お嬢様について その4
私は、なぜこんなところでお嬢様をしているか?
まだ、小さいころは今より真剣に考えていた。
(赤子って話せないのが、玉に傷だわ)
うつ伏せに、寝っ転がっていた私は、だだっ広い部屋にぽつんとしていた。
(この状況、どう見ても何か事情がある赤子なんだわ)
立ち上がろうと試みるも失敗。
(1日に何度か訪れるメイドも色々だし、第一なんで私こんな赤子になってんの)
2000年代の日本のOLとして日々、仕事という荒波と格闘中だった、わたし。
ワーキングプアもいいとこだった。
とりあえず、正社員にならなくてはと必死だ。
仕事中、課の上司に何か言われてる内にフェードアウト。
気付いたら、ここにいて、赤子だった。
「失礼いたします」
「あぁぅ~」(なに~)
「奥様、こちらでございます」
「あぁ~?」(えっ)
「この赤子が、ドンが外で作ったという娘ですか」
「はい。直属の部下よりそう聞いております。東の国へ滞在中、遊郭という場所の遊び女が集う宿でまだお付きとして仕事をしていた女との間に出来たと聞いています。この赤子を産んですぐ亡くなったそうです。不思議な女性だったとおっしゃっておりました」
(えーーっ修羅場…)
「…そう、あの男の子に間違いはないならよい。この赤子も育てよとのご命令です」
「ですが、奥様」
「そのようなことは、どうでもいいのです。わたくしが勤めを果たせば自由になれるはず、わたくしの勤めは、子を産み、ある程度まで育てる。それだけです。」
赤子ながらに、壮絶な家庭環境であることは理解した。
(まさか、マフィアだとは、思わなかったけど…)
その後、ドンとやらに会ったのは、奥様がやってきてから8日後のことだった。
「ヒノエ」
昼寝中起こされたわたしは不機嫌だった。
「うきゃーう」(なんだよ、眠いんだ)
「以前より重くなったか?」
「なー」(だれ、あんた)
「お前は、母である藤によく似ている。不思議と落ち着く女だったが、変な力のせいであまり身体は丈夫ではなかったな。お前にも受け継がれているのか…」
「はぁううぁぁ」(何、ソレ!)
「大きくなれ」
そう言って静かにこの部屋を後にした。
(どうでもいいけど、なんか彫深くてちょっと凄みのあるイケメンだった…、ここって全員イケメン仕様なのかな?)
その考えは、2日後部下とやらがやってきた時に間違っていたことを悟ることになる。
わたしは、イケてる感じのドンの娘だった。