表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

52.心からの愛を込めて

 大学病院の先生方には心から感謝している。

 薬物を飲まされ危篤状態だったマリを、適切な処置を施し一命を救ってくれた。一週間たった今も目を覚ますことはないが、私にとって『マリが生きている』と言う事実だけでも有り難い。

 無論、愛しのマリをこのような状態にした竜ヶ崎相馬という男は決して許さない。今は警察に拘束されているそうだが、いずれマリが回復したら最強魔導士であるこの私の手で制裁してやろうと思う。



(だが、今はそんなことよりもマリだ……)


 私は彼女の母親が久しぶりに家に帰るのを見送った後、二人きりになった部屋でマリを見つめていた。


「まさか藤堂ライカがマリだったとはな……」


 なぜマリがライカを名乗っていたのか。なぜ打ち明けてくれなかったのか。その理由は未だ分からない。すべては目の前で眠るマリの中にある。



「マリ……」


 私はベッドで横たわるマリの手を握る。

 温かい。今こうして彼女を感じられるのは幸せだ。眼鏡を外したその顔も良く見ればマリの面影もある。そして髪。美しかった黒髪だが、生え際が金色になっている。


(染めていたのか……)


 マリであることを隠すために、『藤堂ライカ』を演じていた彼女。そこまでして私の前から姿を消す理由は何だったのか。いや、姿は消してはいない。彼女自身から【私を見つけてね】と言うメッセージを貰っていた。それはつまり謎解き。彼女から送られた挑戦状。それを見つけた先に何がある? 今、こうしてマリを目の前にして、私に何が起こっている?



「変わらない。何も変わらないよ……」


 私のマリに対する愛は、前世より全く変わっていない。いや、寧ろ会えなくなった時間だけ深くなっている感もある。君がどんな姿になろうとも私の愛は永遠に消えることはない。



「マリ……、すまない……」


 同じ世界にいながら守ってあげることができなかった。最強魔導士などと称えられたこの私だが、顔も知らぬ他者は救えるのに、自分の最も大切な人をまた守ることができなかった。この世界、いや、私は生まれてからなんと不甲斐ない人生を送って来たのだろう。


「碌な回復魔法がない……」


 勇者パーティでは攻撃担当だった。故に回復系魔法は大僧侶に任せ、私はいつも魔物に対峙していた。それがこの結果。横たわる最愛の人を前に何もできず、ただこうして手を握っているだけ。


「不甲斐ない、本当に……」


 私の目から涙がぼろぼろと流れ落ちる。マリを前に何もできない自分が本当に情けない。



 ――先生は意外とヘタレなんですね


 少し前に『藤堂ライカ』に言われた言葉が思い出される。

 そう、私はヘタレだ。愛する者を救うこともできないヘタレ。ただただ涙を流し後悔する愚か者。



「……いや、違う」


 私は握っていたマリの手に力を入れる。


「私は最強魔導士。君の前では弱音を吐かない最高の男。馬鹿だ。本当に愚か者だ。やっと会えたのに、私はどこかで君を諦めようとしている……」


 私はすっと立ち上がり、涙を拭いてから目を閉じ言う。



「私が治してやる。使ったこともない回復系最高魔法『完全状態回復(パーフェクトキュア)で……』


 完全状態回復パーフェクトキュア。それは大僧侶ですら一度使うとMPの半分以上持っていかれると言う究極の状態回復魔法。僧侶の中でも傑出した才能の持ち主や、長い鍛錬を積んだ者だけが身につけるとされる最高位魔法のひとつ。もちろんその効果は絶大で、未知の異常状態や瀕死の状態すらも回復させる効果がある。



(私は使ったことはない。詠唱すら分からない……)


 攻撃担当だった魔導士の私にとって、この最高位の回復魔法はまさに未知の世界。

 ただこの科学医療技術の進んだこの世界で、マリにできる治療はすべて行った。それでも目覚めない。主治医の話では意識を戻す確率は半々とのこと。つまり永遠に戻らない可能性すらある。


「やってやる。この私がお前を目覚めさせる!!」


 不慣れな魔法は危険を伴う。

 特に魔法が上位になればなるほど、詠唱者の体にかかる負担は大きくなる。ましてそれがほとんど経験のない魔法となればなおさら。最悪発動に失敗して命の危険すらある。

 だがやる。やらないと言う選択肢は私にはない。少しでも可能性があるのならば私は全力を尽くす。



「ふうーーーっ」


 大きく息を吸い、そして吐き出す。集中。魔力を高めていく。魔法が不安定なこの世界。暴走の恐れもある。そうなれば私と、そしてマリの命も無事ではいられない。

 震える体。流れる汗。私は未知の領域に足を踏み入れたことに心の震えを感じる。



「この世に漂えし、すべての魔力よ……」


 静かに、そして力強く私の詠唱が始まる。


「今、この私『クロード・マジシャス』の下に集まり、そしてその力を開放せよ……」


 感じる。熱く、大海に波打つような強い魔力を。


「世界の理に準じて、我『クロード・マジシャス』が命ずる!!」


 私は目を開き、ベッドの上で横たわるマリにそっと両手を乗せる。



完全状態回復パーフェクトキュア……」



 静かだった。最高位の魔法にしては、その発動は想像以上に静かだった。


「ううっ……」


 両手が熱く火照る。同時に起こる体への反動。私は思わず眩暈を起こし跪く。



(効いたのか? 成功したのか……?)


 攻撃魔法と違い、目に見える効果はない。マリは静かに、目を閉じたまま。



「くっ……」


 私の体の内部が燃えるように熱くなる。慣れない魔法への反動。体が強い拒否反応を起こしている。



「マリ……」


 私は再びマリの手を握る。温かい手。だがまだ微動たりしない。

 失敗か。やはり回復系魔法が苦手な私。弱気な思いが私を包み込んだその時、奇跡が起きた。



「あっ……」


 動いた。

 私が握っていたマリの手が、微かに動いた。


「マリ!! マリっ!!!!」


 私は無意識に彼女の名前を叫ぶ。美しい顔。閉じたままの瞳。そして私の呼びかけに反応するように、その瞳が開かれた。



「クロード……」


「マリ!! マリ!!!!」


 私は無我夢中でマリを抱きしめた。温かい。確かに生命の温かさを感じる。



「会いたかった。本当に、会いたかった……」


 ベッドで横になるマリに抱き着いたまま号泣する私。その頭を撫でながらマリが言う。



「助けて、くれたのね……」


 上半身を起こしてマリが微笑む。


「ああ。今度は、今度こそはやっと……」


 マリが両手を私の顔に添えて言う。



「見つけるのが遅い。もっと早く見つけなきゃダメでしょ」


「すまない、すまない。ううっ……」


 私はマリの顔が直視できないほど涙に溢れていた。魔法を使った反動も忘れ、ひたすら愛しき人を前にむせび泣く。そんな私をマリは優しく抱きしめ、そして言う。



「会いたかった、クロード。私も本当に会いたかった……」


「ああ、私もだよ……」


 マリの抱擁に私も強く抱擁で返す。長き私の願い。ようやくここに成就した。



「体は大丈夫なのか?」


 私は真っ先に彼女の体の具合について聞いた。


「ええ、大丈夫。ちょっとだけだるいけど、問題なさそうだわ」


「そうか、それは良かった……」


 心からそう思う。私は安堵に包まれた。そしてどうしても聞いてみたかった質問を彼女に尋ねる。



「聞いてもいいか?」


「なにかしら?」


「どうしてマリであることを黙っていたんだ? なぜ名乗り出てくれなかったのだ?」


 これはずっと私が抱いていた一番の疑問。どうしても聞いてみたい。マリは少し苦笑してからその問いに答えた。



「私ね、実はちょっと変だったの」


「変?」


 私の言葉にマリが頷いて言う。


「そう。変と言うか、変態と言う方がいいかな」


「変態……」


「あなたには黙っていたんだけど、前世で一緒になる前から私ってかなり変態で、それを隠して生活していたの」


 そうだったのか。私は初めて知る事実にやや戸惑う。


「本当は打ち明けたかったんだけど、病気が判明しちゃってね。あなたに嫌われるかと思って、そのまま言わずにおくことにしたの」


「そんなことで私は……」


「ううん。それでよかったの。あなたの『理想のマリ』のまま死ぬことができて。でも驚いたわ。気付いたら記憶はそのままで、見知らぬ世界に居たんだから」


 転生の禁術。そう、マリにその禁術をかけることは言っていなかった。


「でもすぐに分かったわ。きっとあなたがここに連れて来てくれたって。でも、あなたが居なくて戸惑っちゃって。だから準備した。いつかあなたに会えるように私もこっちで一生懸命頑張るって」


 それがこちらの世界でノーバル賞科学者まで上り詰めた『藤堂ライカ』と言う訳か。元々頭の良かったマリ。前世の知識を応用すれば無理なことではないだろう。



「確かに転生のことは話していなかった。申し訳ない。ただ私は君がどんな人間であろうとずっと愛するつもりでいる」


「うん、それは分かっていた。でも、私って本当に変態で……、だからあなたが私を見つけてくれるまで待っていたの。素を曝け出し、そしてこんな私でもまた愛してくれるのかなって。……ごめんね。でもあなたも本当はドン引きだったでしょ? 藤堂ライカに対しては?」


(うっ……)


 それについてはきちんと否定できないのも事実だ。ライカの変態さには身の危険を感じていたほどだ。


「だ、大丈夫だ。私は君がどれだけ変態でも愛す自信はある」


「本当?」


「本当だ。それに、私もこと君については変態だと思っている」


 マリは手を口に当てくすくすと笑いだす。


「うふふっ、そうね。こんな変態な私を一途に想ってくれるなんて、あなたも立派な変態よね」


 私はなぜか恥ずかしくなって小さな声でそれに答える。


「無論だ。君のことに関しては私はすべて知っている」


「やだ、本当に変態っぽい!」


 私はマリの頬に手を当て、優しくささやく。



「例えば初めて君とキスをした時はこんな感じだったよ」


 そう言って私はマリの唇に私の唇を重ねる。


「ううん……」


 柔らかい。これはマリの唇。間違いなく私の愛するマリとのキス。


「……ちょっと違うな~」


 キスを終えた後、マリが少し笑みを浮かべて言う。



「あなたとの初めてのキスは、もう3秒ほど長かったわ。不合格。その程度じゃ全然……、うっ!?」



(愛してる)



 私は目を閉じ、再びマリと唇を重ねる。先ほどよりもう少しだけ、ほんの少しだけ長めの口づけを。


 心からの愛を込めて。

これにて完結となります。

最後までお読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ