第9話
毎話字数が不規則で済みません・・・。
<皇国視点・起動7日後>
ニッポン皇国で発生した『集団失踪事件』は非常に大規模なものであった。
現在公式に発表されている失踪者数は107400人。
皇国全体の人口からすれば微々たるものではあるが、ほぼ同時期に発生していることや、十代の若い男女であること。いずれも自宅から煙のように姿を消していることなどが共通点としてあげられている。
「まるで神隠しにでも遭ったようだ」
ニッポン皇国に古くから伝えられている表現で、この事件をとらえる者も多くいたほどである。
『神隠し』
そう呼ばれる集団失踪事件。解決の糸口は未だつかめていない。
「お姉ちゃんが失踪なんてできるわけ無いじゃない!!」
輝夜は一人憤慨していた。
姉である静夜の『神隠し』から、すでに一週間が経過していた。
静夜は生まれたときから抱えている難病のせいで、基本的には自力移動が不可能である。
よって、自発的に姿を消したとは考えにくい。
では、何者かによって連れ去られた?
その線も非常に薄い。それならば、この15年の間にいくらでもチャンスはあったはずである。
「お姉ちゃんは『私は、容姿では輝夜の足下にも及ばないし、頭脳だってたかが知れてるよ。私よりも輝夜の方が誘拐には気をつけなきゃね。というか、輝夜になんかしたら生き地獄を味わわせてやるけどな!!』ってよく言ってたけど・・・」
病気のせいで筋肉はなく、色白でやせっぽちではあるが、姉妹なので顔立ちだってよく似ているし、何より小さくてお人形のようだと輝夜は常々思っていた。
誘拐の可能性だってゼロではない。
輝夜がそう言うと、『こんな性格の悪い動く人形なんて、呪いの人形以外の何物でも無いな!』と言ってまるっきり取り合ってくれなかったけれど、輝夜にとってはたった一人の姉だ。
不安ばかりが募っていく。
両親は、最初こそ狼狽していたが、今は表面上は落ち着いている。
「後は国の機関にまかせるしかないよ。」
そういって、毎日皇国政府の公式アナウンスをチェックしている。
未だ捜査に進展の気配はない・・・。
<8日目>
「ふぁああああ・・・」
我ながら間抜けな声だなぁ・・・なんて思いながらベッドの上で思いっきり伸びをする。
昨日は、まさに朝から晩まで迷宮に篭もりっ放しだったので、さすがに疲れすぎだった。
戻ってくるなり「詳しいことは明日!」と倒れ込むように寝てしまった。
「う・・・ん・・・」
ふと横を見ると、リィが丸くなって寝ていた。
どうやら一緒に戻ってきて、そのまま二人で寝入ってしまったらしい。
まぁ、女同士だし問題ないよね!?
せっかくなので、改めてじっくりとリィの顔を眺めてみる。
実に愛らしい。輝夜とはまた違った可愛らしさだ。
輝夜を柴犬だとすれば、リィはポメラニアンかなぁ。思わずなでなでしたくなる感じ。
羽が蝶々なのが私的には若干マイナス点だね。
「リィ、起きて-」
だいぶ日が高くなってしまっているようなので、とりあえずリィを起こす。
「ふぇ~、もうちょっと~」
「リィってば。起きないと襲うけど?」
「ほぇっ!?」
がばっと飛び起きた。ちっ。
「おはよう、リィ。もう昼っぽいよ?」
「カグヤ・・・。あれ、私もしかして一緒に寝ちゃったかな?」
「そうみたい。気がつかなかったけどね。疲れてたから。」
そういえば、村長さんの所に色々説明しに行かなくちゃいけなかったんだっけ。
素早く身支度を済ませると、村長さんの所に向かう。
途中リィの家にも寄って、お父さんとお母さんに紹介して貰った。
挨拶を急いで済ませると、村長さんの所へ。
「かくかくしかじか・・・というわけですよ。」
「なるほど・・・。【試しの洞窟】とはそういう場所だったんだねぇ。初めて知ったよ」
村長さんがそんなことでいいのか・・・。大丈夫か、妖精さん?
「にしても、最下層でそんなことがあったのか。途中でリタイアしたから知らなかった」
村長さん、リタイア組だったのか・・・。自慢げに言われてもねぇ。
「リィ。いや、リィナリルス」
「はっ、はいっ!?」
「いつの間にか無断で付いていったことは不問にしてあげよう。ただし・・・」
ほっとしたかと思えば、びくっとするリィ。忙しいなぁ。
「妖精女王様の言うことには逆らえない。カグヤにくっついてお前も旅に出るんだ。まだ成人の儀も済ませていないが、女王様がそういうのであれば是非もない。いいな?」
「はいっ、わかりましたっ!!」
びしっと敬礼的なことをするリィ。
ん、ということは、私に付いてくるのか?
まぁ、別にいいけど・・・。十分リィもレベルアップしたから、足手まといになることはないはず。
多分だけど・・・。
「ということで、済まんがカグヤ。このお調子者を同行させてくれないかな?
君には大してメリットもないだろうが、話し相手ができたと思って・・・」
「まぁ、それは構いませんけど。連れができるのは嬉しいですし」
リィを見てにっこりと微笑んであげる。
「ありがとうございます、お姉様!!」
え?
何でいきなりお姉様?
「だって、リィの保護者になっていただけるということですよね。お母様では変ですから、当然お姉様ですよね?」
可愛く首をかしげるけど、なんか変よ、それ?
まぁ、いいけどね。ちょっと憧れの響きだし、『お姉様』ってw
こうして、私には同行者ができました。
さて、旅立ちの準備を整える前に、村長さんに【精霊の銀】について質問してみる。
「それはいい物だよ。銀と名前は付いているけど、非常に薄く布のように加工することもできるし、非常に丈夫で武器にも適している」
さすがミスリル。ゲームでは定番なだけあって、高い能力を持っているようだ。
「せっかくだから、旅立つ前に必要なものに加工しておくといいよ。リィの両親に頼めば望みのものにしてくれるだろうからね」
なんでも、リィの両親は村一番の鍛冶屋なんだそうだ。いいことを聞きました。
早速、旅立ちの報告を兼ねてリィの家へ。
「なるほど・・・。妖精女王様のご託宣では仕方ありません・・・。村の外へ出るにはいささか早すぎる歳ですが。カグヤさん、リィナリルスをよろしくお願いします」
「はい。出来る限りのことはしたいと思っています。」
一通り話を終えると、装備作成タイム。
【精霊銀糸の服】
種 別:体装備
OBJ属性:通常アイテム
パラメータ上昇:DEF:+40 MEN:+20
付加スキル①:【状態異常耐性LV2(+10%)】
付加スキル②:【魔法ダメージ減少LV2(-10%】
かなりギリギリの分量だったが、リィの分も作成することが出来た。
青みがかった白色の動きやすそうな服(半袖のシャツに、ハーフパンツのようなもの。涼しそうでよい。)で、早速着替えておくことにした。
「お姉様、おそろいですね!」
リィがにこにこしている。笑顔は大事だね。
それと、リィのお母さんが、遠い昔に村を出て旅をしていた頃使っていたという妖精用の装備をリィにくれた。親心って奴ですね。
【妖精の鞭】
種 別:片手武器
OBJ属性:通常アイテム
パラメータ上昇:ATK:+28 AGI:+10 DEX:+10 MEN:+10
付加スキル①:【ランダム状態異常LV2(+10%)】
【精霊銀の指輪】
種 別:装飾品
OBJ属性:通常アイテム
パラメータ上昇:DEF:+5 MEN:+20
付加スキル①:【状態異常耐性LV2(+10%)】
付加スキル②:【魔法ダメージ減少LV2(-10%)】
どうやら【精霊の銀】は、状態異常と魔法に対して抵抗力があるらしい。
レアアイテムだけあって、序盤装備のスペックじゃないわ~。
嬉しいドロップアイテムだったね。
加工代もタダだったし!!
そうして、盛大に見送られながら、私たちは妖精の隠れ里をあとにしたのでした。
「お姉様、このあとどちらへ行かれるんですか?」
「ねぇ、リィ。」
「?」
「なんでですます調なの?」
いや、なんていうの。違和感ありすぎで・・・。
「いえ、そのほうがいいのかなぁ~って・・・」
「そんなことないよ。むしろやめて欲しいかな。」
「じゃあ、そうする~。お姉様じゃなくてお姉ちゃんでもいいかなぁ?」
えへへと笑いながらリィが私の周りをふわふわ飛び回る。
「うん、そのくらいが嬉しいかも。お姉様も捨てがたいけどねー。で、次の目的地は【ロックウォールの街】だよ。ここから西に2,3日ってとこかな。」
「ええっ、結構遠いんだね。大変そう・・・」
「大丈夫、ひとっ飛びだから。」
ウィンクして見せたあと、おもむろに【飛行】で空へ。
「うわぁ~、たかーい!!」
「ちゃんと入っててよ-、リィ。」
「はい~!」
服の胸元にリィを収納(?)すると、一気に加速。
気持ちのいい大空をスピードを上げて西へと向かう。
さぁ、出発だ!
軽く流して飛んだけど、2時間もしたら【ロックウォールの街】が見えてきた。
名前の通り、石造りの壁がぐるりと街を取り囲んでいる。【最果ての村】の何十倍も広い街だ。【王都】とやらはさらに広くて立派な大都市だそうだ。
いつ行くことになるのかはまだ分からないけど。
ちょっと手前のところで着陸。
壁を飛び越えて中に入るわけにも行かないし。多分関所みたいなのがあるだろうからね。
着地したのを見計らって、リィが服の中から出てきてふわりと浮かぶ。なんでも、そんなに高度は出せないんだそうだ。だから、飛行魔法のように空を高速で飛ぶことはできないみたい。
案の定、門の所に衛兵らしき人が二人立っていて、街に入ろうとする人をチェックしているみたいだ。私たちの番が来ると、どこから来たのかとか何をしに来たのかとかを聞かれたので、【最果ての村】から冒険者になるためにやってきたと正直に応えておいた。
リィとは街道で知り合って意気投合したことにしておく。
「【妖精の隠れ里】があるらしいからな。たまにこの街にも妖精がやってくるから、不思議でもないか・・・」
衛兵さんはそういって私たちを中に入れてくれた。
まぁ、凶悪な犯罪者2人組には見えないよね、私たち。
街へ入ると石造りの建物が並んでいた。村とは違うんだね、やっぱり。
「まずは冒険者ギルドだね・・・。あ、すみませーん。」
街人その1的な感じの人に場所を尋ねてみると、丁寧に教えてくれた。
冒険者ギルドは、街の中央広場を南へ行ったところだった。
扉を開けて中に入る。
中は交流の場にでもなっているのか、丸テーブルとイスが6組ほど。
なにやらアイテムを売っているカウンターもあるようだ。きっとポーションとか売ってるに違いない。
「すみませーん、冒険者登録したいんですけど。」
カウンターの受付嬢(猫耳の獣人娘さんだった!)に話しかけると、登録までの簡単な流れを教えてくれた。
要するに、名前・種族・性別・年齢を【冒険者の証】に魔法で刻み込むだけらしい。
そのライセンスがあれば、大陸のどこへ行っても冒険者として認められるそうだ。
私とリィの二人分を早速登録。
続けて、名前などが表示されている自分のカードに、MPを消費してスキル情報などを反映させていく。新しいスキルを覚えても、自動的に追加されていくそうだ。
ライセンス=ステータス画面と考えれば分かりやすいかな。
「カードに意識を向けることによって、自分の持っているスキル情報などを表面に表示することができます。まさに身分証明書ですので、決して紛失しないように気をつけて下さいね。」
何というテクノロジー。ファンタジー世界ハンパない。
【新たな称号【冒険者】を獲得しました】
「これで登録作業は完了です。初登録ですので、注意事項を説明させていただきますね。」
何度も繰り返しているだろうから、ものすごい滑らかに説明してくれた。
リィは途中で目を回して理解するのを放棄していたけど、まぁ、簡単にいうと以下の通り。
①冒険者にはFからSまでの7ランクある。Sまで到達し、活躍が認められればSSランクに昇格することができる。もちろん滅多にないことだけど。
②ランクアップするためには、自分のランクにあったクエストをこなして、貢献度を上げる必要がある。捜し物から魔物の討伐、遺跡探索やレアアイテム納品などクエストは多種多様。
③クエストは自分のランクの1つ上までのクエストを受けることができる。難易度が高いほど貢献度は多く入る。
④クエスト難易度は1(易)から8(難)までの8ランクに分かれている。8は無理ゲー。
⑤一度受けたクエストを放棄することもできるが、違約金や貢献度のマイナスペナルティがある。
⑥冒険者ギルドは世界共通なので、どこにいってもランクや貢献度は引き継がれる。
「初めは難易度1から始めて、徐々に難しいクエストに挑戦するといいと思います。ランクアップしたからといって、難しいクエストに挑戦するだけではどこかで躓くことも多いですし。」
ネコ耳娘さんのアドバイスなので真摯に受け止めておく。ネコ耳は正義だし。
ああ、輝夜にネコ耳・・・。じゅるり。
「お、お姉ちゃん、目つきが怪しいよ!?」
リィの言葉で我に返った。ネコ耳ちゃんがなんか引き気味だった。
自業自得だけど、ちょっと傷ついた。くすん。
気を取り直して、早速クエスト一覧を見せてもらう。
Fランクは、納品系や配達系が多いみたい。
手持ちの素材で完了できるクエストがないか確認していく。
うん、結構あるねぇ。【最果ての村】や【試しの洞窟】で手に入れていた素材や、スキルで作成したポーション類の納品が即完了できそうな感じ。
「今持ってるものを納品しても完了になるんでしょう?」
「そうですね、Fランクの納品系クエストはギルドからのものが多いです。常時必要なものを納品していただく感じになりますから。」
なるほど、そうやって仕入れの手間を省くわけだ。そのままカウンターに並べてもいいし、町の人に売り渡してもいいんだしね。
「じゃあ、これとこれと・・・」
合わせて12種類のクエストを一気に受注して即完了する。
「12種類も・・・。はい、了解です。受付けました。納品物を確認しますので少々お待ち下さい。」
待ち時間の間、クエスト一覧を眺めて過ごす。とりあえずEも全部確認しておくかな。
「・・・お待たせしました。確認が完了しましたので、報酬金をお支払いします。」
合わせて65銀貨を受け取った。Fランクは大体1クエスト5銀貨が相場らしい。解毒ポーションの納品が10銀貨だった。1クエスト5000円かぁ。結構ボロい?
「Fランクのクエストは簡単なものが多いので、1日に同じクエストは1度しか受けることができません。今のように別なクエストを同時にこなすことは可能ですが。」
なるほど、単一素材を大量に納品して小金を稼ぐのは不可能ってことかぁ。
当然といえば当然の措置ではあるよね。
「ところで、貢献度が今のクエスト完了で100ptを突破しましたので、Eランクにランクアップできますがどうしますか?」
ほほう、結構簡単にランクアップできちゃうんだね。
「ランクアップすると何か有利なことや不利なことがありますか?」
「ランクアップすると、施設の利用料などが多少割り引かれます。また、上のランクのクエストが受けられるようになるので、より多くの報酬を手に入れることができます。
「不利な点は、上下1ランクであればいいのですが、2ランク以下のクエストを完了しても貢献度が入らなくなります。Eランクではそのデメリットはありませんから、ひとまずEランクには上げておくことをオススメします。」
なるほどなるほど。お金は稼げるけどランクは上がらないのかぁ。まぁ、生きていくだけならそれでもいいのかも知れないね。
でも、私には目的がある。上に上がるのをためらってるヒマはないんだよね!
「分かりました、じゃあ、Eランクになることにします。」
「分かりました。では、ライセンスをお借りします。」
なにやら魔法的な作業を行っているようだ。
返してもらったライセンスを見ると、ランクがFからEに変わっている。
貢献度の所には120/2000の表示が。
貢献度が右側の数字まで貯まればランクアップできるわけね。
ライセンスを確認してから、宿屋の場所を教えてもらう。
冒険者御用達のお宿だそうで、F~Dランクの冒険者はその程度の宿を使うとよいということらしい。1泊3銀貨。ツインの部屋なら2人で5銀貨だそうだ。これは嬉しい値段設定。
というか、リィとだったらシングルで二人も可能じゃないと思ったけど、さすがにそれはダメだそうだ。
まぁ、当然かぁ。
「ふえー、お姉ちゃんは頭がいいんだねぇ。リィには説明はさっぱりだよ~」
「あはは、ちょーっと説明長かったしね。今日はゆっくり休んで、また明日から頑張ろうね!」
まだそれなりに日が高かったので、街を散策してある程度の地理を把握しておくことにした。
結構広いので、全部を歩き回るにはちょっと時間が足りなかったみたい。
ついでに晩ご飯を済まそうという計画だったので、広場で買い食いしまくってしまった。
結構食べたと思う。油断大敵!!
今日の分はノーカウントなので、明日から【冒険者】として頑張るぞ!
【8日目を終了します。現在のカグヤのステータスは以下の通りです。】
名前:カグヤ 種族:人間 性別:女 年齢:15歳
LV:40 MAX HP:302(372) MAX MP:322(642)
STR:306
AGI:308(358)
DEX:295
INT:320(620)
VIT:294(314)
MEN:297(527)
LUC:295(395)
所持称号:完全適合者・魔術の深淵を求める者・妖精女王に祝福されし者・冒険者
新たな称号【冒険者】を獲得しました。




