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8.週刊誌にスクープされた?

 土曜の朝を迎えた。

『百瀬マリナ攻略』の糸口が掴めずに迎えた週末。私は沈んだ気持ちのまま病院の再診の為に身支度を整えていた。


(ふう……)


 自然とため息も出る。前世では最強魔導士クロード・マジシャスとして数々の功績を上げてきた私だが、こと女性を口説くとなると思春期の男子以下の能力しかない。マリ一筋に生きてきた私。他の女性に近付くことなど考えもしたことがないのだ。


「お兄ちゃん、いってらっしゃいー!!」

「玄人、気を付けてね」


 私は玄関で見送ってくれた義母と妹の真凛に手を挙げて応え、ドアを開けて外に出る。



(え?)


 私は固まった。ドアを閉め、表の通りに出た私をいきなり数名の見知らぬ大人たちが取り囲んだ。



(敵襲!?)


 私は身構えた。前世で幾度も経験した奇襲。愛用の『大魔導士の杖』はないが、下級攻撃魔法なら無詠唱で発動できる。右手を突き出し、魔法を放とうとした私に彼らは何かの小型機械を手に言った。



「田中玄人さんですね!? お話を聞かせてください!!」

「週刊文鳥の記者です! 藤堂ライカさんとはどういったご関係でしょうか!!」


(ん?)


 私は戸惑った。敵、ではなさそうだ。何やらライカのことを聞きたがっている。私は何が起きている事が分からず呆然と立ち尽くす。



 キキーーーーッ!!


 そこへ一台の真っ赤な外国産スポーツカーが現れる。



「先生っ!! 乗ってください!!」


 窓を開け顔を出したのは、まさにその藤堂ライカ。真っ黒な髪に、それと同じぐらい黒いサングラスをしている。記者が言う。


「あっ、藤堂先生!!」


「早く!!!」


 私はライカに言われるままにその車に乗り込む。私を乗せた車は大きなエンジン音を上げその場を抜け出した。



「ごめんなさい。先生。びっくりされたでしょう」


 街道を軽快に走る車の中。ライカが缶コーヒーを手渡しながら私に言う。


「ありがとう。それより、どういうことなんだ?」


「これを、ご覧ください」


 ライカはそう言うと手にしていた一冊の週刊誌を私に手渡した。



「あっ」


 そこに載っていたのは先日、私と彼女が一緒にカフェに入って座っている写真。盗撮なのだろうか。いつ撮られたのか覚えがない。目にボカシは入っているが間違いなく私だ。ライカが申し訳なさそうに言う。


「ごめんなさい、先生。私のせいなんです」


「つまりそれは……」


 ライカが事情を話した。

 この世界では、有名人のスキャンダルや色恋沙汰を面白おかしく伝える週刊誌やテレビ局と言う報道機関がある。今回の彼らもそれにあたるとのこと。若くして突如出現した美人科学者『藤堂ライカ』。彼女には謎も多く、もちろん異性関係は皆の興味の的。そこへ現れたのが謎のイケメン高校生。当然彼らの格好の餌食となった訳だ。


「なるほどね……」


 前世でも国家公認の広報機関はあったが、民間でそのような娯楽に似た仕事があることにやや驚きを感じた。確かに週刊誌の紙面には『藤堂ライカ、年下恋人現れる!!』とデカデカと恥ずかしい言葉が踊っている。これは誤情報だ。私はマリ以外の女性に興味はない。



「ご迷惑ですよね……?」


 運転しながらそう尋ねるライカに私が答える。


「当然だ。君の優秀さは知っている。だがそれとこれとは別の話。私はマリ以外興味はない」


「はい、存じております」


 車の爆音。前を向いたままの私は、彼女がどんな表情で答えたかなど分かりもしない。缶コーヒーを口にしてから言う。



「それより私は敵襲かと思って、危うく焼き払うところだったよ」


「え? 敵襲ですか??」


 やや驚いた表情でライカが尋ねる。


「ああ。この世に潜む魔物かと思ってね。不安定だが魔法で対処するところだった」


「魔物? 魔法?? 先生、魔法が使えるのですか??」


 ライカの質問に私が頷いて答える。


「ああ。ややコントロールに難があるが検証済みだ」


「ほ、本当ですか!? すごい!! さすが先生です」


 彼女は心底驚いているようだ。確かにこの世界で魔法はまだ一般的ではない。魔物も平常目にすることはない。ライカが言う。


「でも、そのお力はあまり人前では使わない方がよいかと思います。この世界は科学技術の世界。魔法を使える者など聞いたことはありません」


「そうだね」


 それには賛同する。魔法使いなどと分かれば拘束され、研究の対象にされるだろう。極力皆の前での使用は控えるべきだ。ライカが尋ねる。



「先生、それで今日はどちらかお出かけでしたか?」


「ああ、病院の再診でね」


「じゃあ、このまま送ります」


「そうか? それは助かる」


 告げた病名。それはライカも仕事関係で何度も訪れたことのある病院。そう言えば彼女はノーバル医学賞も受賞していたはず。本当に天才だ。




「ありがとう。助かるよ」


「いえ、先生と同じ空間の空気を吸えただけで私は幸せです」


 何だか気持ち悪い言葉だが、私は黙って笑顔で車を降りた。



「あ、ライカ。そう言えば……」


 ドアを閉めようと振り返った私の目に、私が座っていたシートに顔をこすりつける藤堂ライカの姿が映る。


「……何をしている?」


 慌てて顔を上げたライカが答える。


「い、いえ。別に先生のお尻のぬくもりを感じようとしていたわけでは別に……」


 私はいつの間にか飲みかけだった缶コーヒーが彼女の手にあることに気付き、それを奪い返しながら言う。


「ありがとう。じゃあ、また」


 私はそう伝えると車のドアを閉め、缶コーヒーの残りを一気飲みして病院へと向かった。




(とてもいい奴なんだが、どうも変態さが増している気がする……)


 前世では婚約者のマリに気を遣っていたのか、あれほど露骨に変態行為に走ることはなかった。


(そういう意味でも早くマリを見つけないとな)


 私は空き缶をごみ箱に捨て、病院のエントランスへと向かう。



「あっ」


 そこで出会ってしまった。赤髪に赤い瞳。それ以外がマリにそっくりな最初の目標ターゲット、百瀬マリナ。



「田中……」


 たくさんの人が行き交う病院入り口。突然の出会いに彼女も驚いているようだ。私は意を決して話しかける。


「マリナ。君と話をしたい。少し時間をくれないか」


 彼女は赤い髪と同じぐらい顔を赤く染め、首を振りながら答える。


「い、いや。そんなの無理!!!」


「おいっ!!」


 マリナが突然駆け出す。私も自然とそれを追いかける。逃がさない。いつまでも逃げられては『マリ』に近付けない。



「マリナ!!」


 私の声を聞きながらも駆け続けるマリナ。そして病院に隣接する大きな公園の隅に着くと、彼女は急に走るのをやめた。



「はあはあ、はあ……」


 辛そうだ。私も走るのは得意じゃないが、それでも今のマリナなら容易く追いつける。観念したのか、彼女はもう逃げようとしない。私はゆっくり近づき、そして声を掛ける。


「マリナ、話を聞いて欲しい」


 理解している。彼女はツンデレ族。私はオタク族。特別な理由なしに接触するのは迷惑になるだろう。だが私にはあるのだ。その特別な理由が。



「私のことをよく思っていないことは分かっている。でも教えて欲しい」


「え? そ、そんなことは……」


 やや驚いた顔をするマリナ。そして私が尋ねる。



「病気なのか? 私は君が心配だ」


 その言葉にはっとした表情となるマリナ。俯き、しばらく考えてから彼女が答える。




「病気……、難病なの」


「難病……」


 私の心臓の鼓動が急激に速くなる。マリナが顔を上げて言う。



「突発性細胞死滅症候群。私、いつ死んでもおかしくないんだ……」


 私は目の前が真っ暗になった。

 前世で救えなかった『マリ』。ここでもまた私は彼女を失うのか。

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