第3話:ボクらは三人で一人前?
「……静かだ。静かすぎる。これは宇宙の終焉の前触れか?」
シェアハウス「コスモ荘」のリビングで、スバルは膝を抱えてガタガタと震えていた。
時刻は午後2時。サンは仕事、ルナは爆睡中。そして、いつも一緒にいるはずの妹・ヒカリはバイト、弟・ホクトはコワーキングスペースへ出かけてしまった。
スバルは、青みがかった黒髪をキラキラと光らせながら、リビングのソファでのたうち回る。
「あああ! 無理! 誰かいないと僕の重力が崩壊する!」
彼は「スバル(昴)」――星の三兄弟の長男だ。普段は明るく「みんなでやろうぜ!」と騒いでいる彼だが、その実、極度の寂しがり屋である。元来、星というものは群れて輝くもの。一人きりの時間は、彼にとって宇宙の暗黒に放り出されたも同然だった。
「よし、こうなったら……『身代わり・三兄弟』だ!」
スバルは立ち上がり、家中からあるものを集めてきた。
それは、リビングの大きなクッション、ルナが干していた真っ白なシーツ、そしてサンが脱ぎ捨てたオレンジ色のパーカー。
それらを椅子の上に器用に積み上げ、即席の「兄弟」を作り上げた。
「よし。君がヒカリ、君がホクトだ。さあ、みんなで楽しくトランプをしようじゃないか!」
スバルは一人で三役をこなし、カードを配る。
「おっとヒカリ、そのカードは読めてるよ!」「ホクト、君は今日もクールだね(パーカーに向かって)」
そこへ、忘れ物を取りにホクトが帰宅した。
リビングの惨状と、オレンジ色のパーカーに向かって「よっしゃー! 僕の勝ちだ!」と叫んでいる兄の姿を見て、ホクトは真顔でスマホを取り出した。
「……もしもし、精神科……ではなく、宇宙管理局ですか? うちの恒星がバグりました」
「待て待てホクト! 通報しないで! 僕はただ、寂しさをチームワークで埋めようとしていただけなんだ!」
スバルは必死にホクトに縋り付いた。
「いいかいホクト、僕たちは三人で一組なんだ。誰か一人が欠けている今の状態は、三脚の足が一本足りないようなものなんだよ!」
「非効率な例えですね。僕とヒカリ姉さんがいれば、計算上は十分安定しています」
ホクトは冷たく言い放つが、震える兄の袖を掴む力が意外に強いことに気づき、小さく溜息をついた。
「……まあ、いいですよ。僕も今日は在宅ワークに切り替えます。その代わり、僕の分のコーヒーを淹れてください。三回分。僕と、ヒカリ姉さんと、あなたの分です」
「ホクトぉ! お前、やっぱり最高の弟だよ!」
スバルが感極まってホクトに抱きつこうとすると、「暑苦しい、離れてください」と、サンのような拒絶を食らった。
夕方、ヒカリがバイトから帰宅し、サンが仕事から戻ってくると、コスモ荘はいつもの騒がしさを取り戻した。
夕飯のテーブルを囲み、賑やかな声が次元の狭間に響き渡る。
スバルはそれを見て、満足げに微笑んだ。
「やっぱり、みんなでいなきゃ『星』じゃないよね!」
「スバルにい、さっきまでシーツと喋ってたってホクトにいから聞いたけど? ふふ、本当に寂しがり屋の……『単細胞』なんだから」
ヒカリの天然ブラックな毒舌が飛んでくるが、スバルはそれすらも嬉しそうに「よっしゃー!」と受け流した。
不器用な長男は、一人では輝けない。
けれど、愛する兄弟たちの光を反射して、今日もお祭り騒ぎを続けている。
(第3話 完)




