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19.藤堂ライカのお願い

 日も傾いた夕暮れ。とある港の廃工場に集まった数十台の改造バイク。ガラの悪そうなチンピラ達。その中でも最も人相が悪く、体の大きい総長を務める男に竜ヶ崎明が言った。


「後藤さん、ちょっとお願いが……」


 スキンヘッドにそり落とした眉。後藤と呼ばれた眼光鋭い男が答える。


「ああ? なんだ、明?」


 その気迫に明が一瞬体を震わせる。


「ちょっとやって欲しい奴がいて」


「やって欲しい? またかよ……」


 後藤が呆れた顔をする。竜ヶ崎総合病院の次男。彼がこの走り屋『夜明けのイナズマ』に顔を出すようになってから、もう数えきれないほど気に食わない奴を叩きのめしている。


「ええ。ちょっと顔のいい、いけ好かない奴でして……」


「今月の()()()、倍払え」


「え? 倍……」


 総長である後藤は部下達に、バイクの『ガソリン代』としていわゆる上納金を納めさせていた。金持ちである竜ヶ崎明は人よりも多額の上納金を払っていたが、それが倍になるとさすがの彼でも簡単には首を縦に振れない。



「嫌なら別にええ」


「あ、はい。払います。大丈夫です……」


 明は俯きながら自分を投げ飛ばしたあのイケメン高校生を思い出した。絶対に復讐がしたい。不敵な笑みを浮かべ頷く後藤。夜の廃工場にバイクの爆音が響いた。






「お兄ちゃん、いってらしゃーい! 気を付けてね!!」


 翌朝、学校へ向かう私に真凛が笑顔で見送る。昨日の二人でのお出かけから、彼女の視線の色が違っていることに私は気付かない。


「ああ、行ってくる。時に、真凛。ちょっと聞きたいことがあるんだが」


「え? なに??」


 綺麗に梳かれた茶色の髪。そして青色の大きくて澄んだ瞳。私は彼女の仕草のひとつひとつが『マリ』と重なる。



()()に恨みを買うような心当たりはないか……?」


「え? 僧侶!? お坊さんのこと??」


 驚きぽかんと口を開ける真凛。私はそれが何かを隠しているようにも見えた。


「ああ、そうだ。特に高位の僧侶。心当たりはないか?」


「ないない!! なんで僧侶なの!? お兄ちゃん、意味分かんないよ~」


 笑いながら否定する真凛。私の目にはそれがどうも不自然に映る。



「分かった。ないならいい。ただもしその時が来るのならば、私は()()を使ってでもお前を守る。じゃあ、行ってくる」


「え!? あっ、うん。いってらっしゃい……」


 妹は私を気遣っている。兄を巻き込みたくないと思う妹の優しさに触れ、思わず私の涙腺が熱くなる。

 しかし私は覚悟している。真凛を守るために魔法を使うことを。暴()族との全面戦争ですら受け入れることを。






 通学中、幼馴染の一ノ瀬マリエに会うことはなかった。陸上の大会が近いと言っていた。朝練と言う、早朝修行を行っているようだ。


(あっ)


 電車を乗り継ぎ、学校の正門近くに来た私の目に、その赤髪の美しい女性の姿が映る。


(百瀬マリナ!! ツンデレの)


 突発性細胞死滅症候群と言う難病を患っている彼女。ライカの手伝いもあり治療が進んでいるはず。私が声をかける。



「おはよう、マリナ」


 自然な挨拶。爽やかな笑顔。完璧だった。暴僧族との戦いの憂いを微塵も出さない完璧な挨拶。マリナが体をビクッと震わせ振り向き驚いた顔をする。


(うわ!? く、玄人君!! 好きっ!!!!)



「な、なによ。朝から、馴れ馴れしい……」


 マリナは相変わらず私に冷たいところがある。

 ただ思う。そう、あれはマリと同棲し始めた頃のこと。彼女は私に料理に使うクリームソースを買って来てと頼んだのだが、料理に疎い私、よく分からずクリームソーダを買って来てしまった。あの時マリはため息をつき、やはりこんな風に冷たく私をあしらった。



「体調はどうかな?」


 私は皆の視線を集めないようにマリナに近付き、小声で尋ねる。髪の色同様、顔を真っ赤にしたマリナが逃げるようにして私に言う。


「と、時々目眩とか動悸があるけど、全然問題ないわ! あなたには関係ないでしょ!! ありがとう!! 知らない!!」


 マリナはそう言い放つと、ひとり校舎の中へと消えていく。感謝されているのか嫌われているのかよく分からないが、怒った時のマリにそっくりだと私は感慨深くなった。




 トゥルルル……


 不意に私のスマホが鳴った。着信音からするに藤堂ライカ。私は鞄からスマホを取り出し画面を確認。やはり藤堂ライカ。朝から何の用だろうか。


「もしもし、私だ」



『おはよ~、クロード。()()だよ、元気~??』


 私は固まった。

 冗談としても悪質すぎる。顔が見えず声だけの相手。そっくりマリを模倣したような口調。私は強い口調で答えた。


「ふざけるな!! やっていいことと悪いことがある!!」


 私にとってマリを探す『マリ活』は、文字通り命を懸けている命題。それを他者に揶揄われるのは断じて許さない。ただそれと同時に、一瞬でも彼女の言葉を聞いて『マリ』を感じてしまった自分にも腹が立った。



『……ごめんなさい』


 口調から反省の色が強くみられる。


「もう二度とするな。いいな? ライカ」


『はい、すみませんでした。先生』


 私は小さく息を吐き、改めてライカに尋ねる。



「それで、一体どうしたんだ? 朝から」


 私は極めて冷静に尋ねた。


『はい。実は以前先生に教えて貰ったクロミジルの配合についてなんですが、どうやっても上手くいかなくて、お忙しいとは思いますが一度研究室に来てもらえたらなと思いまして……』


 クロミジルの配合については彼女にメールで詳細を送った。だが上手くいっていないらしい。私は少し考えたがライカには色々世話になっているし、邪険にするのもどうかと思った。


「分かった。君には旅館でも助けられたしな。いいだろう。いつがいい?」


『ありがとうございます! では今日の夕方迎えに行きます!!』


「了解した」


 ライカの研究室を訪れることにはやや身の危険を感じるのだが、まあ何かあれば灼熱魔法で焼き払えばいい。私はスマホを鞄にしまい校舎へと向かった。






「初めまして。国立素材研究所の所長の須鴨です。よろしく」


「初めまして。田中です」


 その日の夕方。私は読書部の早乙女万里子に今日は部に参加できないことを告げ、迎えに来たライカの車で彼女の拠点のひとつである国立素材研究所を訪れた。禿げ頭に眼鏡の須鴨がやや怪訝そうな表情で私の隣に立つライカに尋ねる。



「藤堂先生、若いとは聞いていましたが高校生とは。本当に大丈夫なのかね……」


 そう思うのも無理はない。何せここは国でも最高峰の研究所のひとつ。ノーバル賞のライカは別として、私のような何の功績もない若輩者が居ていい場所でない。前世の知識がなければまさに無縁の場所だ。ライカがむっとした顔で言い返す。


「研究に年齢は関係ないでしょ。それまでやって来たことが重要。違いますか?」


 まだ若いライカが、年季の入った禿げ頭の須鴨にそう尋ねる姿は私から見ても滑稽だ。とは言え彼女はこの若さで驚くほどの実績を重ねてきている。須鴨が言う。



「分かりました。では早速こちらへ」


 私は須鴨とライカの後に続き彼らの研究室へと入る。



(うむ。これはすごいな)


 この世界は科学技術の発展した世界。広い部屋の中に、見たこともないような機器がぎっしり詰まっている。白衣を着た研究員たちがこちらの存在に気付き会釈する。須鴨もライカもここでは特別な存在。ただ今は彼ら以上に『高校生』である私に好奇の視線が向けられる。



「先生、これです」


 ライカが私に小皿に入った幾つもの粉末状の鉱石を差し出す。私は小皿に張られた鉱石名と色を見てひとまず安堵した。前世と同じだ。


「分かった」


 私は黙って配合を行う。随分前なので記憶を辿りながらだが、魔法を干渉させなくていい分、作業は楽だ。数十分後、私が配合を終えた鉱石の粉をライカに渡す。



「これでやってみてくれ」


「はい! ありがとうございます。先生」


 須鴨は呆気に取られていた。

 何の資料も見ずに計量器具だけで配合を行う。普通の高校生ならその鉱石名ですら分からないはず。私は今行った配合を素早くメモ用紙に書き記しライカに手渡す。



「これが配合だ。ただなぜ君のような優秀な人間がこんなこともできないのだ?」


 魔法はいまいちだが、彼女は私よりもずっと頭脳明晰。この程度の配合ができないはずがない。ライカが苦笑して答える。


「私はこの程度の人間ですよ。ひっくり返っても先生の足元にも及びません」


「ふっ、冗談を」



「あ、ありがとう。田中君。助かったよ……」


 未だ半信半疑の須鴨。剥げた頭に大粒の汗が流れている。そしてこの後彼は知ることになる。完成したクロミジルの驚くべき性能を。



「先生、家まで送りますね」


「ああ、頼む」


 私は須鴨に挨拶をして研究所を後にする。



「この後時間ありますか? よかったら私と……」


「いや、すぐに帰る。送ってくれ」


 そう答えた私。その時不意にスマホが鳴った。



(ん? 真凛?)


 相手は妹の真凛。私は嫌な感覚を覚えた。



「どうした、真凛?」


 私がスマホを手に尋ねる。だが返ってきた答えは意外なものであった。



『田中真凛を預かった。お前兄貴だろ? 港の廃工場まで来い』


 私の背中に衝撃が走った。

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