表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/52

49.悲痛な再会

 分かってしまえば思い当たる節は幾つもあった。



【おはよ~、クロード。マリだよ、元気~??】


【花火大会があるみたいです。こんな時になんですけど、私もまた先生と行きたいなぁとか思っちゃ……】


【先生に教えて貰ったクロミジルの配合についてなんですが、どうやっても上手くいかなくて……】


【今履いている下着の色ですか? ピンクですよ】


【もしかしたら先生の知っているマリさんとは違っているのかもしれませんね】



 藤堂ライカが『マリ』だったからこそ、今その言動にすべて合点がいく。

 なぜ気付かなかった。なぜ見つけてやれなかった。候補者達があまりにもマリに似ていたから? そんなものいい訳だ。そもそも頭が良いライカだが、魔法の腕は平均以下。彼女が転生などと言う禁術を使えるはずがない。気付かなかったのは私が不甲斐ないだけ。


「あ、お兄ちゃん! 何してるの!? 学校は……」


 登校時間になっても現れない私を心配した真凛が部屋にやって来る。


「すまない、真凛。今日、私は学校を休む。じゃあ」


「え? あっ、お兄ちゃん!?」


 驚く真凛をよそに、私は家を出ると真っすぐと彼女の働く研究へと向かった。早く会いたい。早く話をしたい。謝りたい。そして聞き出したい、なぜこんなことをしたのか? 私の足は自然と早足になっていた。






「ここのカフェ、実は結構気に入っていましてね。最後に藤堂先生とご一緒できるなんて嬉しい限りですよ」


 金色の髪に手をやりながらライカを誘った竜ヶ崎相馬は、そう嬉しそうに言った。地方への転所が決まり、最後にライカとの時間を持ちたい。そんな願いを彼女は受け入れた。


「私も好きですよ、この場所」


 ライカが椅子に腰かける。屋内だがオープンテラスを模したカフェ。天井の窓からは太陽の光が差し込み、プランターに入った植物や花が生き生きと咲いている。重圧と極度の集中力を求められる研究職。このカフェはそんな人達にとって正に憩いの場であった。



「何にしますか?」


「そうね、やっぱりブラック……」


 そう答えるライカに相馬がカフェの看板を見て言う。


「あ、なんか新作出ているみたいですよ。飲んでみましょうか?」


「え? ああ、そうね……」


 正直何でも良かった。最後のコーヒーに付き合う。その目的が達成されればライカにとって飲み物など大した問題ではなかった。


「では、ここで待っていてください。買ってきますから」


「ええ、ありがとう」


 ライカはそう言うとコーヒーを買いに向かった相馬の背中を見つめた。




「あんまり聞かない国の豆のようです。美味しいのかな? さあ、どうぞ」


 コーヒーを買って来た相馬がやや苦笑しながらライカの分をテーブルに置く。


「ありがとう。頂くわ」


 ライカがコーヒーを手にする。それを見ながら相馬が言う。



「研究って中々手に入らない宝物を探す仕事みたいですね」


「そうね」


 そう答えながらライカがコーヒーを口にする。苦い。ブラックなので苦いのは当たり前だが、いつも飲んでいる味と異なるのは新作のせいだろうか。


「だけど私はその宝をもう見つけたんですよ」


「そうなの? それは素敵なことね」


 ライカが同意する。


「でしょ? それなのに周りは私からそれを奪おうとするんですよ……」


 ライカが相馬の言動に違和感を覚え始める。


「酷いと思いません? 私をどこかに追いやったり、大切なものを奪ったり。違いませんか、藤堂先生?」



(あれ……? なんだか胸の辺りが変……)


 ライカは急に苦しくなってきた体の異常に気付き深く呼吸を始める。相馬が言う。



「私が大切なのはね、藤堂先生。あなただけなんですよ」



(ダメ、苦しい……、息ができない……)


 ライカは急に陥った呼吸困難に顔が真っ青になる。全身からの発汗。震え。目の前の金髪の男の輪郭がぼやけて来る。



「コーヒーに……、何か、入れた、の……?」


 意識朦朧の中、そう尋ねるライカに相馬が嬉しそうな顔で答える。


「えーっと、色々とね。無味無臭の薬剤を幾つか混ぜて入れました。美味しかったでしょうか?」


「なぜ……、こんな、ことを……」


 苦しそうにそう尋ねるライカに相馬が引きつった顔で言う。



「皆が私からあなたを奪おうとした。でもそんなことはできないんですよ。なぜって? だってあなたは永遠に私の心の中だけで生き続けるんですから!!」


 不覚だった。最も警戒しなければならない相手に一瞬であったが気を許した。ライカはなくなりつつある意識の中でその男の顔を思い浮かべ口にする。



「助け、て……。クロード、お願、ぃ……」


 ライカの体が床に崩れるように落ちる。カフェに居たほかの人達がその異変に気付き振り返る。相馬は立ち上がって空を仰ぎ、大声で笑い始めた。



「あーはははははっ!! 私は、私はついに手に入れたぞぉおお!!」


 奇声、奇行。狂ったように笑い続ける相馬を、周りは唖然として見つめ続けた。






(遠い。あの研究所がこれほど遠く感じるとは……)


 これまで数回訪れたライカの勤める国立科学研究所。いつもは彼女の車で飛ばして連れて行ってもらったが、今回は初めて公共交通機関での移動だ。私は朝の通勤ラッシュに揉まれながら中々辿り着かない目的地を思う。


(しかし、なぜ電話に出ないのだ……)


 これまでは1分で駆け付けていたライカ。それが電話にすら出ないとは? ほんの少しだが嫌な予感もする。ただそんな気持ちとは別に早く会いたい、会って色々話がしたいと言う期待感の方がずっと強かった。


(色々言いたいことはあるが、まずは会って抱きしめよう。私の変わらぬ想いを彼女に伝えよう)


 とは言え相手はあの『藤堂ライカ』。中身がマリだと分かっていても、どれだけ私が対応できるのか。そんなことを考えながらようやくその研究所にたどり着いた。


 だが様子がおかしかった。

 守衛に一礼して建屋内へと入る。幸い『藤堂ライカ』の研究仲間として私はすでに顔パスの待遇だ。しかし建屋内、特に途中にあるカフェに多くの人が集まっている。


「どうしたんですか?」


 私は周りの人に尋ねると、その若い研究者は青ざめた顔で答えた。



「藤堂先生が毒を飲まされたみたいで……」


(!!)


 私は無意識の中、その皆の視線が向く先へと駆け出す。



「あーはははははっ!!」


 その視線の先、倒れた黒髪のライカの前で狂ったように笑う金髪の男を見て、私は全身鳥肌が立った。


(何が起こった!? 何が起こった!!!!!)


 周りの人達が発狂した竜ヶ崎相馬に恐れをなす中、私は真っすぐ倒れた藤堂ライカに駆け寄り声を掛ける。



「マリ!! おい、マリ!! しっかりしろ!!!」


 彼女の顔は青ざめ、口から泡を吹き意識はない。私はギッと相馬を睨みつけ、立ち上がってその襟首を掴んで問い正す。


「何をした!! マリに、一体何をした!!!!」


 相馬は半開きの口に意味不明な笑いを浮かべながら答える。



「ぁああ、お前は、あの高校生……、ひゃひゃひゃっ、藤堂先生は、永遠に私のものになったんだよ……」


 話にならない。だが私はテーブルの上で倒れたコーヒーカップを見て理解した。


(外傷なし。飲みかけのコーヒー。マリの症状。やはり毒か!!)


「何を飲ませた!! 言え!!!!」


「ふひゃひゃひゃっ……、分からないよ~、覚えていな……」


 ドフ!!!!


 私は無意識に相馬を殴りつけていた。そして周りに向かって叫んだ



「救急車を!! 早く救急車を!!!!」


 私の叫び声にようやく周りの人達が動き始める。殴られ床に倒れながら狂ったように笑う相馬が、駆けつけた警備員に押さえつけられる。意識のないライカはサイレンと共にやって来た救急車によって病院へと運ばれた。

 私は救急車の中で横になるライカの手を必死に握りながら内心思う。



(どうして、どうしてこんなことに……)


 幸い息はしている。手も温かい。だが溢れる涙を堪えることはできなかった。



「私は……、私はまた君を失うのか……」


 私は強く手を握り、人目を憚らずぼろぼろと涙を流した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ