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第4話:その笑顔は、ブラックホールより深い

「あら、みなさん。ちょうど試作品のケーキが焼き上がりましたよ」

休日の午後、コスモ荘のリビングに甘い香りと共にヒカリの柔らかな声が響いた。

彼女は星の三兄弟の次女。おっとりとした癒やし系で、カフェ店員としても働く料理上手だ。

「うおお! ヒカリのケーキか! いただくぜ!」

「やったー! ちょうど糖分が欲しかったんだ!」

香りに釣られて、二階からサンとスバルが転がり落ちるように降りてきた。少し遅れて、ホクトも「……まあ、栄養補給は必要だから」とすまし顔でやってくる。

テーブルには、カフェの新作候補だというシフォンケーキ。ふわふわの生地に生クリームが添えられ、見た目も完璧だ。

「うめぇええ! さすがヒカリ、店が出せるレベルだぞ!」

サンが豪快に頬張ると、ヒカリはふんわりと微笑んで紅茶を注いだ。

「ふふ、嬉しいです。サンは味覚がシンプルで作り甲斐がありますね。まるで『単細胞生物』みたいで可愛らしいです」

「ん? おう、サンキュー! ……って、んん?」

サンはフォークを止めた。今、すごい笑顔で何か言われなかったか?

気にせずスバルが口を開く。

「ヒカリ! 僕の分もっとない? これいくらでも食えるわ!」

「あらスバルにぃ、ダメですよ。ただでさえ落ち着きがないのに、これ以上カロリーを摂ったら『暴走機関車』になっちゃいます。頭の中身が軽いから、体くらいは重くしておかないと」

「えっ? あれ? 今、僕のことディスった? 褒めた?」

スバルがキョトンとする横で、ホクトが冷静にケーキを分析し始めた。

「原価率は約30%……手間賃を含めると、家で作るのは非効率では? 既製品を買ったほうがタイムパフォーマンスが良いですね」

ヒカリは琥珀色の瞳を細め、聖母のような微笑みをホクトに向けた。

「あら、ホクト。相変わらずですね。数字ばかり計算して、『人の心の機微』はいつまで経っても計算できないんですね? 残念な子」

「……っ!?」

ホクトの動きがピタリと止まる。その言葉は、鋭利なナイフのように彼のプライド(計算高さ)を正確に抉った。

リビングに奇妙な沈黙が流れる。

ニコニコと紅茶をすするヒカリ。その背後には、事象の地平線すら飲み込むような、底知れぬブラックホールが見える気がする。

「……なぁ、ヒカリちゃん。俺たち、何か怒らせるようなことしたか?」

サンが恐る恐る尋ねると、ヒカリは小首を傾げてキョトンとした。

「え? 何のことですか? 私はただ、みなさんのことが『大好き』で、よく観察しているだけですよ? ふふ、さあ、冷めないうちに召し上がれ」

三人の男たちは震え上がった。

光は、どんな暗闇も、どんな建前も透過して、本質を暴き出してしまう。

このシェアハウスで一番敵に回してはいけないのは、間違いなくこのおっとりとした次女だった。

「……いただきます」

「……押忍」

男たちは、甘くて少しほろ苦いケーキを、行儀よく無言で平らげた。

(第4話 完)

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