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会議の失敗は始まる前から決まっていた。理由は単純だ。全員、違う問題と向き合っている。
信仰を守りたいもの。
秩序を保ちたいもの。
生活を救いたいもの。
責任を押し付けたいもの。
そのような状況で一つの結論が出る訳がない。
更に問題なのが、国王自身が責任を取るつもりがない事だ。うまいこと行く訳がないー。
石の回廊は灰色に冷えていた。先ほどの議論の熱が嘘であるかのように、音がない。
「会議はどうだったの?」
背後から軽い声が飛んできた。振り返ると、壁に寄りかかり腕を組んでいる勝気な女性がいた。青い髪に白い虹彩。このような場では絶対に見られないであろうボロボロの服。
「ほんとに困ってたのよね。ここからじゃ、扉が分厚すぎて中の声は全然聞こえてこないし、国民派に聞いても皆神妙な顔して答えてくれなかったのよね」
会議は進まず、されど踊る。議論は失敗したが、責任の移譲には成功した。皮肉な事に、会議としては進捗がある。会議は進み、私は道化を演じる。
私は歩みを止めなかった。
「何も決まっていない。ただ、責任の所在が行き着いただけだ」
彼女は私が答えると思っていなかったのだろう。少し驚いた後、興味を持ったのか弾むように私についてきた。議会にいるものにはできない足音だ。
「何々、誰に行き着いたの?国王が解決策を見つけたとか?」
「違う、私だ。私が全てを引き受けた」
「わーお」
関心とも呆れともつかない微妙な声だった。
その反応で正しい。賞賛も非難も、特に必要ではない。
「ねぇ、ねぇ、ねぇ。じゃ、聞いて良い?」
「簡潔になら」
質問の際には条件をつける。無駄な説明は時間を費やす。
「責任を引き受けたってことは失敗したら、お嬢さんが悪者になるって事?」
私は苦笑した。
「そうなるな」
「もしかして…処刑とか!?」
「可能性はある」
彼女は一瞬だけ歩調を早めると、私の前に踊りでた。
「へぇ、それで?」
「それで、とは?」
「それで、どうするの?」
「調査する」
「うん」
「構造を把握する」
「うんうん」
「解決策を見つけ出す」
言葉にすればいつも通りだ。ただ今回は重みが違う。
彼女は振り返り立ち止まると、私の目を見つめてきた。
「それってさ…皆が助かる話?」
「結果としては」
「結果としては、ね」
軽い声。責めるような響きは含まれていない。
「まぁ、いいか。賢い人は皆んなそうだし」
「不満があるなら言え」
「あるよ、山ほど」
彼女は即答した。回廊の窓から夕焼けが覗いていた。夕焼けに染まる廊下。夕方の色。目覚めた時の青さとは異なる色。そして、その夕焼けは彼女と重なった。白い虹彩は夕焼けに染まった。
「私ね。少しだけ魔法が使えるんだ。回復魔法だったり、火だって起こせたり」
そう言うと彼女は手のひらに赤い小さな炎を出現させた。少しだけと言った割には安定している赤。血を思わせる嫌いな色。
「それでね、私裏路地で怪我してる子の治療してあげてるんだけどね。昨日、小さな男の子が腹部に怪我を負ったの。貴族にぶつかって、腹いせに切り裂かれてね。それはひどい怪我。
だけど、私なら魔法で治せる怪我。小さな男の子を落ち着かせて回復魔法を使おうとしても使えなかった。何度も、何度も。そしてその子は死んじゃった」
「それは」
「だけど大丈夫、多分皆、悪くないと思うんだ。悪いのは私だけ。魔法が使えなかった私」
その言い方が、先ほどの議会では感じられなかったほどの重みを感じた。重み。逃れられない重み。黒。私を見つめる黒い瞳。
「死ぬのってどうなんだろうね。怖くないものなのかな。あなたはどう?ねぇ、死ぬのって怖い?」
「怖いという感情自体は持ち得ている」
私は駅のホームで足を踏み外した時は恐怖を感じなかった。だが、それは伝えない。
「へぇ、あるんだ」
「ない方がおかしい」
彼女は小さく笑った。
「で、何を調べるの?」
「教会、均衡保全院」
「あー…」
今度ははっきりと嫌そうな声だった。
「じゃあ、行くなら裏からね」
「裏?」
「正面は、見せたいものしか見せてくれないから」
私は一瞬考えた。
「君は、あそこに詳しいのか」
「詳しいってほどじゃない」
彼女は肩をすくめる。
「ただ、消える人がどこから消えるかは、知ってる」
「案内を頼めるか?」
「報酬は?」
「国民の命」
「十分」
私たちはお互いににも喋らず少しばかり歩いた。私の歩くリズムは一定に。彼女は不規則に。
「そういえば、名乗ってなかったね。私はカタリナ。マンテラーテ区の裏路地にすんでる。で、全責任を引き受けたお嬢さんは?」
「ハイパティアだ。宰相を任されている」
彼女は口に手を当てて、驚いたかのように声を出した。
「宰相?無茶苦茶偉いじゃん!嘘…私、生意気すぎる…処刑?」
「ふふ、どうだろうな」




