お嬢様について その12
バレル島、ドンの私室
わたしは、その扉の前にいた。
「お嬢様、ドンがお待ちですよ」
柊はやさしく笑って私を即した。
「はい」
扉を息を殺し叩く。
「ヒノエです。しつれいします」
そう言って扉を開いた。
「遅い」
「す、すみません」
ドンは、椅子の上で脚を組み座っていた。
(今日は一人だ。よかったぁ~。ああ、ホント集まると恐ろしいファミリーだから…)
「おいで」
「ドン、久しぶりです」
「ああ、久しいな。息災か?」
「はい」
「そうか、ならよい。……やはり心配だな…はぁ」
「??…急にどうしたのですか?」
「…ああ、急な話ではないんだ。お前が生まれた時から決まっていたことだ。これはな」
「決まってた?」
「ああ、俺が支えてやる事が出来ればいいが、私は藤と契約した人間だからな」
「母上とですか?」
「ああ」
そう呟いて頬を撫でてくれたが、いつもより元気が無いように感じる。
「ドン?」
(美形が悲しむと超~カッコいい…、憂いありまくりだ。スゲー)
「いや、会合までしばらくある、ゆっくりしているといい」
「?…ここでですか?」
「ああ。少し様があってな。ここ空けるが、ゆっくりするといい」
「はい」
ドンはそう言ってここを出て行った。
入れ違いに、いい紅茶の匂いと共に柊が傍にやってくる。
「ドン、行ってしまいました。柊、なんか変じゃなかった?」
「変とは?」
「うーん、なんかいつもより迫力がありませんでした」
「迫力ですか?」
「うん」
「ヒノエお嬢様の前ではいつもあまり迫力はありませんよ、ドンは」
「そうかな?」
「そうです」
何やら柊は、満足そうに笑みを浮かべて言う。
今日はどうやらいいお茶が入れられたらしい。
「藤、約束は守るよ」
ヒノエお嬢様は、ドンに愛されている末娘である。