している存在だ。ぜひ、元の世界への扉を開いて欲しい。


「もしこれを聞いている君が【下位適合者】だとしてもあきらめないで頑張ってくれ。訓練と運次第では、君が救国の英雄となる可能性もあるのだから。


「繰り返すが、ここはゲームの世界ではない。現実だ。死ねばそこで終わりだし、生きていくためには自分を鍛え、スキルを手に入れ、敵を倒し、先へ先へと進まねば未来はない。帰還を諦めれば、この世界の存在として生きて一生を終えることは可能だ。それを選択するのは君の自由だ。


「こんな計画を実行した我々と『神』を恨む権利が君にはある。それは正当な権利だ。もし皇国への扉を開き、皇国へ戻ってくることができたなら、真っ先に国技研へ訪ねてくるといい。私は喜んで私の首を差しだそう。私の命程度では君がこれから味わう艱難辛苦には釣り合わないだろうが・・・。

どんな理由でもいい。恨み辛みでも、英雄志願でも、愛でも・・・。いつか必ず皇国への帰還を果たして欲しい。以上だ。健闘を祈る。」


 映像と音声はそこで途切れた。


「むう、何が起こったのか全く分からんわい。む、どうした嬢ちゃん。大丈夫かの?」


 そんなおじいちゃんの声に反応する元気は私にはなかった。


 異世界?

 ゲームと同じ?

 死んだらおしまい?


 挙げ句の果てに神様に会って扉を開けてもらって帰ってこいって?


 っていうか、何様?

 何様なの!?

 許せない・・・。国技研と神様。

 必ずまとめてぶっ飛ばしてやるんだから!!

 ゲーマーなめんなよ!!


 ゲーム世界に生きる、そのこと自体はともかくとしても。


 輝夜に会えないなんて耐えられない!!


 もしこの羊皮紙が、私を焚き付ける目的で配置されたアイテムなら、悔しいけど効果的だったと言わざるを得ない。なぜなら、今の私は、この理不尽極まりない神様とのゲームをクリアする気満々だったから。

 この世界の神が傲慢にも言い放ったように、必ず元の世界に返して貰えるかどうかは定かじゃない。なんせ世界の存亡をゲームのチップにするような神様だ。素直に扉を開いてくれるかどうかも怪しい。

 でも、世界と世界をつないで干渉することができるのは間違いない。

 ならば、自力でどうにかできる可能性もある。

 帰れる可能性がある。それだけで、今は元気になれる。


 ファイト、私!!


 とすれば、今から私にできることは1つだ。


「おじいちゃん!」

「な、なんじゃ、急に元気になりおって。」

「早速チュートリアル始めましょう!!」


 千里の道も一歩からだよ。


 それからきっかり2時間。

 なぜきっかりかというと、この世界にも【時計(クロノグラフ)】が存在していたから。

 中に一定の時間で時を刻む小さな魔法石が入っていて、それを磨いた金属に魔力で表示させるのだという。

 ちなみに1日は24時間。1時間は60分で1分は60秒。1年は360日。12の月に分かれていて、1ヶ月は30日に区切られているそうな。1ヶ月が30日ピッタリということ以外は、地球と一緒だ。分かりやすくて助かる。


「とまあ、これがこの世界で冒険するための基本じゃな。ワシも若い頃は・・・」

「うん、その情報はいらない。でも、ありがとう、おじいちゃん。すっごく助かった!」


 私にばっさり切られておじいちゃんはちょっと落ち込んだけど、お礼には笑顔で返してくれた。


 レベルの話やスキル熟練度の話。

 冒険者とはどういうものか。

 人間以外にどんな種族が存在していて、おおむねどんな関係なのか。

 害をなす獣や怪物、魔物のこと。

 生きていくためにどんな物やスキルが必須なのか。


 まさにチュートリアル。ゲームなら聞き流し、読み飛ばしちゃうところだけど、自分の命がかかってるなら真剣にもなる。一言一句間違わないように記憶した・・・と思う。


「あまり気負わんことじゃぞ。」

「え?」


 おじいちゃんがぽつりと言った。


「なにやら悲壮感漂う様子じゃが、やはり『生きる』ということは楽しまねばならん。気負いすぎては上手くいくものも上手くいかん。気楽に『楽しむ』ことを考えれば道は開けようて。」


 無責任なような、含蓄のあるような。

 でも、おじいちゃんの言葉は、私の気持ちを何だか軽くしてくれた。


「うん・・・。色んな意味でありがとう、おじいちゃん。」

「うむ。じじいの長話によう付き合ってくれたわい。これは餞別じゃ。受け取れい。」


 そう言っておじいちゃんがくれたのは、【小ポーション×10】【状態異常解除薬×2】【チュート爺さんの紹介状】だった。重ね重ねお礼を言って、ポーチにしまう。


 そして私は、宿へ帰る。

 新たな決意を胸に。


 ベッドに潜り込むと、明日からのことを考えながら眠りに就いた。なかなか眠れなかったが、やはり疲れていたのか、気がついたら意識を手放してしまっていた。


【1日目を終了します。現在のカグヤのステータスは以下の通りです。】

名前:カグヤ  種族:人間  性別:女  年齢:15歳

レベル:3   MAX HP:258(338) MAX MP:260(580)  

STR:258

AGI:258(308)

DEX:258

INT:259(559)

VIT:257(277)

MEN:260(490)

LUC:258(358)


所持称号:完全適合者


新たなスキル【サバイバル】を習得しました。


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