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出会い

 物心ついた頃には、桐谷彰きりやあきらは魔術を使う事が出来た。

 両親はただの一般人。誰かに教わったわけでもないのに、彰には自然と魔術の使い方が分かっていた。

 そんな自分がおかしな存在だという事も、重々承知している。人は自分とは違う物を持っている相手を妬んみ、拒み、嫌うという事実にも。

 

 高校生になった彰は一般人と同じ様に過ごしていた。小学生の頃から魔術は使っていないから、かれこれ五年は魔術を使っていない。が、年齢を重ねる事に身に秘める魔力は増えていき、使える魔術も増えていく。

 自分はやはり普通にはなれないのだと思い、彰は自嘲じみた笑みを浮かべた。


「どうした彰? 笑い方がニヒルだぞ?」

「……いや、何でもない」


 話しかけてきたのは黒野透くろのとおる。彰の通う笹木学園のクラスメイトだ。

 自分が魔術師であると自負している彰は他人と距離を取っていたのだが、透だけは良い意味で気遣いをしない人物だった。気づけば彰と透はすっかり打ち解けている。


 そんな数少ない友人と、彰は学校の帰り道を歩いていた。駅前の雑貨や書店に寄り道していると、辺りはすっかり暗くなっている。駅前にある時計塔は八の数字を指していた。

 美しく輝くイルミネーションから視線を外すと、辺りには何組かのカップルが見受けられる。

 そういえば、もうすぐクリスマスが近いな。まあ、彰には関係のない話だ。イブを共にするような仲の良い女の子などいない。


 彰と同じ方向へ目を向けていた透は溜息をつきながら言う。


「羨ましいよなあ彼女いる奴。もうすぐクリスマスだってのに、今年も家族と一緒にクリスマスを過ごす事になるのか」

「家族と過ごすのは悪い事じゃないだろ」

「いやいや、高校二年生にもなって彼女いないとか、悲しいじゃねえか! なんか負け組みたいで」

「焦って作ろうとするものでもないんじゃないか? 結婚とかするのは、どうせ大人になってからなんだしさ」

「じゃあ、彰は彼女欲しいと思わないのかよ?」

「ああ、今すぐ欲しいとは思わない」


 すると、再び透は溜息をついた。歩き始めた透と並ぶように、彰も歩みを進める。

 前から吹いてきた風に身を震わせて、彰はポケットに手を突っ込んだ。

 魔術を使えば、寒さを防ぐ術などいくらでもあるのだが、それに味を占めてしまった時、自分は魔術に依存する事になるかもしれない。

 

 冷気に身を震わせながら歩き、二人は駅前を後にする。

 大通りにもたくさんの人々がいた。老若男女、様々な人間が街の中を歩いている。

 なのに、これだけの人がいるにも関わらず、自分と同じ魔術師はいないのだと彰は残念な気持ちになった。

 もし街中に魔術師がいるのなら、魔力でその存在を察知出来るだろう。しかし、十七年間生きてきて、魔力を宿した人間に遭遇した事は一度も無い。

 

 大通りを進み、彰は信号の前で歩みを止めた。透はそのまま真っ直ぐの方向に家があるので、ここで別れる事になる。


「じゃあまた明日な~」

「ああ、またな」


 挨拶を交わすと透は歩き始める。その姿はやがて人混みに紛れて見えなくなった。

 赤色の信号が青へと変わる。待っていた人々が歩みを進め、彰もそれに紛れる様に歩き始めた。

 ポケットに手を突っ込んでも手はかじかんでいく。手を出して両手で摩りながら息を吐くと、少しだけ温かく感じられた。吐息は白く、すぐに宙で霧散する。


「……俺がどう思っても、現実は何も変わらないよな」


 虚空を見つめながら、彰は呟いた。

 魔術師である事を悔いても、事実が消えるわけでもないし、魔術が使えなくなるわけでもないのだ。考えたって仕方がない。

 小さく嘆息して家へと向かおうと足を動かそうとした時、


「……!」


 彰は、突然起きた出来事に驚愕した。

 先程まで歩いていた街の人々が、いつの間にか姿を消している。車や人々による喧騒も、まるで嘘の様に静まり返っていた。

 店の中に出入りする人の姿さえも見受けられない。この世から人が消えてしまったのではないかとさえ思えるような光景だった。

 

「流石、噂に聞く魔術師ね。人払いの冥術が聞かないなんて」


 不意に、後方から鈴の音の様な声が聞こえた。

 マフラーを揺らしながら振り向くと、五メートル程度離れた場所に、一人の女性が立っている。

 さっき確認した時には誰もいなかったはずだ。それなのに、まるで最初からそこにいたかの様に女性は立っていた。


 そして、彰はその女性が発した言葉の中の、二つの単語に着目した。


「……なんで、俺が魔術師だという事を知ってるんだ?」

 

 それに、彼女がいう冥術とは一体なんなのだろう?

 訝しみ、臨戦体勢を取る彰に、その女性は両手を上げた。


「私はあなたの敵ではないわ。ただ、あなたに協力して欲しくて、頼みに来たのよ」

「……協力?」

「ええ、……でも、あなたが噂通り強いのかどうか、戦ってみないと分からないわよね」


 敵意のなかった女の瞳が怪しげに光った。だが、彰はその瞬間的な変化に反応する。

 高速で魔法陣を展開。自分の脚力を魔力で強化し、その場から跳躍する。

 先程まで彰がいた場所を光の弾幕が通り過ぎた。


(なんだ? 魔術に似ていると思ったけど、魔力とは根本的な違いがあるみたいだ。それに、今彼女は魔法陣を展開していない)


自分以外の魔術師に遭遇した事はないが、魔術を使うに当たって、魔術という事象を発生させる為の入り口が必要となる。それが魔法陣だ。

 大雑把に言ってしまえば、魔法陣の展開なしに魔術は使えない。生まれながらにして優れた才を持つ彰でも、それは例外ではない。

 

(なるほど、冥術というのは、やはり魔術とは違ったものなのか)


 心の中で相手の力を分析しつつ、彰は先程までいた場所の後方に着地する。手のひらをかざし、自分の目の前にいくつかの魔法陣を展開した。


「雷弾」


 呟くと、魔法陣から大量に稲妻が放たれた。女性は不敵な笑みを浮かべ、ただ、横に腕を凪いだ。

 女性へと向かっていた全ての稲妻は軌道が横に逸れる。女性の横を通り過ぎ、稲妻はアスファルトを粉々に砕いた。


「これだけの攻防じゃ何とも言えないわね。やっぱり、本気で戦わないと」


 手のひらを前に突き出し、女性は目を瞑った。直度、女性の足元から光があふれ出す。

 何をするつもりだ? 彰がそう警戒した時、


「凍てつけ!」


 女性の声と共に、足元の光は更に強さを増した。そこを発生源として、街は一瞬にして凍りついた。

 もし人がいたならば、そこにいた人達は全て凍てつき死んでいただろう。無論、彰だってひとたまりもないはずだ。

 冷気で視界が白く染まる中、女性は静かに呟く。


「これで死ぬような存在なら、協力してもらおうとは思わない。……けど」

 

 嬉しそうに笑みを浮かべ、女性は冷気の中に人影を見つける。


「やっぱり、ここに来て正解だったわ」


 冷気が晴れ、彰の姿が露になる。彼の周りだけ凍っていない事から、魔術で女性の攻撃を防いだのだと分かる。


「何か納得した様子だけど、俺には全然事情が分からないんだが」


 彰は前に一歩踏み出しながら、女性に声を発した。


「ああ、ごめんなさい。あなたの力は多少判断できたわ。中級冥術をいとも簡単に防げるのなら、これからの戦いには申し分ない。うん、決めた。あなた、私と協力してくれないかしら?」

「……話がよく分からないし、いきなり襲い掛かってくるような奴と協力したいとは思わないな」

「実力を見定めるためだったんだから仕方ないじゃない。話を聞く気があるのなら着いてきて。まあ、逃げようとしても逃がすつもりはないけど」

「……俺に断る権利はないのか」


 溜息をつきながら、渋々彼女に従う事にする。話が済めば解放してくれるだろうし、ここで無闇に反抗して、さっきのように戦うよりはいいだろう。


「で、君の名前は?」


 先に歩き出していた女性は振り向き、笑みを浮かべて返答する。


「アイリス・クリスフォードよ」

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