お嬢様について その6
11年前
フォボスとディモスに会ったのは、雨の日の庭だった。
日本だったら、わたしは小学生入学を迎えていた頃だ。
「ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ らんらんらん♪」
「お嬢、屋敷に戻りましょう」
「やだ」
「お嬢~、柊に怒られるの、ワシなんですよ~」
「やだ」
渡は、護衛の為どこまでもついて来る。
丁度、それにイラついていた頃の話だ。
まあ、この屋敷には柊、渡、私の3人のみしか存在しない。
柊は、メイドを追い出してしまったから、家のことで忙しい。
まるで、執事のごとく働いているし、もっぱら屋敷内は渡と行動した。
護衛なんて意味なしと思っていた。
「あっ、かたつもり!」
「いいえ、お嬢、かたつむりです」
「む~、間違えた」
「ハハハ」
「笑った、渡!!」
「ハイハイ、帰りますよ~」
「わた…っ」
「覚悟!!!」
わたしは、その後泥濘にはまって転んでしまって見えなかった。
「お嬢!!」
見えたのは、赤い血が水溜まりに流れて雨に色をつけていたこと位だ。
それから、大きな音が聞こえたことだ。
耳がぐわんぐわんしていた。
どこかで鳥の鳴き声のようなものが響いた。
「お嬢、振り向くな!!!」
「う、うん」
「大丈夫か」
「ごめんちゃい…」
「いいや、お嬢は悪く…」
「ううん、鳥さん死んじゃった」
「いや、お嬢、死んだのは鳥じゃないくて刺客なんだが…」
渡に抱きあげられながら、私は1メートル程先の木の下を指差した。
「鷹…か?」
「たか?」
「ああ、子供がいるみたいだな」
「……(どうしよう、やってしまった。私のせいだ)…」
子供がいたのに、親鳥を殺めてしまった。
「おい、お嬢動くな」
わたしは、渡から無理やり離れて、柊のもとへ駈け出していた。
あれから、鷹の飼い方とかで忙しくてすっかり忘れていたが、確かに狙われてたのは私だった。
神経図太く出来てんなーと今思うと感じる。
あれは、あの後どうなったんだろう…。
あんまり、考えるの止そう。
私の心の平和のためだ。
「痛い、フォボス、あげるから、突かないでっ」
赤眼のフォボスは、私から餌をほしがった。
ディモスは我関せずといった風貌だ。
鷹にも人格?いや鷹格が存在するらしい。
金眼のディモスは、クールだ。
「お嬢さん、そろそろ屋敷に着きますよ」
「うん」
「二人は、ワシが預かっておくとするか」
「うん、お願い。適当に遊ばせといて」
「柊は、先に行っているはずです。表からお入り下さい」
そう言って、渡は車の扉を開けた。
腕を差し出す。
「ええ、わかりました」
着物の裾を寄せて、私は立ち上がった。
「いつ来ても、馬鹿でかい城のようだわ」
私は、車から降りマフィアの娘として屋敷に踏み出す。