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35/42

35.そこはラブコメですので。

『マリ候補者』五名を乗せた大型SUVは、ライカの運転で湖畔のペンションに向け高速道路を快調に飛ばす。ある意味異様な雰囲気漂う車内。そんなことに気付かない私は、助手席に座り、今日の計画を立ててくれたライカに礼を言う。


「色々ありがとう、ライカ。本当に助かったよ」


 今更ながら私は、このような計画を立てるのがあまり得意でないことに気付いた。外出の計画はいつも『マリ』の仕事だった。今回それをライカが代わってくれたことになる。ライカが答える。


「いえいえ、先生の為ならいつでも!」


「でも君は色々忙しいんじゃないか?」


 ノーバル賞科学者のライカ。様々な分野で活躍している彼女は、こんな私の人探しに付き合っている暇などないはず。ライカが首を振って答える。


「私はいつでも暇ですよ。先生のお役に立てることが私の生き甲斐なんです!」


「そ、そうか……」


 普通なら喜ぶべきところなんだが、なぜか鳥肌が立ってしまったことについては、さすがに少々申し訳なく思う。



「ねえ、お兄ちゃん。本当に藤堂先生と仲がいいんだね。どうしてなの?」


 私の後ろに座った三名、真凛、マリエ、マリナのうち、真凛が私に尋ねる。当然のことだろう。ただの高校生があのノーバル賞科学者とこれほど仲が良く、『先生』などと呼ばれているのは不自然だ。私が答える。


「ああ、それは前に話してなかったかな。私は……」


 そんな私より先にライカがそれに答える。



「先生には色々と研究の手伝いをして貰っているの。あまり大きな声では言えないけど、先生は凄い発見とかしていてね。だから私も敬意を込めて『先生』って呼んでいるわけ」


 前を向き、黒いサングラスをかけたまま運転するライカ。変態だが、その姿は女性ながら『カッコいい』と言う言葉がよく似合う。真凛が嬉しそうに答える。


「そうなんだ! お兄ちゃん、いつも部屋でこそこそ何やってたかと思ったけど、すごいんだね!!」


「あ、ああ……、ありがとう」


 褒められているのかどうも微妙な気もしたが、誇らしそうな真凛を見て私も嬉しくなった。マリエが言う。


「そうだね。玄人は、誇り高きオタクだもんね」


「ああ、そうだな」


 そう、私は誇り高きオタク族。だが今は種族の壁を越え、皆と仲良くしたい。



「なあ、湖畔のペンションって、どのくらいかかるんや?」


 シート三列目。一番奥に座った万里子と小鞠。小鞠が大きな声で尋ねる。『湖畔のペンション』と言うイメージしか持っていない私に代わり、ライカが運転しながら答える。


「ええっと、大体四時間ね。ちょっとしたドライブになるかな」


「四時間? 結構遠いんやな。どこかのサービスエリアで休めるかな? この子、気分悪そうやで」


 そう言いながら隣に座る万里子を指さす。ロリータファッションに身を包んだ万里子が、半目になりぐったりしている。


「どうしたんだ?」


 そう尋ねる私に小鞠が答える。


「多分車酔いや。どっかで休憩したって。あと、席も前に替えた方がいいかもしれんな」


 青い顔をして今にも吐きそうな万里子。バックミラーで後ろを見ながらライカが答える。


「分かったわ。じゃあ次のサービスエリアで休憩しましょう」


 ライカはナビでサービスエリアの位置を確認し、車を飛ばした。




「大丈夫かしら?」


 数分後、大型サービスエリアに車を止めた私達は、車酔いでぐったりする万里子を見て心配する。前回、旅館からの帰りは特に車酔いもなかったのだが、やはり後部座席が良くなかったのか。隣に座ったままの小鞠が万里子のロリータ服を見て言う。


「この服も原因やろ。きつく締めすぎや」


 そう言いながら腰や胸をぎゅっと締め上げたまるでコルセットのような服に手をかける。可愛らしく紐で結ばれているが、確かにきつく締められているのが分かる。小鞠が言う。


「きつすぎや。ちょっと緩めたる。胸もこれじゃ苦しいやろ。酔うわけや」


 そう言いながら小鞠が万里子の服の紐を解き始める。高校一年ながら大人顔負けの大きさを誇る万里子の巨乳。露わになるその谷間に不覚にも私の視線はくぎ付けとなってしまった。



「こら~! 玄人。見ちゃダメでしょ!!」


 横にいたマリエが手で私の両目を塞ぐ。それほど真剣に見ていたのか。心配していた気持ちももちろんあったのだが。

 そしてその瞬間、私の頭に強い衝撃が走る。


 ガン!!


「痛っ!!」


 敵襲か!? 私はマリエの手を撥ね退け、構えつつ後方を確認。



(え?)


 そこに居たのは藤堂ライカ。何事もなかったかのようににこにこしている。


「どうしたのですか、先生?」


「いや、誰かが私の頭を攻撃して……」


「そんなことないですよ。私、ずっとここに居ましたけど誰もそんなことしていませんよ」


 他のみんなはぐったりする万里子を心配して誰も気付いていない。私は周りに怪しい者がいないことを確認してから、まだ痛む頭に手をやる。



(敵襲? いや、違うな。それより彼女の方が怪しい……)


 私はずっとにこにこと不気味な笑みを浮かべるライカを見つつ、首をかしげながら皆に言う。


「万里子は助手席に乗って貰おう。その方が酔いも少ないだろう。大丈夫そうか?」


 服も適切に調整された万里子が半目を開けて答える。



「はい、大丈夫です。ごめんなさい、私の為に……」


「いいで。気にせんでええ」


 隣で開放していた小鞠が万里子の黒髪を撫でながら答える。

 その後、万里子の回復を待って再び出発。彼女は助手席に、私は最後方席に座り今日集まってくれた皆を見つめる。



(ここで見つかると嬉しい。早く『マリ』に会いたい)


 私の想いはずっと変わらない。この世界に来たのも愛する彼女を探すため。強い決心と共に車窓から見える美しい自然の景色を私はじっと見つめた。






(意外と遠かったな……)


 車を走らせ四時間強。ようやく目的地である湖畔のペンションが見えてきた。隣県だと侮っていたが山深くあるこの立地条件を考えればそれも仕方がないことだ。今日の帰宅は遅くなるなと心配していた私だったが、その理想的なペンションを見てそんなことはどうでも良くなった。



「そっくりじゃないか!!」


 そう、愛する『マリ』と訪れた湖畔のペンション。白く気品のあったあの佇まいとまるで同じ。広く静かな湖。豊かな自然。最終的にはライカが決めてくれたのだが、まさに私の理想ぴったりであった。


「うわー!! 素敵!!」

「ええとこやな。空気が美味しいわ~」


 皆も気に入ってくれたようだ。ライカが言う。



「じゃあ、みんな。荷物下ろすの手伝ってね」


 大型SUVのトランクに入った大量の荷物。そのほとんどが食材やバーベキューセット。本当に何から何まで気の利く女性だ。変態だが。


「先生、このまままずは昼食のバーベキューにしましょうか」


「うむ。そうだな」


 時刻は午前11時過ぎ。準備を考えるとちょうどいい。ライカは皆に荷物の運搬をお願いし、バーベキューセットの準備に取り掛かる。



「ねえ、みんな」


 そんなライカが皆に尋ねる。



「みんな、なんかすごく荷物少なくない? それで宿()()できるの?」


「え?」


 皆の足が止まる。



「宿泊?」


 思わず私が尋ねる。今回は日帰りの小旅行ではなかったのか? 宿泊するつもりなど全くなかったし、無論そんな準備もしてきていない。ライカが口を開けて言う。


「そうですよ、先生! お渡しした旅行申込書にも書いてあったじゃないですか」


「りょ、旅行申込書……」


 そう、確かにライカから送られてきていた。ただそういう事務処理が嫌いな私は、パンフに映った写真だけ見て満足してしまっていた。勇者パーティ時代にもそういう交渉事は別の者が担当していたし、私生活においてはすべて『マリ』がやってくれていた。青くなる私に妹の真凛が言う。



「お兄ちゃん、どうするのよ! 私、何にも持ってきてないよ!」


 そう言う彼女は小さなポーチひとつ。マリナも言う。


「私も何もないですわ……」

「うちもや」

「玄人、私もないよー」


 私が頭を抱える。日帰りのつもりでいた。だから皆にそう伝えてあった。まさか宿泊だったとは。ライカに尋ねる。



「ライカ。日帰りは無理か……」


「無理じゃないですけど、ほんの少ししか……、お昼食べて片付けしてるとすぐに帰らなきゃならないです」


 それは辛い。そんな短い時間じゃ『マリ』を見つけるには不十分だし、そうなると折角皆を説得して企画した今回の小旅行の意味がなくなってしまう。考え込む私に青髪のポニーテールのマリエが言う。



「いいじゃん。泊まれば。私は大丈夫だよ!」


「マリエ……」


 いつも前向き。いつも元気な彼女が笑顔で言う。小鞠も金色の髪に手をやりながら言う。


「うちもええで。親からは早く『玄人をものにして来い』って言われているな」


「わ、私もかまいませんわ。あなたがどうしてもと言うならば……」


 ツンデレ族のマリナも賛同。真凛も頷いて言う。


「私ももちろんいいよ!」


 そして最後に大人しい万里子が俯いて言う。


「わ、私も大丈夫です……、はい……」


 ライカが安堵した顔で言う。



「じゃあみんな大丈夫ね? 良かった。さすがにまた運転は大変だからね」


 良かった。私のミスで大切な旅行が台無しになるところだった。ライカが言う。


「じゃあお昼食べてから買い出しにい行こっか。歯ブラシとかタオルとかの日常品。下着とかもいるでしょ?」


「そうやな」


 平然と答える小鞠以外の皆は顔を赤くして小さく頷く。



「先生、私は履かなくても大丈夫ですよ。確かお好きでしたよね?」


「な、何を言っているんだ! 私がいつそんなことを……」


 ライカの言葉に思い切り反応してしまった私。すかさず真凛が近づいてきて言う。


「お兄ちゃん! それどういうこと!?」


「どういうことも何も、私は無実だ……」


 だが一度かけられた疑いはなかなか晴らすことはできず、結局『下着を履かないのが好きな変態』と言うレッテルを貼られたまま準備へと移ることとなった。

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