お嬢様について その11
お嬢様誕生の経緯について
小さな番外編へ
東の国、遊郭
藤は、以前何と自分が呼ばれていたのか知らなかった。
父も母も東の国では、異端と呼ばれる小さな種族だったと言う。
彼女は小さなその身に、種族の血を濃く受け継いでいた。
東の国では、こう呼ばれている。
―邪の血
戦乱の中その血を持つものは利用され殺され、世が一端の落ち着きを取り戻す頃には、もうすでに耐える寸前だった。
貿易が盛んな街の遊郭の最奥一室に彼女は存在していた。
人買いに売られ、ここへやってきていくつもの月日が経っていた。
「藤、髪を結っておくれ」
そう彼女を呼んだのは、今仕えている蓮太夫。
艶めかしい西洋薔薇をあしらった着物を身につけている。
流れた黒い濡れた髪が美しかった。
「はい」
「他の奴らはどうしたの?」
「他の処へお使いに、それからお参りに出ています」
「そうかい…、お前旦那たちには知られてはいないね」
「はい、大丈夫です」
「ならいい、その力は隠しておかなくてはならない。私がこの地位を得てから探し始め見つけ出したのは、お前を含め4人」
「姉さんは、大丈夫ですか?」
「ええ、いつも通りだよ。」
「ですけど、今日はお休みになられた方が…」
「今日は、大事な盟約の日なんだよ」
「めいやく?」
「ああ、私たちの種族にとって大事なことさ」
「?」
藤は要領を得なかったが、蓮太夫は唯一信用に足る人物。
彼女が言っているのだ、そうするべきだと思った。
瞼を静かに閉じた太夫は、口を開いた。
「お前たち4人は、今日来る男に着いてお行きなさい。藤、お前はこの血を受け継ぐ者を産むんだ。もちろん、あの子たちの中にもいずれ成すものもいるだろう。だが、そなたが産む子は少し違う。強き力を持ち、隠れ生きて来た我らの血とは違った人生を歩もう。この一族の血は、藤、お前たちにかかっている。この地にいては、いづれ閉ざされてしまう。お前の命は、もうすでに終幕に近づいていると言ってもよい。子を成し、緩やかな終焉を」
蓮太夫は、先見の力を持っていた。
邪の血を引き継ぐ子には、皆皆人と違う力を持ち生まれる。
力には、個々の差は存在したが、戦乱のの世には重宝されし力だった。
「姉さん…」
以前、藤には、家族がなかった。
そして希望もなかった。
それを作ったのが、蓮太夫だ。
「いいかい、守るんだ。必ずだ」
「………」
藤は、口を開けようとするが出来ない。
扇を開き、小さく扇いで窓の外へと蓮太夫は視線を変え、重ねて藤に解いた。
「藤、…私の名はなんというか知っている者はすでにいない」
「えっ」
「私は、丙((ひのえ))と呼ばれていた。もう呼ぶものはいない。覚えておいで」
「……はい」
蓮太夫のうっすらと弧を描いた口元は、とても美しかった。
「バーン、着いたな。」
「ええ、随分掛かりました。」
港には、一際大きい船が到着し一時の賑わいを見せていた。
それもそのはず、出てきた男たちは随分大きい身体をしていたのだ。
「とりあえず、交渉は終わらせて、息抜きとする」
「はい、ドンの言う通りに」
藤は、この時すでに先の運命に決意を固めていた。
マフィアの娘の誕生はもう少し先の話になる。