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38.パンツ争奪戦!?

「私も、先輩のことが好きなんです……」


 湖畔のペンション。そこにある露天風呂。体の疲れを癒していた私に、黒髪の美少女早乙女万里子がバスタオル一枚の姿でやって来て、告白をした。


「万里子……」


 お湯に深く浸かり、背を向け私がその名を小さく口にする。



「この間、先輩に告白されて、私……、そのずっと考えていて、やっぱり私も先輩のこと想っているのがちゃんと分って、だから先輩の気持ちに……、ううん、自分の気持ちに素直になろうと思ったんです……」


 万里子の言葉を聞きながら思う。



(私が告白した!? 何の告白だ? 全く覚えがないんだが……)


 考える。万里子とのこれまでのやり取り。告白、愛の告白? だがどれだけ考えようがやはりそんな覚えはない。


「お母さんにも相談して、お母さんも藤堂先生に認められるような人だったら大歓迎だって言ってくれて。想いに応えて来いって応援してくれて、だから私も勇気を出して、その……」


 いや、だからっていきなり単騎、()()で男の風呂に入って来るのはおかしいだろ。一体どんな勇気だ。



「先輩、私も一緒に入っていいですか……?」


(!!)


 まずい。何か彼女は勘違いをしているようだが、それでもあの可愛らしく、隠れ巨乳の万里子と全裸で一緒に風呂に入ったら、さすがの私でもどこまで理性を抑えられるか分からない。もし彼女が『マリ』ならば、いきなり私の願いはかなったことになるのだが、それはまだ未定。だとすれば……



「万里子、ひとつ聞いてもいいか?」


「え? あ、はい……」


 小さな声。その声が震えているのに気づく。



「『クロード・マジシャス』、この名を聞いて何か感じることはあるか?」


「クロード・マジシャス……?」


 少しばかりの沈黙。続けて尋ねる。


「この湖畔のペンションに来て、何か思うことはあるか?」


「ええっと……」


 再び沈黙。それが彼女の答えであろう。



「私は君達五人の中に『運命の人』がいると思っている。万里子、もちろん君もそのひとりだ。ただ、まだそれが誰なのか私にも分からない」


「先輩……」


 更に小さくなる万里子の声。私が続ける。


「勝手なことを言って申し訳なく思っている。だがもし君が本当に私が探している人ならば、その時改めて君に告白させてほしい。『愛してる』と」


 万里子の頭は混乱していた。自分が玄人の『運命の人』ではなかったのか。だから告白されたのではないのか。クロード・マジシャス? 聞いたことがない。何かの設定? まさか私の勘違い? だが同時に思う。



(だったら私が『運命の人』になればいい。先輩を振り向かせればいいだけ!!)


 決意は決まった。一緒の部活で同じ時間を過ごしてきた相手。表に出さないよう必死に隠してきた気持ち。だがもう限界。開かれてしまった心のドア。万里子が言う。



「私は先輩が好きです。だから私が『運命の人』になります! だから、だから……」


 万里子が頭を下げて大きな声で言う。



「よろしくお願いします!!」



「万里子……」


 私が小さく答える。



「あ、ご入浴中、失礼しました! で、では……」


 そう言ってドアが閉まる音と共に彼女はその場から消えて行った。




(万里子……)


 私はどこまでも健気な彼女を思い、涙が出そうになった。彼女が『マリ』なのか。いや、もう彼女でいいんじゃないのか。私の心がそうささやく。



 ――私を、見つけてね。



 明確に私を意識した言葉。『マリ』はいる。必ず近くにいる。だが今の万里子とその線は交差しない。私はお湯に浸かりながら、空を見上げ小さく言う。



「マリ、一体どこにいるんだよ……」


 ほとんど経験のない告白劇。私は再びお湯に深く顔を沈め、自分の無力さを嘆いた。






「たっだいま~!!」


 それから少しして買い物に出かけたライカ達が帰って来た。


「おかえりなさい、みなさん」


 私と一緒にペンションの玄関で彼女らを迎える万里子。先ほどの露天風呂から一度も顔を合わせていない。緊張する私。そんな私の隣に万里子が立ち、少し見上げてにこっと笑う。その笑みの意味が何なのか、何を表しているのか私には分からなかった。



「玄人に襲われへんかった?? 万里子ちゃん」


 金色の髪を揺らしながら近寄って来た小鞠が興味深そうな顔で尋ねる。一瞬ドキッとする私。ある意味危なかったとはまさか言えない。


「大丈夫ですよ。先輩は紳士でした」


(紳士?)


 どういう意味だろうか。皆が首をかしげる中、あまり気にしない小鞠が紙袋の中から買ったばかりのフリルのついた可愛い黄色の下着を取り出し、私に見せながら言う。



「ほら、買って来たで。可愛いやろ~?」


「ちょ、ちょっとあなた! 何をしているのよ!!」


 慌てて赤髪のマリナが小鞠を止めに入る。自由奔放な彼女の行動は、ある意味真面目なマリナにとっては理解し難い。小鞠が言う。


「あんたも見せたればええじゃん。あのいやらしい真っ赤な下着。男ってそういうギャップみたいなとこ、好きなんやで」


「まっ……」


 一瞬で真っ赤になるマリナ。持っていた紙袋をぎゅっと胸に抱きしめ私から目を逸らして言う。


「べ、別に誰かに見せるために買って来たのではありませんわ。でも、あなたがどうしてもと言うのなららば、ちょっとだけなら考えてあげても……」



 それを見ていたマリエが小さくため息をつきながら、私の顔を手で背けるようにして言う。


「はーい、玄人はそんなの見ないで。小鞠ちゃんも、もう片付けて」


「えー、なんでや? うちは別にええのに……、そりゃまあ、スポーツブラじゃ男は誰も見てくれへんか」


「なっ!? 何言ってるのよ!!」


 マリエが一瞬で頬を赤く染め手にしていた紙袋を後ろに隠す。小鞠も仕方なしに下着を紙袋に入れるその隣で、妹の真凛が青い顔をして言った。



「あー!! お兄ちゃんのパンツ買うの忘れた!!」


「あっ……」


 皆が口を開け真凛を見つめる。さすがに私の下着を買うことは、家族である真凛に一任されていたようだ。仕方ない。一日ぐらい同じ下着で我慢するか。元々私が行程を勘違いしていたのも原因だし。



「大丈夫ですよ、先生」


 ずっと黙って皆のやり取りを見ていたライカが口を開く。それと同時に私の危険感知センサーが作動する。


「どういうことだ、ライカ?」


 思わず聞いてしまった。この後すぐに聞かなければ良かったと後悔する。ライカは鞄の中に手を入れ、ある白く折り畳まれた紙を取り出して言う。


「これ、履いてください」


「何だ、それは?」


「紙パンツです。サイズは先生にぴったりのものを準備してあります」



 静まり返る一同。私は頭を掻きながらライカに尋ねる。


「聞いてもいいか?」


「はい、何でしょう?」


「なぜ私のサイズぴったりの紙パンツを持っている? なぜそんなものを鞄に入れて携帯しているのだ?」


 皆の視線がライカに集まる。彼女は艶のある黒髪をかき上げ、知的な口調で答える。



「なぜってすべて研究のためです。これを先生に履いて頂いて、研究台の上に横になって貰って、紙の溶ける特殊な液体を……」


「分かった。もう十分だ」


 私は首を振りながら、悍ましいライカの言葉を制止する。別にいい。一日ぐらい洗わなくても問題ない。



「あの……、中に洗濯機と乾燥機がありますので、先輩がお風呂に入っている間に私が洗いますけど……」


「えっ」


 そう助け舟を出したのは黒のボブカットの万里子。顔を赤らめ、私のパンツを洗うと言っている。さすがにそれに真凛が食いついた。


「万里子さん、それは妹である私がやるから……」


「大丈夫です! さっき使い方も覚えてきましたから。私が洗います!!」


「あ、あの……」


 中学生の真凛。大人しいが、それでも年上の高校生に言われてはそれ以上言い返せない。マリエが前に出て言う。


「後輩にそんなことさせるのは良くないわ。幼馴染の私が洗ってあげる。さ、玄人、パンツ脱いで」


「ちょ、ちょっと待て。なぜ急にそうなる!?」


 マリナと小鞠も負けじと参戦。


「うちも洗濯得意や。ほれ、貸してみな」


「わ、私だって洗濯ぐらいできますわ! さ、は、早く……」


 収拾がつかなくなってきた。終いに変態ライカが私に言う。



「先生、早く紙パンツを履いてください。約束ですよ。早くしてください」


 なぜ私が紙パンツを履かなければならない? いつそんな約束をしたのだ!? ある意味追い込まれた私の手を取り、万里子が笑顔で言う。



「ねえ、先輩! あれ、乗りませんか?」


 そう指さす先にあるのは湖に岸に浮かぶ()()()型の浮遊物。到着した時から気になっていたのだが、あれは一体何だろうか。考える私の手を強引に引き、万里子が駆け出しながら言う。


「さあ、行きましょう!!」


「ま、待て!? そんなに強く引っ張る……」


 私の言葉が止まる。笑顔で駆け出す万里子。その横顔はまるで『マリ』そのもの。私は本能で彼女が喜んでくれるならそれでいいかと思った。

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