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33.旅行準備完了!

 高校の保険室。科学医療の進んだこの世界なので、私はもっときちんとした治療が受けられるのかと思っていたのだが、残念だがここでは横になったり体温を測ったり、熱冷ましのジェルを額に貼ったりと言った初歩的な処置しかしてもらえなかった。


(それでも微熱で良かった……)


 ベッドの上で横になりいつの間にか寝息を立てる万里子。白衣を着た中年女性の治療師は、万里子のご両親に電話をすると言って出て行き不在。ふたりきりになったカーテンに仕切られた中で、私が万里子を見つめる。



(可愛い……)


 眼鏡を外した万里子は、やはり『マリ』を思わせるに十分な存在だった。顔はそれほど似ていない。だけど間違いなく私に『マリ』を感じさせる。申し訳ないと思いながら負ぶって運んだ時に感じた背中の感触。それも胸が大きかった『マリ』と同じだ。



「万里子……」


 私はベッドに横になったままの万里子の額に手を当て、体温を確認する。先ほどよりは少し下がっているのか、部室にいた時ほど熱くはない。

 ただ、ベッドに臥する姿はどうしても『マリ』の最期の姿と重なってしまう。


(ううっ……)


 不覚にも涙が溢れてきた。

 もう『マリ』を失いたくない。ふたりで、ずっとずっと一緒に幸せに暮らしたい。苦しみ、毎日ひとり闘病を続けた彼女に、私は何の力にもなれなかった。死線をくぐり抜け、魔王を倒した私。だがその先にあったのは、最愛の女性との別れと言う最も辛い出来事であった。



「もう、君を失いたくない……」


 私は無意識にベッドで横になる万里子の手を両手で握る。我慢しても滲む涙。私の脳裏に闘病生活で憔悴した『マリ』の顔が浮かぶ。


(何もしてやれなくてごめん。でも私はずっと君のことを心から……)



「愛してる……」


 感傷的になり興奮していた為か、握られた万里子の手が一瞬ビクッと動いたことに私は気付かない。だが彼女の手から伝わる体温。なぜか大量の汗と共にどんどん熱くなっていく。



「万里子……?」


 私は涙を拭い彼女の顔を見つめる。


「!!」


 顔が真っ赤である!? 先ほどまでは安らかな顔で眠っていたのに、突然の高熱と発汗で彼女が震えている。私はテーブルにあった濡れタオルを手に急ぎ彼女の顔を拭く。



「大丈夫か、しっかりしろ……」


 手が震える。単なる風邪ではないのか。まさか火族のマナか何かの暴走!? 必死に万里子の顔を拭く私に、小さな声が掛けられる。



「だ、大丈夫です。先輩……」


 万里子が目を開ける。私はとりあえずほっとしたが、額を触れるとまだ高温だ。


「大丈夫じゃないだろ、どうしたんだ? 急に……」


 万里子は再び顔を真っ赤にして黙り込む。私は想像以上に彼女の具合が悪いことを知り、前世で難病にもかかわらず無理して笑顔を作っていた『マリ』を思い出してしまった。


「大丈夫ですから、本当に……」


「無理はしなくていい。もうすぐご両親が迎えに来るそうだ。すぐに病院に行った方がいい」


「は、はい……」


 その後慌てて迎えに来た万里子のご両親と軽く挨拶をし、彼女はそのまま病院へ。ちなみにその夜、家に戻った万里子から連絡があり、結局()()風邪だったそうだが、あの高温は何だったのだろうかと私は首をひねった。

 彼女は一日だけ休み、また学校にやって来た。私は笑顔で彼女を迎え、そして湖畔のペンションへの話をしたところ、再び顔を真っ赤にしながら参加してくれることとなった。まだ完治していないのか? 私は万里子の早い全快を心から願った。






「すまなかった、小鞠」


 そんな訳で新田小鞠との約束は一日ずれた面会となった。駅前にある有名カフェチェーン店。以前彼女と会った同じ店。どろっとした果実ジュースの新作が出たとのことで、またもこの店での待ち合わせとなった。


「気にせんでええよ。ああ~、これすっごく美味いわ~」


 どろっとした果実ジュースの上にクリームが乗っている。とても美味しそうには見えないが、彼女はこのようなものが好きなのだろう。好物を前にすると蕩けるような笑顔になるのは『マリ』も同じ。私はコーヒーを片手に小鞠の幸せそうな顔を楽しむ。


「ありがとな、玄人」


 不意に感謝される私。


「何のことだ?」


「何のことって、お父さんの工場のことや。あれからすっごく順調みたいで、毎日忙しく働いとるわ」


 私はあのキノ何とかと言う会社の、何とかと言う人物がきちんと約束を守ってくれたことにほっとした。正直そんなことは半分忘れていたのだが、小鞠が嬉しいのなら私も嬉しい。



「んで、今日はどうしたんや? カフェデートか?」


 あらかた果実ジュースを飲み干した小鞠が私に尋ねる。カフェデート。悪くないが、今は別の用事がある。


「いや、ちょっと小鞠に付き合って欲しいと思ってね」


「何言ってんの? もう、うちら付き合ってんじゃん」


(??)


 私は彼女の言葉の意味がよく分からなかった。ただ本題はきちんと伝えなければならない。


「実は週末に湖畔にあるペンションを予約してね。そこに小鞠を誘いたいんだ」


 私の話を聞いた小鞠が、金色の髪を何度も手で触りながら答える。


「ええで、ええで。そこでうちとエッチなことするんやな。ロマンチックじゃん。好きだよ、そう言うの」


「違う」


 彼女はまだ『新田小鞠』。もし小鞠が『マリ・アンジェラス』ならば、私は躊躇なくふたりでそのような熱い夜を過ごすだろう。小鞠がやや不満そうな顔で言う。



「なんでや? うちのこと好きにしてええって言ったろ? うちはもう玄人のもんや。なんなら今からでもええで。ホテル、行こっか?」


 私は眉間にしわを寄せ困った表情で答える。



「小鞠、君は最近そればかりだな。そもそもそう言うのは愛すべき人間と行く場所だ」


 小鞠がやや恥ずかしそうな表情になり、テーブルの上にあった私の手を握りながら答える。


「うち、今な。そう言うのにすっごく興味あるんだ。まだよく知らんけど、色々教えて欲しいし。それにうちは玄人のこと好きやよ。大好きや」


 ギャル族とは意外と開放的な種族なのかもしれない。戒律が多そうなツンデレ族とは違うのであろう。小鞠の中に眠るかもしれない『マリ』。彼女が目を覚ましたなら、私は一日中彼女を愛でてやろう。



「それでどうする? ペンションへは来てくれるか?」


「その何とかって先生の講義は興味ないけど、美味いもん食えるんやろ? もち行くで」


「ありがとう。良かったよ」


 自分の他にも『運命の人』が来ることにはやや不満そうな小鞠であったが、最後は快く参加を決めてくれた。






「よし、準備は順調だな」


 家に帰った私は、湖畔のペンション旅行がすべて順調に進んでいることにほっとした。

 パソコンを開くと、ライカから旅行の申込書と今回の講演会のパンフがメールで送られてきていた。その他彼女が作ったスケジュール表にはレンタカーや昼食のバーベキュー、ディナーの準備まできちんと計画されている。さすがとしか言いようがない。この世界ではただの高校生である私。彼女が近くにいてくれて本当に良かった。


「色々なことがあったが、この旅行で私は必ず『マリ』を見つけ出す」


 知れば知るほど皆が『マリ』に見えてくる。それほど魅力的な女性たちばかりだ。記憶が不安定なのか、失っているのか、それとも何か特別な理由があるのか。いずれにせよこの私が彼女を見つけ出してやる。『マリ活』も終盤。私の願いは間もなく成就する。



「お兄ちゃーん!! ご飯だよ」


 真凛の声が聞こえる。私はそれに返事をしながら、近い未来『マリ』とふたりきりで食べる食事のことを思い、思わず笑みがこぼれた。

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