第20話
29日目、前半部分のみの投稿です。
まだ他の適合者が出てきません・・・。
<29日目・前半>
起きたら昼だった。
うん、さすがに寝過ぎだろう。
まぁ、昨日は強行軍だったから、疲れていたんだろう・・・ということにしておく。
迷宮探索もだけど、やはり夜間飛行が効いたわ~。
早急に長距離転移魔法かそれ系のスキルを手に入れる必要があるなぁ・・・。
せめて登録した地点に転移できるようになれば、ホームを手に入れて、そこを拠点に大陸を渡り歩くことも可能になるし。自由度が一気に上がる。
まぁ、無い物ねだりしてもしょうがないので、今日は今日の活動に勤しむとしましょうか。
今日の活動・・・。
そうだ!
あの張り紙。
確か、『森のフクロウ亭』だったっけ。19時って書いてあったはず。
今日の最優先事項は、それよね。
その前に、可能なら素材の売却とか、装備品作成とかもできたらいいのかしら。
あ、素材はプレイヤーの中にランクの高い生産職人がいればそっちの方が確実なのかな?
うーん、まだ売り払ってしまうのは早計か・・・。
お金にしかならなそうな、換金系アイテムだけは資金にしておこうかな。
そうと決まれば冒険者ギルドへ。
その前に腹ごしらえと行きましょう。
腹が減っては何とやらと、昔の偉い人も言いましたし。
せっかくなので、『森のフクロウ亭』の場所だけは確認しておこうと、街の人に尋ねながら屋台で買い食い。行儀悪いとか何とかは気にしない。やっぱりこれが楽しくて美味しい。
だって、現実世界では買い食いなんて不可能だったしね。
南の商業地区にその店はあった。
ぱっと見、煉瓦造りの二階建て。
新築ではなく居抜きというのだろうか、それなりに歳月を感じる見た目だわ。
おそらく一階が食堂、二階が宿になっている良くあるタイプの宿だろう。屋台で買い込んだ唐揚げのような食べ物を袋から出して頬張りながら、少しの時間様子を窺ってみる。
真っ昼間なので、ランチ目的の客が多少出入りしている程度。
出入りする全員に【識別】を行ってステータスをのぞき見る。
「ホントにいた・・・」
ある低レベルの女性キャラを【識別】したときに初めて分かった。
レベル差がだいぶあると、LVやHP/MPの他にも、所持スキルや称号が確認できるのだ。ちなみに彼女はLV22の近接戦闘タイプ。称号の欄に【下位適合者】の文字。
「ということは、完全なガセネタじゃないってことね。」
それさえ分かれば問題ない。
私たちは、ゆっくりとその場を立ち去った。
場所は変わって冒険者ギルド。
「あら、カグヤさん。【世界迷宮】間に合いました?」
「一応探索に入ることはできたんですが、いきなり外に放り出されたかと思ったら消えちゃって。ギリギリ二日居られたかどうかですよ。誰なんでしょうね、クリアした人?」
「誰なんでしょうね。そればかりは自己申告していただかないと分からないんだそうですよ。あっという間に有名人になれるチャンスなのに。」
不思議そうな顔をするカーネさん。
有名になりたい人ばかりじゃないってことですよ。
「ですねぇ。まぁ、探索できた間に、素材とか手に入れましたからひとまず満足ですよ。それで、このへんの換金系アイテムを買い取って欲しいのですけど?」
ウェストポーチから金のインゴットやら宝石類を取り出す。
魔力を帯びているとかは全くない、純粋な素材アイテムなので換金がよさそう。
「こ、こんなにですか・・・。【世界迷宮】ってすごいところですね!」
「その代わり、モンスターもLV60からと破格ですけどね。」
にっこりと笑ってあげました。
「買い取り価格を算定してきますので、少々お待ち下さいね・・・」
素材を持って奥へ引っ込んでいく。偉い人が換金額を決定してくれるんだろう。
その間に、掲示板を確認。
ずっと貼りっぱなしのようで、【適合者】の文字がやけに目立つ。
意識してるからだろうけど。
下位ばっかりのハズレだったら次の街へ行くときに切ってしまえば問題ない。
使えそうな人材が居るなら、PT組んでみるのもそれはそれでよさげ。
上位ないし完全適合者がいた場合は、目的のために共闘できたら一番だ。
18歳までの少年少女だ。
現実世界に「帰りたい」と思っていてくれることを信じよう。
「カグヤさん、お待たせしました!」
カーネさんが奥から戻ってきた。買い取り価格が決定したみたいだね。
「えーと、全部ギルドで買い取るとしたら、ギリギリ10ミスリル貨ということでした・・・」
「ああ、じゃあ、それでお願いします。」
「いいんですか!?」
「?」
なんだろう、ふっかけすぎ?
「いえ、あまり大きい声では言えないんですが、もっと大きな街で、しかるべき相手に売れば16ミスリル貨ぐらいにはなると・・・」
「ああ、それは別に気にしてませんから。迷宮探索のオマケでしたし。とりあえず換金して当座の資金にしたいので問題ないですよ。」
「そ、それならいいんですが。お支払いの内訳はどうしますか?」
そっか。全部現金でもらっても困るか・・・。10ミスリル貨ってことは1000万円だもんね。
「金貨100枚をもらって、残りはギルドカードに登録してもらっていいですか?」
「了解しました。では、ギルドカードをお借りしますね。」
さすが対神様ゲーム。
ギルドカードはキャッシュカードにもなるんですよ。クレジット機能は付いてないみたいだけどね。先入れ方式の電子マネーみたい。
とりあえずこれで、資産が1000万エーンになったので、しばらく働かずに暮らせるわね。
「ギルドカードお返ししますね。すごいですね、カグヤさん。」
「私たち運はいいですからね。驕らず地道に稼ぎますよ。」
「偉いですねぇ。稼いだらぱーっと使っちゃう冒険者さんが多いんですけどね~。」
「あはは。もちろん必要な分は使っちゃいますけどね。あ、そうだ、腕のいい武器や防具の生産者さん知りませんか?」
NPCにも多分ランクがあるだろうし、一応確認しておく。
未装備箇所の装備品は準備しておく必要があるし。
特にリィは。
リィのレベルは70ちょっとだから、MAXまでの猶予があまりない。
100までだと思うと、最終パーティまで引っ張るのは難しいけど、だからといって「はい、さよなら」っていうには情が移ってしまったし・・・。
いずれは別れがあるとしても、可能な限りは装備品とかで補って一緒に行きたいし。
マスコットとしてはとっても高性能だしね。
「生産系のことでしたら、西区の『生産者組合』を訪ねてみるといいですよ。既製品をお求めなら、同じく西区に武器や防具を扱うお店がありますので、そちらを覗いてみるのがお勧めです!」
「ははあ、なるほど。わかりました。ありがとうございます、カーネさん。」
「いえいえ、何でも聞いて下さい!」
冒険者ギルドを後にして、西区へ向かう。
どうせ夜には西区へ行かねばならないのだし、せっかくだからカーネさんに聞いた通り、武器防具を物色しに行くのもいいかもしれないと思ったので。
まずは既製品を売っているという武器と防具の店へ行ってみることにしようっと。
「うーん、確かに既製品って感じ・・・」
ファンタジー世界定番の武器が綺麗に並べられているという感じで、目新しいものや特殊な効果が付与されているようなものはない。【識別】してみたので間違いはないはず。
駆け出し専用って感じだわね。
地方の主要都市じゃあこんなものかな。王都とかならまた違う品揃えなのかしら。
次は『生産者組合』へ。
中は、武器・防具・装飾品などカテゴリ別にブースが分けられていて、テーブルにはカタログのみが置かれていた。
パラパラとカタログをめくると、ページにはアイテム名・スクリーンショット・スペック・生産者名・希望価格が綺麗にまとめられていた。
何というか、オークションカタログみたいね。
スクショとかさすがゲーム世界って感じえ少し興ざめだけど、見る側としてはありがたいよね。
見た目も結構重要だし。テンション上がる見た目の方が絶対いいよね。
せっかくなので、私用の片手剣を探してみる。
それと、手足装備。良いものがあれば買ってもいい。それに、生産者のセンスが分かるので、この生産者が合いそうだと思ったら、素材持ち込みで直接交渉って手もあるし。
「コイツら・・・。絶対【適合者】ね・・・。」
カタログをじっくり眺めてみると、色々なことに気がついた。
まずはこのカタログは、この街専用ではないということ。
売りの期間が決まっていて、その期間内にオファーがあれば、先着順で売買契約成立。即時落札価格が決まっているオークションなわけね。
だから、生産者の所在地もまちまち。
やはり、王都【エイドウ】と自由都市【ラクーザ】が多いみたい。
となると、あまりのんびりせずに、まずは【ラクーザ】入りを目指す方が結果的には近道かな?
それと、生産者名のところに【皇国】とか【@ニッポン】とか適合者が見たら分かるような単語がくっついていることが多い。
生産スキルばっかり上げてないで、自分もクリア目指したらいいじゃない・・・とか思ったけど、仮に【下位適合者】だとしたら、自力クリアはほぼ不可能。
上限突破クエストをひたすら受け続けて、自分の能力値を頑張って上げるより、生産職でサポートをって考えもあるってことよね。
どれだけの【上位適合者】【完全適合者】が存在しているのか不明な現状、ひたすら生産スキルを上げて、いい武器と防具を作成して売りに出せば、めあての相手がコンタクトしてきてくれるかもしれないっていうのは結構大きいと思うのよね。
もちろん生活の糧というか、資金を稼ぐためもあるだろうし、生産職やってると、自分の作った物を認めてもらうのが一番のモチベーションだっていうのもあるしね。
私も経験あるから分かるわぁ。
ちょっとこの街で腰を落ち着けて・・・と思っていたけれど、【世界迷宮】のおかげでレベルや資金的に一気にブーストかかったから、【ラクーザ】行きを早めよう。そうしよう。
カタログを眺めていたら、いつの間にか時間が過ぎていた。
リィはいつものように服の中ですやすや寝ていた。
退屈だったろうに、文句も言わずに偉い子。
今度、リィが気持ちよく寝られるようなバスケットでも買って、ポーチに入れておこう。
次話でようやく他の【適合者】登場です。
下位ですが・・・。




