お嬢様について その13
「柊、私今嫌な予感しかしないのだけど…」
ドンが去った後、暗い表情をしたままのお嬢さまがいた。
ヒノエお嬢様の嫌な予感しかしないのだけれど発言は昔からよく当たる。
いや、外れた事がないと言ってもいいのです。
幼い頃、何度驚いたことか。
本日も随分冴えわたっているらしく、何か感じ取っているらしい。
「そうなのですか?」
「うん、何か考えている顔だった」
「ドンは、周りに気持ちを悟らせる表情はなさらない方ですので、私にはわかりかねますが…」
「……」
(どこが、あんな不自然な態度…、何かよからぬ事に決まっている!!!)
「お嬢様?」
思案顔で眉を顰めていらっしゃるお嬢さまは可愛らしかったが、私は、別の事に気を向けるようにする。
「クッキーが上手く焼けたので、お一ついかがですか?」
「わぁ、おいしそうです。ありがとう」
「いいえ」
ヒノエお嬢様が、ずっと笑顔でいらしゃいますように、この柊、精一杯手を尽くすのみです。
きっと、ドンも同じ気持ちでいらっしゃることでしょう。
その時ドンは、時が経とうとも忘れもしない、あの瞬間を思い出していた。
ダンは、始めて東の国へ来てから緊張を強いられていた。
「生まれた!!」
「バーン様、お生まれになられました」
「おなごです!」
3人の女子が居間へ駈け込んでくる。
2人の大男がそわそわしながら、居間を陣取っていた。
「ドン、生まれたそうです!」
「そうか、そうか…、藤が産んだか…」
190を超える男が、息をつき地に足をついた。
「……ヒ…ヒノエ、母…です」
「おぎゃーーーー」
「お父様もどうぞ、こちらへ」
「あ…、ああぁ」
ドンこと、ダン・ハリウェル・バレルは感動していた。
彼は藤という女性に会う前、すでに別の女性と結婚して子を儲けていた。
しかし、バレルファミリーを納める男としての結婚だった。
愛した人の子を抱くの初めての事だったのだ。
「可愛いな、…それに小さい。」
「…ええ」
「よくやった、藤」
「…はい、……この子はヒノエです。そう決めて居りました通りに」
「ヒノエか」
「はい、…この子は運命の子です。私たちの力を受け継いで生まれてきた。私の命も後少しの期間、あなたの島に着くまで持つとよいのですが」
「大丈夫だ。信じよう、藤」
「…はい」
藤はその時とても綺麗な顔で笑い、ドンに幸せな気持ちを運び、一抹の不安を過らせた。
しかし、彼が過去ないほどの幸福を噛みしめていた事は紛れもない事実である。
「ヒノエ、私とあなたの子」
マフィアの娘の誕生は、随分感動的に始まっていた。